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第117話

週末、朝霧あさぎり家のリビングは賑やかな声であふれていた。テーブルの上には色とりどりのビーズや紐が広げられ、五人がそれぞれブレスレット作りに熱中している。


「あー!また切れた!」


美羽がくやしそうに声を上げた。


「三回目だよ?」


「私、器用じゃないから…」


「ほら、こうやって結ぶんだよ」


晴翔が手を伸ばして助けた。意外と器用な彼の手つきに、美羽は感心した様子。


「晴翔くん、上手いじゃん!」


「まあな」


彼は少し照れくさそうに肩をすくめた。


「小さい頃、お姉ちゃんのために色々作ってたから」


「えっ、そうだったの?」


天音も驚いた顔をした。


「そういえば、昔、誕生日に手作りのアクセサリーをくれたよね」


「覚えてたのか…」


晴翔は頬を赤らめた。


「もちろん!大切にとってあるよ」


天音は優しく微笑んだ。


「へぇ〜、兄妹愛だねぇ」


美羽はにやにやしながら言った。


「そういえば」


直人が話題を変えるように言った。


「千早さんは最近、学校に来ていますね」


「ああ、理子か」


晴翔も頷いた。


「元気そうだったよ。イシュタリアの件は完全に記憶から消えてるみたいだけど」


「それが一番いいのかもね」


天音は静かに言った。


「彼女には普通の高校生活を送ってほしいから」


「でも、時々天音先輩のことを、なんとなく覚えているみたいだよ」


蓮が不思議そうに言った。


「先日、廊下ですれ違った時、『なんだか懐かしい気がする』って」


「そうなの?」


天音は驚いた表情を見せた。


「うん。きっと魂の記憶なんだろうね」


蓮は穏やかに微笑んだ。


「大切なことは、心が覚えているものだから」


「そうかもね…」


天音もペンダントを握りながら頷いた。かつてイシュタリアに憑依ひょういされた千早ちはや理子りこ。彼女の心の奥底に、何かが残っているのかもしれない。


「さて、私のは完成!」


美羽が誇らしげに自分のブレスレットを掲げた。赤と白のビーズが交互に並び、元気な彼女らしいデザインだった。


「私も」


蓮も静かに完成を告げた。彼のブレスレットは淡い青と紫のビーズで、神秘的な雰囲気を漂わせている。


「私のも出来上がりました」


直人のブレスレットは規則正しく緑と黒のビーズが並び、彼の論理的な性格がよく表れていた。


「俺も終わったぞ」


晴翔のブレスレットは黒と赤のシンプルなデザイン。力強さとあたたかさが同居していた。


「じゃあ、私だけだ…」


天音は急いで最後の結び目を作った。彼女のブレスレットは金と白のビーズで、優雅さときよらかさを感じさせるデザインだった。


「これで全員完成!」


美羽が嬉しそうに手を叩いた。


「じゃあ、交換しよう!」


「交換?」


晴翔が首を傾げた。


「そう!お互いに作ったブレスレットを交換するの!そうすれば、ヨリシロ効果が高まるみたい」


「なるほど」


直人も納得した様子で頷いた。


「心理学的にも、物々交換には絆を強める効果があるとされています」


「いいね、それ」


蓮も笑顔で賛成した。


「じゃあ、くじ引きで決める?」


「うん!」


美羽は早速、紙を小さく切り、五人の名前を書き始めた。


「はい、みんな引いて!」


くじ引きの結果、美羽→蓮、蓮→直人、直人→天音、天音→晴翔、晴翔→美羽という順番で交換することになった。


「これが『守護者』の絆のしるし!」


美羽が嬉しそうに言った。


「みんな、ヨリシロの事大切にしてね!」


「もちろん」


全員が頷いた。そして、それぞれがもらったブレスレットを腕に付け、満足げに見つめた。


「なんだか、本当に繋がった気がする…」


天音が優しく言った。彼女の腕には、弟・晴翔からのブレスレットがめられていた。


「うん、不思議と温かい」


蓮も頷いた。彼の腕には美羽のカラフルなブレスレットが映える。


「物理的には常温なはずですが…」


直人も腕を見つめながら言った。彼が付けているのは蓮の青と紫のブレスレット。


「確かに、心理的な温かさを感じます」


「これで、どこにいても繋がってる!」


美羽も晴翔からのブレスレットを嬉しそうに見せた。


「離れていても、心は一緒!」


「ふふ、本当にそうだね」


天音は幸せそうに微笑んだ。

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