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第20話 逆襲の金大寺

「ああ。件の一年生が無事解決したようだ。うん。集まってくれた風紀委員のみんなはバラしていいぞ。うん。ご苦労」


 偉そうなことを言いながら、生徒会庶務の天城銀河は通話を切った。


 澪里たちとAランクの改造スライムとの激闘をひとつ前のエリアから様子を見守っていた者たちがいた。


 糸式からの要請を受けた生徒会のメンバー、坂牧瀧音さかまきたきね。そして庶務にして学園最強の男、天城銀河てんじょうぎんがである。

 救出活動のために戦闘準備を終えて駆けつけたが、澪里と糸式でどうにかなりそうだったため、敢えて戦いの様子を見守っていた。


「いやしかし、まさか魔法式に干渉できる能力とはな」

「これで金大寺一年生との決闘も得心がいったな」

「ああ。まさに新時代の魔法使いって感じの力だ。ますますアイツと戦うのが楽しみになってきた」

「それもいいが、今日はちゃんと仕事をしてくれよ? これから彼らに事情を聞かなくてはならない……おや虹野理事長。どうされました?」

「なんか震えてるな理事長」


 そしてこの場には生徒会の二人の他にもう一人いた。


 七星学園の理事長にして、はじまりの七家・虹野家の現当主。虹野にじのティフォンヌである。


 生徒会の坂牧と天城がいればAランクの魔物など余裕で駆除できると二人を率いてやってきた理事長だったが、とある光景を目の当たりにしてから様子がおかしくなった。


「あああ……あああ魔法式の書き換え……あああ」ブツブツアワアワ


「あの……体調でも悪いのですか?」

「あの理事長がAランク程度にビビるとは思えないが……これじゃ使い物にならん」

「そうだな。聞き取りは私たちだけで済ませよう」


 理事長を置いて、天城と坂牧は澪里たちの方へと向かった。


「魔法式……書き換え……間違いない……時宮……転生……」


 彼の身体の震えは尋常ではなかった。


「記憶は……戻っているのか? もし戻ったら……我々は殺される」


 恐怖に震える理事長の呟きを聞く者はいなかった。


 ***


 ***


 ***


 あの後、生徒会長に事件のことを説明し、解散となった。


 改造スライムを暴走させた灰村先輩は謹慎や退学処分にはならなかったものの、大量のポイントを剥奪され、ランキングが大幅に下がることとなった。


「朝倉一年生。君の能力は素晴らしい。だがもし魔法を暴走させて被害を出せば……灰村二年生と同じかそれ以上の処罰が下る。それだけは憶えておいてくれ」


 と釘を刺された……のか?


 とはいえ、気を引き締める必要はありそうだ。大いなる力には責任が伴うとも言うしな。まぁ人に迷惑を掛けないのは大前提としても、自重するつもりはない。


「どしたんみおりん」

「メッチャ顔にやけてるじゃん」

「そうかな?」


 そして事件の次の日の放課後。

 隣の席のギャル二人に話し掛けられた。


 演習場に現れたAランクの魔物。そしてそれを俺と糸式が討伐したことは既に学園中に知れ渡っていた。そのお陰か影響力の点数が爆上がりし、俺は学年ランキングを大きく上げることに成功したのだ。



 名前:朝倉澪里 

 年齢:15歳 

 性別:男


 誕生日:3月3日 AB型


 学年ランキング:121位


 学力:70

 運動能力:80

 魔力量:―

 固有魔法:0

 影響力:70

 学内活動:12



「うわ凄い」

「時の人って感じだね」

「なぁ。我らが朝倉くんの活躍を祝して、今日はカラオケでぱーっと遊ばないか?」

「いいねそれー」

「ナイス~!」


「おいおい……」


 なんか勝手に盛り上がってますけどクラスの陽キャの人たち。


「みおりんも行くっしょ?」

「たまにはいいよね?」


 普段、放課後は勉強に使っているのだが……まぁたまにはいいか。こう思ってしまうほどに、今日の俺は浮かれている。


「じゃあ決まり。早くいこ」


 クラスメイト十名ほどで廊下を歩く。俺たちE組のランキングでは寮にあるカラオケルームは使えない。

 なので街まで繰り出す必要があるのだが、学園が山の中にある関係上、バスで一時間はかかる。

 門限も考えると、あまりのんびりはしていられないのだ。


「おい待てよ」


 その時だった。騒ぎながら廊下を歩いていた俺たちの前に一人の男が立ちはだかる。


「お前は……金大寺?」

「久しぶりだなぁ朝倉澪里。なんだぁ? お友達を引き連れて。有名人にでもなったつもりかよ」

「用がないなら行くぞ」


 ウザ絡みしてくるヤツの相手なんて時間の無駄だ。俺が横を通り過ぎようとすると。


「まぁ待てよ」

「なんだよ。離せよ」


 肩を強く掴まれる。


「用があるなら手短に済ませろよ」

「じゃあ単刀直入に言う。俺ともう一度決闘しろ」

「はぁ?」


 俺は肩を掴む金大寺の手を振り払う。


「俺になんのメリットがあるんだよ?」

「ぐっ……それは。わかった。お前が勝ったらなんでも言うことを聞いてやる。これでどうだ?」

「もしお前が勝ったら?」

「別になにもいらねぇ。俺の目的はお前に勝つことだけだ。どうだ? これならお前はノーリスクだろう?」


「み、みおりん……」

「どうするの?」


 金大寺にビビってすっかり大人しくなってしまったクラスメイトたちが不安げに話し掛けてきた。

 俺は考える。


 金大寺も糸式と同じはじまりの七家の人間。馬鹿じゃない。何か勝機があって決闘を申し込んできているに違いないのだ。


 では決闘は避けるべきか?


 答えはイエスだ。ヤツの狙いがわからない以上、相手の土俵に乗る必要はない。


 勝って金大寺になんでも命令できるというのはかなり魅力的だが、あの入学式の日とは状況が違う。


 あの日、アイツには驕りと油断があった。だが今は……きっと死に物狂いで勝ちを取りに来るだろう。

 いずれまた倒すべき相手であるが、それは今じゃない。


「悪いな……考えてみたけどやっぱりこの話はことわ――っ!?」


 断ろうとして金大寺の目を見て、はっとさせられた。


 今のコイツの目は、以前俺の昼食を床にぶちまけた時のものじゃない。


 何か……明確な決意のようなものを感じる。


「わかった。今日この後でいいか?」

「ああ。手続きは俺が済ませておく。一時間後、地下決闘場で待っている」


 そう言うと、金大寺は去って行った。


「なんだったんだよアイツ」

「み、みおりん……大丈夫そ?」

「悪いな。カラオケの約束してたのに」

「い、いいって」

「気にせんでもろて。七家の坊ちゃんの提案とか断れないっしょ」

「だね」


「それにしても金大寺のやつ、なんなんだよ。俺を恨んでいるって感じでもなさそうだったけど」


「あれ、朝倉くん知らないの?」


 俺の呟きに、クラスメイトの一人が反応した。


「うん?」

「彼、金大寺くん。君に負けてから他のA組に決闘を申し込まれまくったみたいでさ。連戦連敗らしいよ」

「なっ……」


 俺は急いで学園案内アプリの学年ランキングの項目を開く。


「30位……」


 入学初日、4位だった金大寺のランキングはA組最下位まで落ちていたのだ。


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