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第64話

天音の部屋。彼女はベッドで眠っていた。顔色は良くないが、呼吸は安定している。窓からは夕暮れの光が差し込み、部屋を橙色に染めていた。


「大丈夫なんでしょうか...」


美羽が心配そうに天音の顔を覗き込む。


「ええ、ただの消耗です」


叶絵が答えた。


「力を使いすぎて、体力を使い果たしたのです」


「なぜ暴走したんだ?」


直人が冷静に尋ねた。


「練習は順調に見えたが」


「限界を超えたからでしょう」


叶絵はベッドサイドに座り、天音の脈を確かめた。


「彼女の力は急速に成長していますが、それをコントロールする精神的強さがまだ追いついていない」


「強すぎる力は、諸刃の剣ですね」


蓮が静かに言った。


「僕にも似たような経験があります。予知能力が暴走して、一週間意識を失ったことが...」


「それって大変だったね...」


美羽が同情の目で蓮を見た。


「予知能力者は稀ですからね」


叶絵も蓮に関心を示した。


「あなたの家系は、代々その能力を持っているのですか?」


「はい、でも僕の代で薄まってきていると...」


晴翔はそんな会話を半ば聞き流しながら、姉のベッドサイドに座り続けていた。彼女の手を握り、額に手を当てる。熱はない。ただの疲労だ。


「お姉ちゃん...無理させてごめん」


彼は小さく呟いた。


「彼女は強い」


叶絵が晴翔に向き直った。


「あれだけの力を生み出せるようになるなんて、予想以上です」


「でも、暴走しちゃった...」


「それは予想していたことです。むしろ、ここまで持ちこたえたのが驚きです」


「...」


「次は大丈夫です。一度経験した暴走は、次回からはより制御しやすくなります」


晴翔は黙って頷いた。そのとき、天音がわずかに目を開いた。


「晴翔...み、みんな...」


「お姉ちゃん!」


「天音先輩!」


全員が彼女に近寄った。


「ごめんなさい...危ないことを...」


「気にしないで。誰も怪我してないから」


晴翔が優しく言った。


「それより、どう感じる? 体は?」


「疲れてる...でも、不思議と...力が増した気がする...」


天音はかすかに微笑んだ。


「ああ、それは良い兆候です」


叶絵が満足げに言った。


「暴走を経験し、抑制の感覚を知ることで、力の制御が上達するのです」


「本当ですか...?」


「はい。古文書にもそう記されています」


「それなら...良かった...」


天音は安堵の表情を見せた。


「でも、今日はもう休んでください」


叶絵はきっぱりと言った。


「明日からまた練習しましょう」


「はい...」


皆が部屋を出ようとしたとき、天音が晴翔の袖を引いた。


「晴翔...少しだけ...」


「分かった」


晴翔は他のメンバーに目配せした。


「少し話があるみたいだから、先に行っててくれる?」


「了解です」


蓮が頷き、美羽と直人を連れて部屋を出た。叶絵も静かに後に続いた。


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