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第97話

別の部屋では、晴翔が一人、装備そうびを確認していた。銀色の抑制よくせい装置を何度も点検し、通信機の調子を確かめる。


「準備万端?」


振り返ると、アルバがはしらに寄りかかっていた。いつの間にか入ってきていたらしい。


「ああ」


晴翔は短く答えた。アルバとはまだ完全には打ち解けていない。神狩り組織の人間であり、かつては敵だった彼への警戒心は残っていた。


「緊張してる?」


アルバが問いかけた。


「当たり前だろ」


晴翔はぶっきらぼうに言った。


「姉の命がかかってるんだから」


「そうだな…」


アルバは珍しく真面目な表情になった。


「実は、俺もなんだ」


「え?」


晴翔は驚いて顔を上げた。いつも軽薄なアルバが、緊張を認めるなんて。


「信じられないだろ?」


アルバは自嘲気味に笑った。


「いつもは『どうにかなる』って思考だけど、今回ばかりは…」


「わかるよ」


晴翔の声が少し柔らかくなった。


「こんな戦い、誰だって緊張する」


「でもな」


アルバは晴翔の肩を叩いた。


「お前の姉ちゃんは本物だ。あれだけの力を持って、それでも優しさを失わない」


「ああ、知ってる」


晴翔は胸を張った。


「お姉ちゃんは特別だ」


「だからこそ、俺たちも全力で守らないとな」


アルバはにっと笑った。


「まあ、そのために来たんだし」


「アルバ…」


晴翔は少し戸惑ったように彼を見た。


「なんで俺に?」


「さあな」


アルバは肩をすくめた。


「たぶん、同じものを見たからじゃないか」


「同じもの?」


「ああ、大切な人を守りたいという思い」


晴翔は黙って考え込んだ。アルバにも大切な人がいるのだろうか。それとも…彼自身が何か、守るべきものを見つけたのか。


「じゃ、行くぞ」


アルバは軽快けいかいに背を向け、ドアへと向かった。


「ああ」


晴翔もうなずき、最後の点検を終えた。


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