夜が更けていく。アパートメント妙典の一室で、天音は眠れずにいた。隣のベッドでは晴翔が静かに眠っている。明日の作戦のため、二人は同じ部屋で過ごすことになった。
「眠れないの?」
突然声がして、天音は驚いた。ドアの前に
「ソフィアさん...」
「少しよろしいかしら?」
「はい...」
天音は小さく頷いた。ソフィアはゆっくりと部屋に入り、天音の隣に腰を下ろした。
「怖いのね」
「はい...」
「当然よ。恐れることは恥ずかしいことじゃない」
ソフィアの声は優しく、まるで母親のようだった。
「私も昔、あなたと同じだった」
「同じ...?」
「ええ。若くして神の力を与えられ、世界の命運を背負わされた」
天音は驚いた表情でソフィアを見つめた。
「どうやって...乗り越えたんですか?」
「乗り越えたかどうかは分からないわ」
ソフィアは少し寂しそうに微笑んだ。
「ただ、自分にできることをやったまでよ。完璧な選択なんてなかった」
「私...正しい選択ができるか自信がないんです」
天音は膝を抱えるようにして座った。
「イシュタリアと対峙したとき、どうすればいいのか...」
「正解なんてないのよ」
ソフィアは天音の肩に手を置いた。
「あなたが信じる道を選べばいい。それだけ」
「でも、間違ったら...」
「間違いもまた人生の一部。それがあなたの人生を形作る」
ソフィアの声には、長い年月を生きてきた者の知恵が感じられた。
「天音さん、あなたには力がある。でもそれ以上に、大切なものを持っている」
「大切なもの?」
「ええ。愛よ」
ソフィアは晴翔の寝顔を見た。
「弟への愛、友達への愛、世界への愛...それがあなたの本当の力」
「愛...」
天音はペンダントを握りしめた。
「明日、何が起きるか分からない」
ソフィアは静かに続けた。
「でも、覚えておいて。あなたは一人じゃない」
「ありがとう...」
天音はソフィアに向かって深く頭を下げた。その時、彼女のペンダントが一瞬金色に輝いた。
「さて、もう遅いわ」
ソフィアは立ち上がった。
「少しでも休んだ方がいい。明日は長い一日になるわ」
「はい...おやすみなさい」
「おやすみ、天音さん」
ソフィアが部屋を出ていくと、天音は再びベッドに横になった。しかし、まだ眠れそうにない。彼女は窓際に立ち、夜空を見上げた。
明日は満月。全てが決まる日だ。
「私...選ばれたんだよね」
天音は小さく呟いた。
「でも、何のために?」
答えはない。ただ、満月に近づきつつある月だけが、彼女を見つめていた。