アジトに戻った一行を、叶絵が出迎えた。彼女は既に駅前の状況を収束させ、こちらに戻ってきたところだった。
「無事でよかった」
叶絵の冷静な表情の中にも、安堵の色が見える。
「状況を報告してください」
カナエとソフィアが出来事を説明する間、天音たちはソファで休んでいた。全員が疲労困憊だが、勝利の高揚感も残っている。
「すごかったね…」
美羽がぼんやりと天井を見上げながら言った。
「天音先輩、まるで本物の女神様みたい」
「そんなことないよ」
天音は照れたように首を振った。
「みんなのおかげだよ」
「いや、お姉ちゃんの力だ」
晴翔は真剣な表情で言った。
「俺たちは、ただ支えただけ」
「それが重要なんだ」
蓮が静かに言った。
「天音先輩の力は、みんなの絆から生まれる」
「そうかも…」
天音は胸のペンダントを握りしめた。そこには不思議と温かさが残っていた。
「でも、まだ分からないことばかり」
「それは時間をかけて解明していけばいい」
直人が冷静に言った。
「とりあえず今日は二度の戦いを乗り切った。大きな成果だ」
「そうだね!」
美羽は元気を取り戻したようで、勢いよく立ち上がった。
「お腹すいたなー! みんなでご飯食べに行こうよ!」
「今?」
晴翔が呆れたように言った。
「こんな状況で?」
「だからこそだよ!」
美羽は両手を腰に当て、自信満々に言った。
「戦いの後は栄養補給が大事なんだよ! 特に天音先輩!」
「確かに…少しお腹すいた」
天音も微笑んだ。
「お茶漬けとか…さっぱりしたもの食べたいな」
「いいアイデアだ」
ソフィアが会話に加わった。
「皆さん、良く頑張りました。休息も戦いの一部です」
「組織の者たちは?」
晴翔が尋ねた。
「彼らは引き続き警戒任務についています」
カナエが答えた。
「叶絵さんと私で交代しますので、皆さんはゆっくり休んでください」
「分かった。じゃあ、行こうか」
晴翔は立ち上がり、姉の手を取った。
「家の近くの定食屋さん、まだやってるかな」
「うん、行こう」
天音も立ち上がった。彼女はまだ疲れた様子だったが、顔には穏やかな満足感が浮かんでいた。
一行が部屋を出ようとしたとき、叶絵が天音を呼び止めた。
「天音さん、少しよろしいですか」
「はい?」
「これを」
叶絵は小さな端末のようなものを差し出した。
「何これ?」
「緊急連絡用です。何かあったらすぐに連絡できます」
「ありがとう」
天音は端末を受け取り、ポケットにしまった。
「それと…」
叶絵は少し言いづらそうに続けた。
「今日の出来事、特に境界の泉での…あなたには素質がある。それだけは確かです」
「素質…」
「ええ。真の『神』になる素質が」
叶絵の言葉に、天音は複雑な表情を浮かべた。
「でも、私はただの女子高生でいたいだけなのに…」
「それも含めてです」
叶絵は珍しく微笑んだ。
「普通であることを望む心。それこそが、力を正しく使える証です」
「そうかな…」
「明日からも、訓練を続けましょう」
「はい」
天音は決意を込めて頷いた。