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第116話

屋上は春の陽光に包まれ、風も心地ここちよい。五人は円になって座り、それぞれお弁当を広げた。


「みんな、いい?」


美羽が紙を取り出して、真ん中に置いた。


「これから私たちの未来について話し合うよ!」


「具体的には?」


晴翔が口におにぎりおにぎり頬張ほおばりながら聞いた。


「えっとね、まず高校卒業後のこと!」


美羽は元気に言った。


「私たちはバラバラになっちゃうのかな?それとも一緒にいられるのかな?」


「現実的に考えて」


直人が冷静に言った。


「大学や就職先によって、離れ離れになる可能性は高いですね」


「そんな!」


美羽は悲しそうな顔をした。


「『天秤の守護者』は、ずっと一緒じゃないと…」


「物理的距離と心の距離は別だよ」


蓮が優しく言った。


「離れていても、心は繋がっているもの」


「それもそうだけど…」


美羽はまだ納得していない様子だった。


「私は…」


天音がようやく口を開いた。


「みんなにはそれぞれの道があるって思う。でも、それでいいんじゃないかな」


「お姉ちゃん?」


晴翔が驚いた顔をした。


「だって」


天音は優しく微笑んだ。


「みんなには、それぞれのかがやく場所があるはず。その場所で精一杯かがやいてこそ、『守護者』の意味があるんじゃないかな」


「天音先輩…」


美羽は感動したように目を丸くした。


「なんだか、すごく格好かっこういい…」


「そうですね」


直人も珍しく素直に感心した様子で言った。


「各自が最適な場所で能力を発揮することが、統計的に見ても最も効率的です」


「でも、定期的に集まるべきだよね!」


美羽は元気を取り戻した。


「例えば年に一回とか!」


「それは良いアイディア」


晴翔が頷いた。


「毎年この日、集まろうよ」


「この日?」


「そう、『天秤の守護者』が結成された日」


「正確には…」


直人が言いかけたが、美羽に口を押さえられた。


「細かいことはいいの!気持ちが大事!」


全員が笑った。その笑い声は春の風に乗って、青空へとけていった。


「さて、では具体的な将来について」


直人が話題を戻した。


「みなさんは何になりたいのですか?」


「私は体育の先生!」


美羽が即答した。


「子どもたちに元気を与えられる先生になるの!」


「素晴らしい目標ですね」


直人は感心したように頷いた。


「私は…科学者を目指します。特に異次元理論について研究したいんです」


「異次元?」


晴翔が驚いた顔をした。


「ああ、『旧神』たちの世界のことか」


「そうです」


直人は眼鏡を上げながら真面目な表情で答えた。


「あの経験を科学的に解明したい。もちろん、機密は守りますが」


「僕は…」


蓮は遠くを見るような目で言った。


「心理カウンセラーになりたいんだ」


「カウンセラー?」


天音が驚いた顔をした。


「うん。僕の予知能力は完全じゃない。でも、人の心を少しだけ『先読み』することで、悩んでいる人の助けになれるかもしれないから」


「素敵な夢だね、占い師とかになったらめちゃ稼げそう」


天音は優しく微笑んだ。


「じゃあ、晴翔は?」


「俺は…」


晴翔は少しれくさそうに頬を掻いた。


「警察官かな」


「えっ?」


美羽が驚いた声を上げた。


「意外!」


「まあな」


晴翔は肩をすくめた。


「人を守る仕事がしたいんだ。『守護者』みたいに」


「かっこいいじゃない!」


美羽は目を輝かせた。


「ぴったりだよ!」


「で、お姉ちゃんは?」


晴翔が天音に視線を向けた。


「私は…」


天音はペンダントを握りしめ、穏やかに答えた。


「保育士になりたいな」


「保育士…」


「うん。子どもたちの未来を守る仕事。私の力も、きっとそこで活かせると思うから」


「そうですね」


直人が頷いた。


「お子さんたちの安全を守るのに、天音先輩の能力は適しています」


「それに」


蓮が微笑んだ。


「天音先輩の優しさは、きっと子どもたちに伝わるよ」


「ありがとう」


天音は照れくさそうに頬を赤らめた。


「でも、大丈夫かな…」


「何が?」


「私の力…このまま持ち続けていいのかな」


彼女の言葉に、全員が真剣な表情になった。


「それは…」


晴翔が静かに言った。


「お姉ちゃんが決めることだよ」


「そうよ!」


美羽も頷いた。


「でも、私は天音先輩の力は素敵だと思う!だって、みんなを守れるんだもん!」


「理論上も」


直人が分析的に言った。


「その力を制御できている限り、リスクより利益の方が大きいと考えられます」


「僕も」


蓮は優しく微笑んだ。


「天音先輩なら、その力を正しく使えると思う」


「みんな…」


天音の目に涙が浮かんだ。それはただの水滴ではなく、感謝と決意がざり合った輝きのようだった。


「ありがとう。私、決めたよ」


「決めた?」


晴翔が身を乗り出した。


「うん。この力は、みんなを守るために使う。でも、普通の日常も大切にする」


天音はきっぱりと言った。


「『神』であり『人間』でいる。それが、私の選んだ道」


「素敵な決断だよ」


蓮が静かに頷いた。


「応援するよ!」


美羽も元気よく手を上げた。


「僕も全力でサポートします」


直人も真剣な表情で言った。


「ありがとう…本当に」


天音はペンダントを握りしめた。その瞬間、微かな金色の光が彼女の周りに広がった。しかし、それはもう恐れるものではなく、彼女の一部として自然に存在していた。


「あっ、そうだ!」


美羽が突然立ち上がった。


「みんなで卒業後もお互いを感じられるように、何か約束の依り代が欲しいよね!」


「ヨリシロ?」


「そう。みんなが卒業して私と離れちゃうと、他の大人たちみたいに私を認識できなくなるの。でも約束のヨリシロがあれば大丈夫。例えば…」


美羽は考え込むように腕を組んだ。


「例えば…そうだ!同じブレスレットとか!」


「なるほど」


直人が頷いた。


「物理的な紐帯ちゅうたいのシンボルとしては理にかなっていますね」


「ブレスレット、いいね」


天音も笑顔で賛成した。


「作ろうか?みんなで」


「おお!それいいな!」


晴翔も乗り気になった。


「今度の休日にでも」


「じゃあ決まり!」


美羽は嬉しそうに手を叩いた。


「次の日曜日、みんなで手作りブレスレット作り大会!」


「やったー!」


全員が賛成の声を上げた。その時、チャイムが鳴り、昼休みの終わりを告げた。


「あ、もう時間だ」


晴翔が立ち上がった。


「午後の授業、頑張ろう」


「うん!」


みんなが弁当箱を片付け始める中、天音はもう一度空を見上げた。穏やかな青空の下、確かな未来が彼女たちを待っていた。


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