昼休み、屋上には五人が集まっていた。晴翔、天音、美羽、直人、そして
「これはいったい…」
晴翔が苛立ちを隠せない様子で言った。
「四天王が全員、この学校に潜入するなんて…」
「潜入ではないと思う」
蓮が静かに言った。
「彼らは堂々と現れた。これは…見張りだろう」
「見張り?」
美羽が首を傾げた。
「ええ」
天音が頷いた。
「ソフィアさんも『観察』と言っていたわ」
「僕のクラスにはジンが来ている」
蓮の表情が暗くなった。
「彼は…終始無言だった。でも、その目は常に僕を追っていた」
「あいつは危険だ」
晴翔が警告した。
「特に感情がないように見える」
「カナエ先生も…想像と違って、普通の先生みたいだったけど」
美羽が言った。
「でも、やっぱり怖いよね」
「アルバは相変わらずだ」
晴翔は毒づいた。
「あんな奴が同じクラスだなんて…」
「でも、なぜ今になって?」
直人が冷静に分析した。
「理子さんの件は一段落したはず。イシュタリアも封印された」
「そこが引っかかる」
蓮が言った。
「予知では…『これは始まりに過ぎない』という声が聞こえた」
「始まり…?」
全員が息を飲んだ。
「つまり、イシュタリア以外にも…」
晴翔の言葉を遮るように、屋上のドアが開いた。
「ああ、ここにいたか」
アルバが軽快な足取りで現れた。彼の後ろには、他の三人の姿もあった。カナエ、ジン、そしてソフィア。四天王が勢揃いだ。
「やあ、『天秤の守護者』のみんな」
アルバは手を振った。
「ちょっと話があるんだ」
「何の用だ」
晴翔が身構えた。
「落ち着きなさい、朝霧くん」
カナエが冷静に言った。
「敵対するために来たのではありません」
「じゃあ、なんで学校に?」
美羽が不安そうに尋ねた。
「それは…」
ソフィアが一歩前に出た。
「新たな危機が迫っているからです」
「新たな…危機?」
天音が小さな声で繰り返した。
「ええ。イシュタリアは一時的に封印されましたが、『旧神』はそれだけではありません」
「何を言っている…?」
晴翔の声が震えた。
「イシュタリアの封印は、他の旧神たちを
カナエが続けた。
「彼らも動き始めています」
「他の旧神…」
直人が眉をひそめた。
「何体いるんだ?」
「主要なものは七柱」
ソフィアが答えた。
「イシュタリアはその一つに過ぎません」
「七つも…!」
美羽が声を上げた。
「そんな…一人で精一杯だったのに…」
「だから私たちがここにいる」
アルバが珍しく真面目な表情で言った。
「組織が決定したんだ。天音さんを保護し、共に戦うことを」
「保護…?」
天音は驚いた表情を見せた。
「敵ではなく、味方になるということですか?」
「そういうことだ」
カナエがきっぱりと言った。
「あなたの力は貴重です。新たな神として、旧神に対抗できる存在は他にいない」
無表情だったジンが初めて口を開いた。
「本当は…抹殺すべきだと思う」
その言葉に全員が緊張した。しかし、ジンは続けた。
「だが…命令は命令。貴様を守る」
「とても心強いね…」
晴翔が皮肉を込めて言った。
「信頼していただけなくて結構です」
カナエは冷静に答えた。
「しかし、事実として旧神が動き始めている。そして彼らの標的は天音さん。私たちは同じ目的を持つ者同士、協力すべきでしょう」
「ま、簡単に言えば、俺たちも転校生になったってことさ」
アルバが陽気に言った。
「これからは『天秤の守護者』と『四天王』で一つのチーム。面白くない?」
「全く面白くないね」
晴翔は不機嫌そうに言った。
「でも…協力するしかないのかな」
天音が静かに言った。
「もし他の旧神も現れるなら…私一人じゃ…」
「その通りです」
ソフィアが優しく微笑んだ。
「力を合わせれば、勝機はある」
蓮はじっと四天王を観察していた。
「変わった…以前とは違う」
「何が?」
直人が尋ねた。
「彼らの
「へえ、分かるんだ」
アルバが感心したように言った。
「さすが予知能力者」
「カナエさんも…」
蓮は続けた。
「迷いがある」
カナエの表情が一瞬、揺らいだ。
「…私個人の感情は関係ありません。任務を遂行するだけです」
「でも、その任務が変わった」
晴翔が指摘した。
「抹殺から保護へ。なぜ?」
「組織内の決定です」
カナエはそれ以上詳しく説明しようとしなかった。
「大事なのは、これからどうするかでしょう」
「そうだね…」
天音は深く考え込んでいた。彼女は四天王を見渡し、それから自分の仲間たちを見た。まるで二つの世界が交わり始めたような不思議な感覚。
「みんな…どう思う?」
天音は仲間たちに尋ねた。
「ううん、私は…」
美羽は躊躇いながらも、きっぱりと言った。
「天音先輩を守りたい! それが自分の役目だと思ってる! だから…敵じゃないなら…協力してもいいと思う」
「僕も同感です」
直人が冷静に分析した。
「論理的に考えれば、彼らの力を借りた方が勝算は高まる」
「僕は…」
蓮は四天王をじっと見つめた。
「彼らの言葉に嘘はないと思う。少なくとも今は…協力者だ」
晴翔は黙って考え込んでいた。彼の心の中で葛藤が続いていた。しかし、最終的に深いため息をついて言った。
「分かった…協力する。だけど」
彼は特にアルバとジンを鋭く見据えた。
「もし少しでもお姉ちゃんに危害を加えようとしたら、許さない」
「いい根性だ」
アルバが笑った。
「俺はそういう奴は嫌いじゃないよ」
ジンは無言で頷いた。その表情からは何も読み取れない。
「では、正式に協力関係を結びましょう」
カナエが提案した。
「放課後、詳細を説明します。今日は、叶絵も来ますから」
「叶絵さんも?」
天音が驚いた表情を見せた。
「ええ。彼女が全ての調整役です」
「それじゃあ…放課後、また屋上で?」
美羽が確認した。
「いいえ、危険です」
ソフィアが首を振った。
「学校は既に『敵』の監視下にあるかもしれません」
「敵って…他の旧神?」
天音が不安そうに尋ねた。
「あるいは、その使者たち」
カナエが答えた。
「私たちの集会場所は別に用意してあります。放課後、正門で待ち合わせましょう」
「分かった」
晴翔は渋々同意した。
「でも、授業は…?」
天音が心配そうに言った。
「心配ありません」
カナエは冷ややかに微笑んだ。
「私が教師として全て手配します」
「そこまで準備してるんだ…」
直人は感心したように言った。
「神狩り組織の能力は侮れませんね」
「それが任務です」
カナエはそう言い残し、四天王は屋上を後にした。残された五人は、複雑な感情を抱えながら、彼らの後ろ姿を見送った。
「これで、また状況が変わったね…」
蓮が静かに言った。
「ああ…」
晴翔は空を見上げた。虹色の
「新たな戦いの始まりか…」
彼の呟きは風に消え、昼休みを告げるチャイムが鳴り響いた。