天音の部屋。彼女はベッドで眠っていた。顔色は良くないが、呼吸は安定している。窓からは夕暮れの光が差し込み、部屋を橙色に染めていた。
「大丈夫なんでしょうか...」
美羽が心配そうに天音の顔を覗き込む。
「ええ、ただの消耗です」
叶絵が答えた。
「力を使いすぎて、体力を使い果たしたのです」
「なぜ暴走したんだ?」
直人が冷静に尋ねた。
「練習は順調に見えたが」
「限界を超えたからでしょう」
叶絵はベッドサイドに座り、天音の脈を確かめた。
「彼女の力は急速に成長していますが、それをコントロールする精神的強さがまだ追いついていない」
「強すぎる力は、諸刃の剣ですね」
蓮が静かに言った。
「僕にも似たような経験があります。予知能力が暴走して、一週間意識を失ったことが...」
「それって大変だったね...」
美羽が同情の目で蓮を見た。
「予知能力者は稀ですからね」
叶絵も蓮に関心を示した。
「あなたの家系は、代々その能力を持っているのですか?」
「はい、でも僕の代で薄まってきていると...」
晴翔はそんな会話を半ば聞き流しながら、姉のベッドサイドに座り続けていた。彼女の手を握り、額に手を当てる。熱はない。ただの疲労だ。
「お姉ちゃん...無理させてごめん」
彼は小さく呟いた。
「彼女は強い」
叶絵が晴翔に向き直った。
「あれだけの力を生み出せるようになるなんて、予想以上です」
「でも、暴走しちゃった...」
「それは予想していたことです。むしろ、ここまで持ちこたえたのが驚きです」
「...」
「次は大丈夫です。一度経験した暴走は、次回からはより制御しやすくなります」
晴翔は黙って頷いた。そのとき、天音がわずかに目を開いた。
「晴翔...み、みんな...」
「お姉ちゃん!」
「天音先輩!」
全員が彼女に近寄った。
「ごめんなさい...危ないことを...」
「気にしないで。誰も怪我してないから」
晴翔が優しく言った。
「それより、どう感じる? 体は?」
「疲れてる...でも、不思議と...力が増した気がする...」
天音はかすかに微笑んだ。
「ああ、それは良い兆候です」
叶絵が満足げに言った。
「暴走を経験し、抑制の感覚を知ることで、力の制御が上達するのです」
「本当ですか...?」
「はい。古文書にもそう記されています」
「それなら...良かった...」
天音は安堵の表情を見せた。
「でも、今日はもう休んでください」
叶絵はきっぱりと言った。
「明日からまた練習しましょう」
「はい...」
皆が部屋を出ようとしたとき、天音が晴翔の袖を引いた。
「晴翔...少しだけ...」
「分かった」
晴翔は他のメンバーに目配せした。
「少し話があるみたいだから、先に行っててくれる?」
「了解です」
蓮が頷き、美羽と直人を連れて部屋を出た。叶絵も静かに後に続いた。