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第65話

部屋に二人だけが残された。夕日の光がさらに赤みを増し、二人の影を壁に長く伸ばしている。


「晴翔...私...」


天音の目には涙が浮かんでいた。


「怖かった...」


「お姉ちゃん...」


「力が...私を飲み込もうとしてた...」


晴翔は姉の手をしっかりと握った。


「大丈夫だよ。俺がついてる」


「でも...もし制御できなかったら...みんなを傷つけてしまったら...」


「そんなことにはさせない」


晴翔はきっぱりと言った。


「抑制装置もあるし、俺もついてる。それに『天秤の守護者』全員がお姉ちゃんを支えるよ」


「うん...ありがとう...」


天音はほっとしたように息を吐いた。


「でも、あの時の感覚...まるで別の誰かになったみたいで...」


「どんな感じだったの?」


「体が熱くなって...心の中で何かが膨張ぼうちょうして...」


天音は言葉を探すように間を置いた。


「そして、全てを見下ろすような感覚...全てを変えられるような...」


「『神』の感覚...か」


「うん...でも、それは私じゃない気がした...」


「お姉ちゃんは、お姉ちゃんだよ」


晴翔は力強く言った。


「力があっても、なくても、お姉ちゃんはお姉ちゃん。それは変わらない」


「晴翔...」


天音の目から涙がこぼれた。


「ありがとう...それを聞いて安心した」


晴翔は姉の涙を優しく拭った。


「さあ、休んで。明日も大変な一日になりそうだから」


「うん...」


天音は目を閉じた。疲れのせいか、すぐに寝息が聞こえ始めた。

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