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第81話

朝日が妙典みょうでんの街を優しく照らし始めた頃、朝霧あさぎり天音あまねは窓辺に立って空を見上げていた。昨日の二度の戦いから一夜が明け、彼女の体はまだ倦怠感けんたいかんに包まれている。しかし、その目は以前より凛々りりしさを増していた。


「お姉ちゃん、朝ごはんできたよ」


朝霧あさぎり晴翔はるとが部屋のドアをノックしながら声をかけた。


「ありがとう、今行くね」


天音は胸元のペンダントを軽く握り、深呼吸した。昨日徳願寺とくがんじで出会った「前の神」の言葉が、まだ頭の中で反芻はんすうされている。


「私の後継者…か」


彼女は小さく呟いた。その意味するところは重いが、不思議と恐怖はなかった。むしろ、自分の中に確かな存在意義そんざいいぎを感じていた。


階下に降りると、晴翔が食卓に朝食を並べ終えたところだった。トーストにスクランブルエッグ、野菜サラダという定番メニューだが、いつもより少し豪華に見える。


「今日は張り切ったね」


天音は微笑みながら席に着いた。


「まあな」


晴翔はちょっと照れたように頬を掻いた。


「昨日はすごい一日だったし、栄養つけないとって」


「そうだね」


二人は「いただきます」と手を合わせ、静かに食事を始めた。


食べ終わった頃、晴翔がぽつりと言った。


「学校、今日は行く?」


「うん、行こうと思う」


天音はきっぱりと答えた。


「普通の日常を送ることも大事だって、みんなが言ってたから」


「そうだな。四天王も学校にいるし、安全は確保されてるだろうし」


「それに…」


天音は窓の外を見た。


「日常から逃げてちゃ、守る意味がないよね」


晴翔は姉の決意に満ちた表情を見て、思わず微笑んだ。たった一週間前までは力を恐れ、逃げようとしていた彼女が、今は前向きに受け入れている。成長というのは、時に驚くほど早いものだ。


「よし、行こうか」


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