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第79話

アジトに戻った一行を、叶絵が出迎えた。彼女は既に駅前の状況を収束させ、こちらに戻ってきたところだった。


「無事でよかった」


叶絵の冷静な表情の中にも、安堵の色が見える。


「状況を報告してください」


カナエとソフィアが出来事を説明する間、天音たちはソファで休んでいた。全員が疲労困憊だが、勝利の高揚感も残っている。


「すごかったね…」


美羽がぼんやりと天井を見上げながら言った。


「天音先輩、まるで本物の女神様みたい」


「そんなことないよ」


天音は照れたように首を振った。


「みんなのおかげだよ」


「いや、お姉ちゃんの力だ」


晴翔は真剣な表情で言った。


「俺たちは、ただ支えただけ」


「それが重要なんだ」


蓮が静かに言った。


「天音先輩の力は、みんなの絆から生まれる」


「そうかも…」


天音は胸のペンダントを握りしめた。そこには不思議と温かさが残っていた。


「でも、まだ分からないことばかり」


「それは時間をかけて解明していけばいい」


直人が冷静に言った。


「とりあえず今日は二度の戦いを乗り切った。大きな成果だ」


「そうだね!」


美羽は元気を取り戻したようで、勢いよく立ち上がった。


「お腹すいたなー! みんなでご飯食べに行こうよ!」


「今?」


晴翔が呆れたように言った。


「こんな状況で?」


「だからこそだよ!」


美羽は両手を腰に当て、自信満々に言った。


「戦いの後は栄養補給が大事なんだよ! 特に天音先輩!」


「確かに…少しお腹すいた」


天音も微笑んだ。


「お茶漬けとか…さっぱりしたもの食べたいな」


「いいアイデアだ」


ソフィアが会話に加わった。


「皆さん、良く頑張りました。休息も戦いの一部です」


「組織の者たちは?」


晴翔が尋ねた。


「彼らは引き続き警戒任務についています」


カナエが答えた。


「叶絵さんと私で交代しますので、皆さんはゆっくり休んでください」


「分かった。じゃあ、行こうか」


晴翔は立ち上がり、姉の手を取った。


「家の近くの定食屋さん、まだやってるかな」


「うん、行こう」


天音も立ち上がった。彼女はまだ疲れた様子だったが、顔には穏やかな満足感が浮かんでいた。


一行が部屋を出ようとしたとき、叶絵が天音を呼び止めた。


「天音さん、少しよろしいですか」


「はい?」


「これを」


叶絵は小さな端末のようなものを差し出した。


「何これ?」


「緊急連絡用です。何かあったらすぐに連絡できます」


「ありがとう」


天音は端末を受け取り、ポケットにしまった。


「それと…」


叶絵は少し言いづらそうに続けた。


「今日の出来事、特に境界の泉での…あなたには素質がある。それだけは確かです」


「素質…」


「ええ。真の『神』になる素質が」


叶絵の言葉に、天音は複雑な表情を浮かべた。


「でも、私はただの女子高生でいたいだけなのに…」


「それも含めてです」


叶絵は珍しく微笑んだ。


「普通であることを望む心。それこそが、力を正しく使える証です」


「そうかな…」


「明日からも、訓練を続けましょう」


「はい」


天音は決意を込めて頷いた。


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