空には不吉な雲が垂れ込め、夕陽は血のような赤色に染まっていた。
「お姉ちゃん、ちょっといい?」
背後から聞こえた弟の声に、天音はゆっくりと振り返った。
「ココア、入れたよ」
「ありがとう」
天音は微笑みながらカップを受け取った。温かい飲み物が手に伝わり、少しだけ心が和らいだ気がした。
「明日のことを考えてたの?」
「うん...」
天音は窓の外を見つめたまま答えた。虹色に染まった空の端には、東京タワーが小さく見える。明日、あの場所で全てが決まるのだ。
「怖い?」
「もちろん」
天音は素直に答えた。微かな笑みを浮かべながら、ココアに口をつける。
「でも、もう逃げないよ。みんなのためにも」
晴翔は姉の横顔を見つめながら、深いため息をついた。たった数週間前までは、ごく普通の兄妹だった。姉が「神」に選ばれ、自分がその「守護者」になるなんて、誰が想像しただろう。
「俺たち、正しいことしてるのかな」
突然の晴翔の問いかけに、天音は少し驚いた表情を見せた。
「どういう意味?」
「だって...旧神だって、かつては世界を支配してた『神』なんだろ?俺たちが本当に勝てるのか、そもそも勝っていいのか...」
晴翔の声には珍しく迷いが混じっていた。いつもは冷静沈着な弟が、今になって不安を見せるなんて。
天音はカップを窓際のテーブルに置き、弟の肩に手を置いた。
「晴翔...」
その時、部屋のドアがノックされた。
「入ってください」
晴翔の声に応じて、ドアが開く。現れたのは
「失礼します」
叶絵はいつもの黒いスーツ姿で、淡々とした口調で言った。
「明日の作戦についての最終確認です。全員集合していただけますか」
「ええ、もちろん」
天音が頷き、晴翔と共に彼女たちに続いた。