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第95話

午後三時。作戦さくせん開始の時間が近づいてきた。


「皆さん、集合してください」


叶絵の声に、全員が中央に集まった。


「最終確認です。作戦開始は午後五時。午後十時までに東京タワーの制圧を完了させなければなりません」


「何か変更点は?」


カナエが尋ねた。


「はい。新しい情報によると、一般客の退去作業はすでに始まっています」


モニターに映し出された東京タワーでは、スタッフが観光客を外に誘導している様子が見えた。


「組織が『設備点検』という名目で、密かに進めています」


「それは良かった」


ソフィアが安堵の表情を見せた。


「一般の人々を巻き込まずに済む」


「ただし、まだ全員が退去したわけではありません」


叶絵は厳しい表情で続けた。


「また、イシュタリアたちも動き始めています」


「どこに?」


晴翔が食い入るように画面を見た。


「まだ姿は見えません。しかし、タワーの周辺で不自然な気象現象きしょうげんしょうが確認されています」


モニターの映像が切り替わると、タワーの上空だけが異様にくらくなっていた。漆黒の雲が渦を巻き、時折紫色のいかずちが走る。


「あれは…」


天音が息を呑んだ。


「ええ、境界のゆがみの始まりです」


叶絵はうなずいた。


「旧神たちが、この世界に足を踏み入れようとしている証拠」


「じゃあ、作戦開始を早めるべきでは?」


直人が提案した。


「いいえ、まだです」


叶絵はきっぱりと言った。


「彼らの儀式は満月が天頂に達する時に始まる。それまでは準備段階。我々も万全の態勢で臨みましょう」


「分かりました」


全員が納得したように頷いた。


「では、各自、最後の準備を」


叶絵の言葉で、全員が動き始めた。それぞれの思いを胸に、覚悟をめながら。


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