「おはよー! 天音先輩、朝霧くん!」
美羽はいつもの元気な声で手を振った。その隣には
「みんな、おはよう」
天音は穏やかに笑顔を返した。
「先輩、体調はどうですか?」
直人が眼鏡を上げながら質問した。無骨ながらも彼なりの心配りだ。
「ええ、おかげさまで。少し疲れは残ってるけど」
「昨日のは本当にすごかったよ!」
美羽が目を輝かせながら言った。
「まるで本物の神様みたいだったよ! 光がバーッて出て、さらにあのお姉さんが現れて…」
「美羽、声が大きいよ」
蓮が穏やかに
「そういうことは、ここでは」
「あ、ごめん!」
美羽は慌てて口に手を当てた。
「興奮しちゃって…」
「気持ちは分かるよ」
晴翔も苦笑いしながら言った。
「俺もまだ夢みたいな気分だ」
五人は校内へと足を踏み入れた。校舎の中は、いつもと変わらない日常が流れている。昨日の戦いなど知らない生徒たちが、廊下を行き交い、談笑している。
「あれ?」
天音が首を傾げた。
「なんだか…みんなの様子が…」
確かに、周囲の生徒たちが五人の方をちらちらと見ていた。視線に恐れや憧れが混じっている。
「なんで?」
晴翔も不思議そうに周囲を見回した。
「あ…」
美羽が小さく声を上げた。
「もしかして…昨日の動画のこと?」
「動画?」
「ほら、昨日の
「え?」
天音の顔から血の気が引いた。
「撮影って…私たちの戦いを?」
「うん。でも、組織が削除依頼を出してるって、叶絵さんから連絡があったよ」
「だが、一度ネットに出たものは完全に消すことは難しい」
直人が冷静に言った。
「拡散されている可能性がある」
「まさか…」
晴翔が顔色を変えた。
「大丈夫か? このままだと身元が…」
「おはよう、皆さん」
突然背後から声がした。振り返ると、
「カナエ先生…」
天音が小声で言った。
「心配しないでください」
カナエは廊下の人目を気にしながら、静かに言った。
「動画の件は対処済みです。組織が特殊な技術で主要メディアからは削除しました」
「でも、噂は広まってる?」
晴翔が尋ねた。
「ええ、残念ながら。ただ、皆さんの正確な身元は特定されていません。『妙典の謎の集団』という程度です」
「それでもみんなの目が…」
「それは、転校生の噂と混同されているだけかもしれません」
「転校生…四天王のこと?」
「ええ。彼らは意図的に目立つ行動をとって、皆さんへの関心を逸らしています」
「なるほど…」
理解した晴翔は、少し安心したように肩の力を抜いた。
「放課後、アジトに集合してください」
カナエは低い声で続けた。
「重要な会議があります」
「はい」
全員が頷いた。
「では、授業を頑張ってください」
カナエはそう言い残し、教師らしく颯爽と廊下を歩いていった。
「じゃあ、また後で」
天音も別れ際に皆に手を振り、教室へと向かった。