妙典駅前に到着したとき、既に現場は
「あれが…使者?」
晴翔が広場の中央を指さした。そこには先ほどモニターで見た男が立っていた。近くで見ると、その存在感はさらに
「
アルバが低い声で言った。
「バビロニアの法の神の名を冠する者だ」
「何をする気だ?」
晴翔が眉を寄せた。
「さあ…」
その時、使者ハンムラビが
「停止しろ!」
カナエの声が響いた。彼女は何処からともなく現れ、ハンムラビの前に立ちはだかった。
「神狩り組織の者たちか」
ハンムラビの声は低く、まるで地の底から響いてくるようだった。
「久しいな…かつての同志よ」
「同志などではない」
カナエは冷たく言い返した。
「貴様の主人は既に過去の存在だ。この世界に干渉する権利はない」
「権利?」
ハンムラビは不気味に笑った。その笑い声に、全員の背筋に冷たいものが走った。
「我らには権利など必要ない。力こそ全て」
彼はゆっくりと
「ほう…新たな『神』か。まだ若く、未熟だな」
天音は恐怖で身を固くしたが、晴翔が彼女の前に立ちはだかった。
「お姉ちゃんに近づくな!」
「哀れな人間が…」
ハンムラビは
「神の力の前では、塵に過ぎん」
「やめろ!」
カナエが叫んだ時には遅かった。ハンムラビが手を振ると、見えない力の波が晴翔を襲い、彼は数メートル後ろに吹き飛ばされた。
「晴翔!」
天音の叫び声が響く。そして、その瞬間—
「!」
天音の体から金色の光が爆発的に放たれた。その光は黒い
「ほう…」
ハンムラビは初めて驚いたような表情を見せた。
「予想以上だな」
「晴翔を…傷つけないで…!」
天音の声は震えていたが、その目は強い意志に満ちていた。
ソフィアが天音の横に立った。
「落ち着いて。呼吸を整えて」
天音は深呼吸し、心を落ち着かせようとした。彼女の周りの光が、より安定した
「よし。訓練通り、力をコントロールするのよ」
「はい…」
一方、アルバとジンはカナエの両側に立ち、ハンムラビに対峙した。
「帰れ」
カナエが命じた。
「ここは貴様の居場所ではない」
「違う」
ハンムラビはゆっくりと首を振った。
「我が主人、
「試す?」
「そう。彼女が本当に脅威になるのか、今のうちに確かめておく」
彼は再び
「覚悟せよ」
「全員、戦闘態勢!」
カナエの声に応じて、一同は構えた。
アルバは両手に炎のような赤い
美羽はどちらかというと戸惑った様子で、直人と共に少し後ろに下がった。二人は力はないが、何か役に立とうと懸命だ。
蓮は両手を前に出し、目を閉じて何かを
晴翔は地面から立ち上がり、よろめきながらも天音の側へと戻った。
「お姉ちゃん…」
「晴翔、大丈夫?」
「ああ…」
彼は肩をさすりながら、ハンムラビを見据えた。
「だが、こいつは只者じゃない」
「わかってる」
天音は胸のペンダントを握りしめた。
「でも…もう逃げない」
そう言うと、彼女は一歩前に踏み出した。金色の光が彼女の体を
「なるほど」
ハンムラビは興味深そうに観察していた。
「では、試そうか…お前の力を!」
彼が
しかし、その瞬間—
「させるか!」
カナエが前に飛び出し、剣を振るった。銀色の軌跡が黒い波を切り裂く。
「甘い!」
ハンムラビが再び杖を振ると、今度は地面から黒い
「危ない!」
蓮の
「これは持たない…!」
蓮の表情が苦しみに歪んだ。
「下がって!」
アルバが両手から炎の波を放ち、黒い槍の一部を焼き払った。しかし、次々と新たな槍が生まれる。
「くっ…」
ジンが翼を広げ、宙に舞い上がった。彼は空中から黒い光の弾を放ち、ハンムラビに向けて撃ち込む。
「無駄だ」
ハンムラビは黒い盾のようなものを展開し、攻撃を簡単に防いだ。
「もはや旧き神々の時代だ。人間など、従うべき存在に過ぎん」
「違う!」
天音の声が響いた。彼女は両手を前に突き出し、金色の光の大きな波を放った。
「この世界は…私たちのもの!」
金色の波が黒い靄と衝突し、まばゆい閃光が広場を覆った。
「なっ…!」
ハンムラビが初めて驚きの声を上げた。彼の盾が、天音の光によって
「くっ…予想以上だな…」
しかし、すぐに彼は体勢を立て直し、より強力な黒い波を生み出した。光と闇がぶつかり合い、駅前広場は異次元の戦場と化した。
「どうする…!」
美羽が不安げに叫んだ。
「このままでは広場が…!」
確かに、二つの力のぶつかり合いによって、周囲の建物にひびが入り始めていた。地面も大きく揺れ、まるで地震のようだ。
「天音さん!」
ソフィアが叫んだ。
「力を全開にしないで! コントロールして!」
「でも…!」
天音の表情が苦しげに歪んだ。彼女は必死に力を制御しようとしているが、ハンムラビの攻撃が強すぎる。
「このままじゃ…街が…!」
晴翔も歯を食いしばった。何とかしなければならない。しかし、この
その時—
「援軍到着!」
聞き覚えのある声とともに、黒いスーツを着た複数の人影が現れた。先頭には
「叶絵さん!」
晴翔の声に、叶絵は短く頷いた。
「組織の特殊部隊です」
彼女の後ろには十人ほどの精鋭部隊が控えていた。全員が黒いスーツを着て、特殊な装備を身につけている。
「天音さん、一旦力を引いてください!」
叶絵の指示に、天音は力を弱めた。すると、特殊部隊のメンバーたちが素早く陣形を整え、奇妙な装置を取り出した。それらが連動して作動すると、青白い光の網がハンムラビを
「何!?」
ハンムラビが驚いた表情を見せた。光の網が彼の力を
「古き神々の力を受け継ぐ者よ」
叶絵が厳かな声で言った。
「この現世に干渉する権利はない。去れ」
「愚かな…!」
ハンムラビは荒々しく抵抗したが、光の網は少しずつ彼を締め付けていく。
「くっ…今回は退くが…」
彼は最後の力を振り絞り、光の網を破って脱出した。しかし、その姿は既に薄れかけていた。
「覚えておけ。これは始まりに過ぎん。
そう言い残して、ハンムラビの姿は黒い
広場に再び静けさが戻った。黒い
「無事か?」
カナエが天音に駆け寄った。
「ええ…なんとか…」
天音は疲れ切った様子で、晴翔の肩に
「よくやった」
ソフィアが優しく微笑んだ。
「初めての実戦にしては見事だった」
「本当に? でも…街が…」
「心配ないわ」
叶絵が近づいてきた。
「組織が全て処理します。『ガス爆発による事故』ということになるでしょう」
「そう簡単に…」
直人は半信半疑だった。
「組織の力は侮れませんよ」
アルバは軽口を叩きながらも、その目は真剣だった。
「さて、みんな無事だよね?」
美羽がようやく緊張から解放されたように、大きく息をついた。
「あんなの初めて見た…怖かったぁ…」
「でも最後まで逃げなかった」
蓮が優しく言った。
「勇敢だよ、美羽」
「え? そ、そう?」
美羽の頬が少し赤くなった。
「さあ、ここは私たちに任せてください」
叶絵が言った。
「皆さんはアジトに戻り休んでください。特に天音さんは」
「はい…」
天音はぐったりとした様子で頷いた。初めての本格的な力の使用で、体力を使い果たしたようだ。
「いいね、お姉ちゃん」
晴翔は姉の肩を支えながら言った。
「よく頑張ったよ」
「うん…ありがとう」
天音は疲れた顔で微笑んだ。彼女のペンダントは、かすかに温かみを帯びて