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第62話

千早ちはや理子りこの部屋は、厚いカーテンで覆われ、薄暗かった。彼女はベッドに横たわり、苦しそうに息をしていた。


「くっ…」


彼女の体からは黒いもやが漂い、時折赤い光が混じる。まるで彼女の体の中で、何かが暴れているようだ。


『さあ…力を受け入れよ…』


頭の中で響くイシュタリアの声。


『お前の憎しみを…力に変えよう…』


「憎しみ…?」


理子の頭に、天音の姿が浮かんだ。晴翔の隣で笑う天音。二人だけの特別な空間にいるような、あの兄妹。


「私は…」


理子の心に、今まで抑えていた感情が湧き上がる。


「天音さんが…うらやましい…ずるい…」


『そう…おまえの願いは…かなう…』


「朝霧くんは…私のものなのに…」


彼女の目が赤く光り始めた。


『彼を手に入れるのだ…邪魔するものは…排除して…』


「排除…」


理子の唇から漏れる言葉。人形のように虚ろな表情で繰り返す。


「天音…排除…」


彼女の周りの黒い靄が濃くなり、部屋全体に広がり始めた。窓から見える空の虹色の靄とは対照的な、漆黒の闇。


そして、その闇の中で、理子の姿が少しずつ変わっていった…


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