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第102話

「急いで!」


晴翔は天音の手を引いて、カフェの裏からタワーに向かって走っていた。


「でも、カナエさんとソフィアさんは?」


「二人なら大丈夫だ。俺たちは予定通り正面から入る」


「でも…」


「お姉ちゃん、迷ってる場合じゃない!」


晴翔の声には切迫感があった。


「計画では、俺たちが正面からタワーに入り、第二部隊と合流する。それが最善の策だ」


「…そうだね」


天音も決意を固め直した。


「行こう」


二人はタワーの正面入口に向かって走った。しかし、そこには巨大な黒い靄くろいもやが渦巻いていた。


「これは…結界?」


晴翔が立ち止まった。


「どうやって通る?」


「私が…」


天音はペンダントを握りしめ、目を閉じた。


「境界の泉の力で…」


彼女の周りに金色の光が広がる。その光が黒い靄くろいもやに触れると、一瞬だけ通路つうろが開いた。


「行くよ!」


二人は素早くその隙間すきまを抜け、タワーの中に飛び込んだ。




「なぜ…逃がした?」


カナエはオラクルの攻撃を受け止うけとめながら問いかけた。彼はあまりに強力なのに、本気で天音たちを追おうとしなかった。


「逃がしたのではない」


オラクルは笑った。


「誘い込んだのだ」


「!」


カナエとソフィアの顔から血の気が引いた。


「そういうことか…」


ソフィアがつぶやいた。


「タワーの中が…」


「そう。タワー全体が既に儀式の場だ」


オラクルは高々と宣言した。


「彼らは自らわなに飛び込んだ」


「それでもまだ、仲間たちがいる!」


カナエは怒りをにじませながら叫んだ。


「タワー内部には既に第二部隊が!」


「ああ、彼らもまたわなの中」


オラクルは嘲笑ちょうしょうした。


「全ては計画通りだ」


「何を企んでいる…」


ソフィアは不安な表情を浮かべた。


「あなたたちの望みは何?」


「望み?」


オラクルは首を傾げた。


「単純だ。この世界に『神の時代』を取り戻すこと」


「でも、なぜ天音さんが必要なの?」


「彼女は鍵だ」


オラクルは真剣な声で言った。


「新たな神でありながら、人の心を持つ存在。境界の両側に立てる唯一の者」


「そんな…」


「さあ、もう時間だ」


オラクルは空を見上げた。東の空に、満月が姿を現し始めていた。


「儀式の始まりだ」




「何かおかしい…」


タワー内部で、直人が不安そうに言った。


「あまりに静かすぎる」


四人は一階から上へと登っていたが、誰一人として敵の姿を見ていなかった。


「これは…」


蓮が突然立ち止まった。彼の顔は蒼白そうはくになっていた。


「みんな、待って」


「どうした?」


ジンが振り返った。


「この建物全体が…」


蓮は震える声で言った。


「儀式の祭壇さいだんになっている」


「何だって?」


アルバが驚いて声を上げた。


「そんなバカな…」


「間違いない」


蓮は床を指さした。よく見ると、床全体に銀色の粉で複雑ふくざつな模様が描かれている。壁にも天井にも、目に見えない魔法陣がきざまれているようだった。


「つまり…俺たちは…」


アルバの表情が固まった。


「そう」


ジンが冷静に言った。


「罠にまった」


「通信を!」


直人が慌てて通信機を操作した。


「叶絵さん!緊急事態です!タワー全体が…」


しかし、通信機からは雑音ざつおんしか聞こえなかった。


遮断しゃだんされている…」


彼はつぶやいた。


「どうする…」


「上に向かうしかない」


ジンは静かに言った。


「計画通り、天音さんと合流する」


「でも…」


「選択肢はない」


ジンの声は冷徹れいてつだが、どこか覚悟が感じられた。


「前に進むのみだ」


「了解」


全員が頷き、階段を上り始めた。


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