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第106話

タワーから脱出し、彼らは近くの公園に集まった。満月が空高く昇り、静かに彼らを見下ろしている。


「みんな、無事でよかった」


天音は安堵の表情で言った。


「まさかこんなに上手くいくとは」


カナエは少し驚いたように言った。


「あなたの力は、予想以上だったわ」


「私の力じゃない」


天音は首を振った。


「みんなの力だよ。一人じゃ、絶対にできなかった」


「そうね」


ソフィアは優しく微笑んだ。


「あなたが選んだ道は正しかった。力を制御し、人としての心を失わなかった」


「これで終わりなの?」


美羽が尋ねた。


「旧神たちは、もう来ないの?」


「完全に消えたわけではない」


ソフィアが静かに言った。


「彼らは再び封印されただけ。いつか…また目覚める可能性はある」


「でも、その時はまた」


晴翔が力強く言った。


「俺たちが立ち向かえばいい」


「そうだね!」


蓮も珍しく明るい声で言った。


「僕には見える…明るい未来が」


「統計学的に考えても」


直人が眼鏡を上げながら言った。


「我々が再び勝利する確率は十分に高い」


「そこまで言うなら、期待しちゃうなぁ」


アルバはにやりと笑った。


皆の表情が明るくなる中、カナエはふと天音に近づいた。


「聞きたいことがあるの」


「はい?」


「あなたは…選んだのね」


「選んだ?」


「神としての力を持ちながら、人間でいること」


天音はハッとした表情を見せ、少し考え込んだ。


「そうね…」


彼女はゆっくりと頷いた。


「私は『神』になるより、『人間』でいることを選んだ」


「でも、力は残っている」


「うん。でも、この力は…」


天音はペンダントを握りしめた。


「みんなを守るための力。決して支配するための力じゃない」


「そう…それでいい」


カナエは珍しく柔らかな表情を見せた。


「我々『神狩り』の役目は、暴走する神を止めること。あなたのような神なら…むしろ守るべき存在だわ」


「カナエさん…」


「さて、皆さん」


叶絵が全員に声をかけた。


「これからどうするか、決めましょう」


「どうって…」


晴翔は首を傾げた。


「もちろん、帰るんだろ?いつもの日常に」


「そうですね」


叶絵は少し微笑んだ。


「あなたたちは、普通の学生に戻る権利がある」


「でも…」


美羽が不安そうに言った。


「私たち、もう普通じゃないよね?『天秤の守護者』だし…」


「『天秤の守護者』は永遠よ」


ソフィアが優しく言った。


「ただ、平和な時代には、守護者も平和に暮らせばいい」


「そうだな」


晴翔は空を見上げた。


「俺たちの戦いは、今日で終わり…か」


「いいえ」


天音は静かに言った。


「始まりよ」


「始まり?」


「うん。本当の日常を守るための…新しい物語の」


彼女の言葉に、全員が頷いた。それぞれの心に、新たな決意が芽生えていた。


「さあ、帰りましょう」


ソフィアが言った。


「みんなが待っています」


東京タワーを背にして、彼らは歩き始めた。神への挑戦は終わり、新たな日常が彼らを待っている。


行く先には、まだ見ぬ困難があるかもしれない。しかし今、彼らは恐れていなかった。


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