細い山道を少し進むと公園ほどの開けた場所に出る。そこには魔物が待ち構えていて、倒すと先に進むことができる。
そしてまた開けた場所で魔物と戦って――を繰り返すのが演習場の基本システム。
なるほど確かにダンジョンのようだ。まぁどちらかというと、一昔前のソシャゲのダンジョン味があるけれど。
俺はゴブリン、カッパ、デッドトード(デカいカエル)を授業で習った魔法で次々と撃破。
そして現在デスワームという化け物と戦っている。
「デスワアアアアアアアム」
「おっと――」
ムチのように迫りくる敵の攻撃を躱し、魔法発動の準備に入る。
「――フユーン!」
「デスワ!?」
魔法が命中し、デスワームの体が空中に浮かび上がる。そのまま魔力を注ぎ込み、空高く運んでから……落とす。
「デスワ……」
落下による衝撃でデスワームの体は光の粒子となって消えてしまった。
そして、地面にはデスワームの核となっていた魔石が転る。
「ええと。倒した魔物が落とした魔石は回収してオッケーなんだよな」
俺は十円玉サイズの魔石を広いポケットに入れた。見た目はまんまルビーみたいだ。高く売れそう。
「どうだ糸式。俺の魔法もなかなか様になってきただろ?」
「う~ん。なかなか可愛い魔物がいないわねぇ」
どうやらちゃんと見てなかったようだ。ペット兼使い魔候補が見つからずに険しい顔をしている。
「おいおいしっかり見ておけよ。俺がピンチになったら助けてくれる約束だぜ?」
「そのつもりだったんだけど……朝倉くん普通に強いから必要ないかと思って」
「おい」
しっかりしてくれよ。糸式が見守ってくれてるから思う存分戦えてるとこあるんだからな。
「私が助ける必要なんてないわよ。図鑑を見てみて。討伐リストってところ」
言われたとおりにモンスター図鑑の討伐リストを開く。そこには俺が撃破し召喚可能となった魔物の一覧が表示される。
「右上にEって表示されているでしょ。このEっていうのは一番弱いランクの魔物なの。だから朝倉くんなら余裕かなって」
糸式曰わく、魔物には強さに応じてランク付けが行われているらしい。
下からE、D、C、B、A……そして最上位にSランク。
「S以外はクラス分けと同じだな。ん? ということは、A組の連中はAランクモンスターと戦えるくらい強いって訳か?」
「そ、そんな訳ないじゃない!? Aランクモンスターは本物の化け物よ!?」
どうやらクラス分けと魔物のランク分けは関連はないらしい。(ややこしい!)
「学園を上位の成績で卒業して、その後専門機関で数年修行。そんなエリート魔法使いがチームを組んでやっと勝てるのがAランクモンスターよ。私たちにはまだ勝てないわ」
「でも糸式は魔物と戦闘経験があるんだろう? 純粋な興味だけどさ。一年生ランキング3位の糸式は、どの程度の魔物なら互角に戦えるんだ?」
「そうね……Cランクまでなら余裕。Bなら魔法の相性次第でワンチャンって感じかしら」
Cまでなら余裕と来たか。なるほどね。
「じゃあ俺もCランクと戦ってみたいな。早く先に進めようぜ」
「あら。この第一演習場にはEランクの魔物しかいないわよ?」
「え?」
「当然じゃない。初めて魔物と戦う人をCランクが出る場所に連れてくるわけないでしょ」
「言われてみれば確かに」
その辺、糸式は常識人だな。
とはいえ、入学から二週間。自分がどの程度糸式に近づいたのか見てみたいのは事実。
「なぁ糸式」
「何かしら?」
「糸式はCランクなら余裕で倒せるんだよな?」
「ええそうだけど……それがどうかした?」
「俺が今からCランクを呼びだして戦ってみるから、危なくなったら助太刀頼んでいいか?」
「構わないけど……え? Cランクの魔物を呼び出すってどうやって」
「まぁ見てろって」
さっき赤鬼のステータス数値をカンストまで上げたら、右上のランクアイコンがEからCになったんだよな。
コイツを呼びだして、俺と戦わせる。
「ええと、さっき拾った魔石を取り出して……っと」
赤鬼のアイコンをタップ。そして次に、呼び出す魔物の行動パターンを決めるらしい。
『攻撃タイプ』『防御タイプ』『使い魔タイプ』『演習タイプ』の四種類から選べるらしい。演習タイプを選択。
これで呼び出した本人――すなわち俺と戦ってくれるはずだ。
「これで準備は全てよし。じゃあ行くぜ。赤鬼――リアライズ!」
魔法の発動と共に幾何学的な魔法陣が広がる。その魔法陣に魔石を投げ入れると、俺の魔力が吸われ、中から赤鬼が出現する。
「ちょっと……何よこれ」
ぽかんとする糸式。無理もない。
俺が呼びだした赤鬼には子供のようだった原型は見る影もない。
身長は2メートルに伸び、筋肉も漫画の格闘家のようにムキムキ。皮膚の赤さもより鮮やかになった。
「いいね。まさに
「いや上手いこと言ってないで。朝倉くんこれどういう――」
糸式の言葉を遮るように真っ赤鬼が咆哮。
まるで森全体が揺れるようだ。少し怖い。
「オニイイイイイガガガ」
しかし迫力はあるものの、その動きはどこかぎこちない。攻撃は楽に避けられる。
無理やり適当に改造した弊害か……。
地面に振り下ろされた拳が作るクレーターを見るに、パワーは申し分なさそうなのだが。
「だからこそ当たったら致命傷だな。出し惜しみなしで行くぜ」
「どうするつもりなの朝倉くん? あれが本当にCランクなら、貴方の持ってる魔法じゃ勝ち目がないわよ!?」
強い魔物になると、人間が放つ魔法に対する抵抗力も高まるという。フユーンなどの搦め手は通用しづらくなるとのこと。
「なら圧倒的なパワーだろ」
俺はあらかじめ用意しておいた改良バレットの魔法を起動。これはインパクトと同じように魔力のリミッターを解除できるように魔法式を改造したものだ。
「魔力を沢山込めて――バレット!」
指先から、弾丸を越えたビームの一撃が放たれる。
「オニイイイイイイイ」
放った改造バレットの閃光は真っ赤鬼を上半身ごと吹き飛ばす。残った下半身はバタりとその場に倒れると、光の粒子となって消滅した。
「ふぅ……一応勝てたけど、敵の動きがぎこちなくてあまり参考にならなかったな。どうだった? 糸式の意見が聞きたいんだけど……うん? 糸式?」
振り返ると、糸式は難しい顔で頭を抱えている。
「具合でも悪いのか?」
「いいえ。私は正常よ。いま頭の整理をしているの。ええと、説明してもらえるかしら朝倉くん。今あなたがやったこと、初めから最後まで全部わからなかったんだけど」
「……? 難しいことは何もやってないぞ。ただ強化した赤鬼をリアライズさせて、同じく強化したバレットで倒した。それだけだ」
「強化って……どうやって?」
「そんなん、魔法式を書き換えたんだよ。ちょちょいと」
「魔法式を……書き換えた? ちょちょいと?」
糸式の「信じられないものを見た」って感じの表情を見て、なんとなく察する。
「ええと……魔法式の書き換えって魔法使いなら全員できるんだろ?」
「できないわよ! できるわけないでしょ! 朝倉くん……貴方一体何物なの!?」