部屋に二人だけが残された。夕日の光がさらに赤みを増し、二人の影を壁に長く伸ばしている。
「晴翔...私...」
天音の目には涙が浮かんでいた。
「怖かった...」
「お姉ちゃん...」
「力が...私を飲み込もうとしてた...」
晴翔は姉の手をしっかりと握った。
「大丈夫だよ。俺がついてる」
「でも...もし制御できなかったら...みんなを傷つけてしまったら...」
「そんなことにはさせない」
晴翔はきっぱりと言った。
「抑制装置もあるし、俺もついてる。それに『天秤の守護者』全員がお姉ちゃんを支えるよ」
「うん...ありがとう...」
天音はほっとしたように息を吐いた。
「でも、あの時の感覚...まるで別の誰かになったみたいで...」
「どんな感じだったの?」
「体が熱くなって...心の中で何かが
天音は言葉を探すように間を置いた。
「そして、全てを見下ろすような感覚...全てを変えられるような...」
「『神』の感覚...か」
「うん...でも、それは私じゃない気がした...」
「お姉ちゃんは、お姉ちゃんだよ」
晴翔は力強く言った。
「力があっても、なくても、お姉ちゃんはお姉ちゃん。それは変わらない」
「晴翔...」
天音の目から涙がこぼれた。
「ありがとう...それを聞いて安心した」
晴翔は姉の涙を優しく拭った。
「さあ、休んで。明日も大変な一日になりそうだから」
「うん...」
天音は目を閉じた。疲れのせいか、すぐに寝息が聞こえ始めた。