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第77話

アジトに戻った一行は、それぞれソファや椅子に腰を下ろした。全員が戦いの緊張から解放され、疲労感に包まれている。


「ふぅ…今日はすごかったね」


美羽がぐったりとソファに横たわよこたわりながら言った。


「まさか本物の神様の使者と戦うことになるなんて…」


「あれは序の口です」


カナエが冷静に言った。


マルドゥクまるどぅくの力の一端に過ぎません」


「え? あれより強いの?」


美羽が飛び上がるように起き上がった。


「そんなの…無理…」


「だからこそ、訓練が必要なのよ」


ソフィアが天音の隣に座り、優しく語りかけた。


「今日の経験は、あなたにとって大きな一歩になったはず」


「はい…」


天音は少し元気を取り戻したようで、顔を上げた。


「不思議と…怖くなかった。むしろ…みんなを守りたいという気持ちで一杯でした」


「それが大切なことです」


ソフィアは微笑んだ。


「力の源は愛。守りたいという気持ちが、あなたの力を正しい方向に導くのです」


「でも、一つ疑問があります」


直人が眼鏡を上げながら言った。


「なぜハンムラビは突然現れたのでしょう? 単に天音先輩を『試す』ためだけなら、もっと慎重に行動するはずです」


「鋭い指摘ですね」


カナエが直人にあごわずかに上げた。


「実は…それが気になっていました」


「挑発かもしれない」


ジンが無表情で言った。


「我々の力を測るため」


「いや、それだけじゃないと思う」


アルバが珍しく真面目な表情で言った。


「彼らには何か別の目的がある。でなければ、あんな派手なやり方はしない」


「別の目的…?」


晴翔が眉をひそめた。


「例えば?」


アルバは一度ジンとカナエを見た後、ゆっくりと口を開いた。


「気を逸らすことかもしれない」


「気を逸らす…?」


「そう。我々の注意を引きつけている間に、別の場所で何かを進めている可能性がある」


「それは…考えられますね」


カナエも同意した。


「では、ハンムラビの目的は…」


蓮が静かに言った。


「私たちの監視の目を一点に集中させること」


「じゃあ、本当の目的地は…」


晴翔の言葉が途切れたとき、突然アラームが鳴り響いた。モニターが再び赤く点滅する。


「!」


カナエはすぐさまコンピューターに向かった。


「今度は…神社?」


「どこ?」


徳願寺とくがんじです」


「それって…」


天音が顔色を変えた。


「私たちの家の近く…」


「ハンムラビの狙いは気を逸らすことだった…!」


晴翔が立ち上がった。


「叶絵さんは?」


「まだ現場の後片付けに…」


「連絡を!」


カナエはすぐに通信機を取り出したが、繋がらない様子だ。


「ジャミングされています」


「くそっ…!」


「行くしかない」


晴翔は決意を固めた。


「お姉ちゃん、無理しないで。俺たちが行く」


「いいえ」


天音も立ち上がった。疲れはまだ残っているようだが、彼女の目には強い意志が宿っていた。


「私も行く。あれは私たちの大切な場所だもの」


ソフィアは少し考えた後、頷いた。


「分かりました。でも、無理はなさらないで」


「行くぞ、みんな」


カナエが命令を下した。


「最悪の事態に備えて」


全員が緊張した面持ちで頷いた。今度の戦いは、彼らの大切な場所を守る戦いになる。


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