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第110話

教室に降りてくると、そこには見慣れた顔が集まっていた。結城ゆうき美羽みう鴻上こうがみ直人なおと望月もちづきれん、そして珍しいことに南雲なぐも奈央なおの姿もあった。


「天音先輩!」


美羽が元気いっぱいに手を振った。


「遅いよー!みんな待ってたんだから!」


「ごめんね、時間を忘れてて…」


天音が謝ると、奈央が優しく微笑んだ。


「いいのよ、あなたらしいわ」


「で、何の用なの?」


天音が首を傾げると、みんなが顔を見合わせた。


「えっとね…」


美羽が少しはにかみながら言った。


「私たち、『天秤の守護者』の活動、どうするか話し合ってたの」


「活動?」


「そう、だってさ」


蓮が静かに言った。


「もうピンチは去ったけど、僕たちはまだ『守護者』なんだよね?」


「そうですね」


直人が眼鏡を上げながら言った。


「論理的に考えれば、脅威がなくなったとしても、備えは必要です」


「もう戦う必要はないけど…」


奈央も優しく言った。


「でも、何かあった時のために、一緒にいたいなって」


「みんな…」


天音は驚いた表情で皆を見回した。そして、その目に温かな涙が浮かんだ。


「ありがとう」


「泣くなよ〜」


美羽が慌てて天音の肩をポンポンと叩いた。


「実はね、今日は特別な日なの!」


「特別?」


「そう!『天秤の守護者』結成一ヶ月記念日!」


「え?」


天音が驚いた表情を見せると、美羽はクスッと笑った。


「まあ厳密には違うかもしれないけど、『天音先輩が神様だとわかった日』から一ヶ月ってことで!」


「正確には三十三日目ですが」


直人が少しマジメに訂正した。


「細かいこと言わないの!」


美羽は頬を膨らませた。


「気持ちが大事なんだから!」


「アハハ…」


天音は思わず笑ってしまった。みんなの様子が、あの戦いの前と変わらないことが嬉しくて仕方なかった。


「で、何をするの?」


天音が尋ねると、美羽は嬉しそうに手をパチンと叩いた。


「これから、お祝いのお茶会!」


「私が手作りケーキを持ってきたの」


奈央が笑顔で言った。


「生徒会室を貸してもらったから、そこで」


「じゃあ、行こうか」


晴翔が言った。


全員が教室を出て、廊下を歩き始めた。窓の外には、部活動に励む生徒たちの姿が見える。ごく普通の放課後の風景。でも、この「普通」を守るために、彼らはかつて命を賭けた。


「あ、そういえば」


歩きながら、美羽が突然思い出したように言った。


「『千早ちはや理子りこ』さん、もう退院したんだって!」


「ほんと?」


天音は嬉しそうに声を上げた。


「うん!来週から学校に戻ってくるらしいよ」


「よかった…」


天音は心から安堵した。イシュタリアに憑依ひょういされてしまった理子のことが、ずっと気がかりだった。


「イシュタリアの力が完全に消えたかは分からないんだけどね」


蓮が少し心配そうに言った。


「でも、少なくとも彼女自身は無事」


「それだけで十分よ」


天音はきっぱりと言った。


「あとは私が…みんなが守るから」


「おっ、天音先輩、かっこいい!」


美羽が目を輝かせた。


「まるで本物のヒロインみたい!」


「も、もう、そんな大げさに言わないでよ…」


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