タワーから脱出し、彼らは近くの公園に集まった。満月が空高く昇り、静かに彼らを見下ろしている。
「みんな、無事でよかった」
天音は安堵の表情で言った。
「まさかこんなに上手くいくとは」
カナエは少し驚いたように言った。
「あなたの力は、予想以上だったわ」
「私の力じゃない」
天音は首を振った。
「みんなの力だよ。一人じゃ、絶対にできなかった」
「そうね」
ソフィアは優しく微笑んだ。
「あなたが選んだ道は正しかった。力を制御し、人としての心を失わなかった」
「これで終わりなの?」
美羽が尋ねた。
「旧神たちは、もう来ないの?」
「完全に消えたわけではない」
ソフィアが静かに言った。
「彼らは再び封印されただけ。いつか…また目覚める可能性はある」
「でも、その時はまた」
晴翔が力強く言った。
「俺たちが立ち向かえばいい」
「そうだね!」
蓮も珍しく明るい声で言った。
「僕には見える…明るい未来が」
「統計学的に考えても」
直人が眼鏡を上げながら言った。
「我々が再び勝利する確率は十分に高い」
「そこまで言うなら、期待しちゃうなぁ」
アルバはにやりと笑った。
皆の表情が明るくなる中、カナエはふと天音に近づいた。
「聞きたいことがあるの」
「はい?」
「あなたは…選んだのね」
「選んだ?」
「神としての力を持ちながら、人間でいること」
天音はハッとした表情を見せ、少し考え込んだ。
「そうね…」
彼女はゆっくりと頷いた。
「私は『神』になるより、『人間』でいることを選んだ」
「でも、力は残っている」
「うん。でも、この力は…」
天音はペンダントを握りしめた。
「みんなを守るための力。決して支配するための力じゃない」
「そう…それでいい」
カナエは珍しく柔らかな表情を見せた。
「我々『神狩り』の役目は、暴走する神を止めること。あなたのような神なら…むしろ守るべき存在だわ」
「カナエさん…」
「さて、皆さん」
叶絵が全員に声をかけた。
「これからどうするか、決めましょう」
「どうって…」
晴翔は首を傾げた。
「もちろん、帰るんだろ?いつもの日常に」
「そうですね」
叶絵は少し微笑んだ。
「あなたたちは、普通の学生に戻る権利がある」
「でも…」
美羽が不安そうに言った。
「私たち、もう普通じゃないよね?『天秤の守護者』だし…」
「『天秤の守護者』は永遠よ」
ソフィアが優しく言った。
「ただ、平和な時代には、守護者も平和に暮らせばいい」
「そうだな」
晴翔は空を見上げた。
「俺たちの戦いは、今日で終わり…か」
「いいえ」
天音は静かに言った。
「始まりよ」
「始まり?」
「うん。本当の日常を守るための…新しい物語の」
彼女の言葉に、全員が頷いた。それぞれの心に、新たな決意が芽生えていた。
「さあ、帰りましょう」
ソフィアが言った。
「みんなが待っています」
東京タワーを背にして、彼らは歩き始めた。神への挑戦は終わり、新たな日常が彼らを待っている。
行く先には、まだ見ぬ困難があるかもしれない。しかし今、彼らは恐れていなかった。