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第21話 理事長の思惑

「いよいよアイツとの再戦か。この戦いに勝って……俺は。俺は」


 何かしらの決意を胸に、金大寺巻志きんだいじ まきしは控え室を後にする。


「アンタは……」

「ハロー。久しぶりですね巻志くん」


 決闘場へ続く通路の途中、虹野理事長に出くわした。


「何の用だおっさん」

「金大寺家の跡取りが入学以来連戦連敗。何やら調子が悪いと聞いていましてね。しかも今日の対戦相手は今話題の朝倉澪里」

「大した用事じゃなさそうだな。俺は行くぜ」

「待ちなさい」


 理事長の言葉に、金大寺は立ち止まる。


「今の君の醜態を知ればお兄さんもさぞ悲しむでしょう」

「なっ……兄ちゃんは関係ない。これは俺の戦いだ」

「いや君だけの問題ではありませんよ。君が無様に負け続けるのは金大寺家、ひいてははじまりの七家全体の沽券に関わる」

「ぐっ……」


 そしてその時、金大寺のスマホにいくつもの魔法がインストールされた。


「これは?」

「私の権限であなたに強力な汎用魔法を授けました。これで必ずや朝倉澪里に勝利を」

「いいのかよ……教育者のすることかこれが?」

「ええ。優秀な生徒はより強力なバックアップを得られる。それがこの七星学園ですから」

「……」


 金大寺は少し考えるような仕草をした後、何も言わずに決闘場へと向かった。


「これでいい。朝倉澪里が本当に時宮天災の転生体なのか。彼を使って様子を見てみましょう」


 ***


 ***


 ***


『では、取り決めが終わったところでさっそく決闘を開始しよう。準備はいいか?』


 俺と金大寺が同時に頷く。


『でははじめ!』


 生徒会長の決闘開始の宣言。それと同時に、体に半透明のオーラが現れる。

 決闘する生徒を守る魔法。これにより、俺たちは思いっきり魔法を使うことができる。


「さてまずは……」


 あの時と違い、今の俺にはいくつかの攻撃手段がある。速攻をかけさせてもらうぜ。


「――バレット・連弾!」

「なんだと!?」


 俺は親指、人差し指、薬指の三本を金大寺に向けて魔法を発射。三本の指から連続で魔弾が発射される。


 魔法式を改造し一回の発動で連打できるようにしたバレットマシンガンだ。


 一発一発の破壊力は通常のバレットと同じになってしまうが、数発当たれば一気にライフを吹っ飛ばせる性能だ。


「ちっ――スタチュラ!」


 すかさず金大寺も魔法を発動。ヤツの魔力が決闘場全体に広がり、黒く輝く無数の鉄柱が出現する。


 俺の放った弾丸はすべて鉄柱に阻まれ金大寺には届かない。


「この範囲、この制圧力……汎用魔法じゃないな?」


「これは俺の固有魔法、製鉄魔法のスタチュラ。どうだ? これでお前の飛び道具は封じたぜ」


「待て待て。お前の固有魔法は武器化魔法のはずだろ!?」


「はっ。教えておいてやるぜ貧乏人。俺みたいなエリートにはなぁ。父親と母親。両方から受け継いだ固有魔法が使えるんだよ」


「そんなんありかよ!?」


「さぁお前の切り札は封じたぜ。今度は俺が――ウェポンズ!」


 吠えるように魔法を発動し、玩具の武器を巨大化させた。巨大化とはいっても、以前とは違い、今度は取り回しがしやすそうな双剣を持っている。フィギュアか何かから拝借したのだろうド派手な装飾の双剣を手に、金大寺が迫りくる。


「なるほど……アイツやるな」


 現在の決闘場はアイツの魔法で鉄の柱が無数に出現。さながら森のような障害物だらけのフィールドになっている。


 これによって俺の改造インパクトを封じつつ、俺の逃げ道を制限している。


 そして前回大ぶりの武器が当たらなかった反省からか、手数と扱いやすさ重視の短剣二刀流スタイル。


 金大寺のやつ……俺を倒すために全力で来ている……ヤバい、熱い。


「金属の柱は……ざっと三メートル四方ってところか」


 この限られた空間では絶対的に金大寺が有利。接近を許せばやられるだろう。


 授業で憶えた魔法により遠距離攻撃は充実したが、近接戦闘に特化した魔法はまだ知らない。


「なら打てる手はこれしかないだろ――」


「……ッ!?」


 スマホで魔法を準備する。金大寺が一時的にこちらを警戒し、動きが止まる。お、いいね。

 そのままじっとしていてくれよ。


「フユーン!」

「浮遊魔法……一体何を……なっ……嘘だろ!?」


 金大寺が驚き、観客席もどよめく。そのハズだ。


 俺は金大寺が呼びだした鉄柱全てにフユーンを使い、空中に浮かせた。


「馬鹿な……フユーンは一つのものにしか使えないはず」


 元々はそうだったのだが……そこは複数の物体を対象にとれるよう魔法式を改造させてもらった。


 もちろん浮かせる物体を増やせば増やすほど魔力コントロールの難易度はクソ高くなるが……そこは日頃の練習である。


「ち……クソがああああ」


 だが鉄柱がなくなったことで、俺と金大寺の間を阻むものは何もなくなった。


 双剣を構えた金大寺はまっすぐこちらに向かってくるが。


「それはちょっと迂闊だろ。俺の本当の狙いは……これだ!」


 俺は浮かせている鉄柱の何本かに掛かっているフユーンの魔法を解除する。すると。


「うおっあっぶねえええええ!?」


 鉄柱は金大寺の近くに落下。決闘場の床を抉り、消滅した。


「待て待て……これは冗談じゃなく当たったら死ぬって!」

「じゃあスタチュラを解除しろよ」

「はっ。テメェの誘いに乗るかよ!」

「なるほど……」


 金大寺は俺の脅しに屈せず突っ込んできた。正解だ。


 フユーンはただ上に浮遊させるだけの魔法。狙って落とすことなんてできない。なら金大寺の取る手段はたった一つ。


 俺に近づくことだ。


 そうすれば、自爆を恐れて俺はフユーンを解除できないし、フユーン使用中は他の魔法を発動できない。


 金大寺の勝ちとなる。


 だがそんなことは俺だって読んでいる。


「フユーン解除」

「なっ!? 正気かテメェ!? そんなことしたら……」

「ああ。鉄柱の雨だ。死ぬ気で避けようぜ金大寺」

「くっ……」


 殺意マシマシの鉄柱の雨を必死で回避する俺と金大寺。

 そして、全ての鉄柱が消え去った時。


「チェックメイトだ」


 俺はバレットの発動準備を終え、金大寺の背中に指先を押しつけた。


「ああ、俺の負けだ」


 金大寺はひたすら鉄柱を回避した。俺が一斉にフユーンを解除したと思ったからだ。


 だが実際は違う。俺は金大寺の背後を取れるよう立ち回りつつ、時間差をつけながら徐々に魔法を解除。そして次の魔法の準備をし、ヤツの背後をとった。


「はっ。強いなお前。バトルセンスがハンパないぜ。参った。降参だ降参」


『ただいま、金大寺巻志が降参を宣言。よって勝者、朝倉澪里!』


 数名の観客席からまばらな拍手が聞こえた。


「随分あっさりだな。さっきのお前からは鬼気迫るものを感じたんだが?」


「そうか? まぁ、ここんとこ負け続きでな。自分の本当の実力ってヤツを思い知らされた。だからこそ……お前と全力で戦いたかったんだ」


「……?」


 金大寺は苦笑しながら手を指しだしてきた。


「朝倉澪里。お前は強い。それはわかってた。だからこそ入学式の日のような舐めた戦い方じゃなく。今の俺の全身全霊で勝負がしたかった。今日はサンキューな」

「いや……俺もいろいろ勉強になった」


 俺は金大寺の手を取り握手した。


 コイツは多分、今よりもっと強くなる。そう確信する何か伝わってきた。


「金大寺……金大寺!」


 すると、決闘場に中年の男が現れた。この人は確か……理事長だったか?


「金大寺巻志。なぜ私の渡した汎用魔法を使わなかったのですか!?」

「悪いな理事長。俺は俺の力だけで勝ちたかった。それだけだ」

「かぁあああ。全く。馬鹿なことを。いいですか金大寺巻志。そんなことでは上にはいけない。差し伸べられた手を掴む者しか栄光は訪れないのです」


 一体何の話をしているのかわからなかったが……理事長が手を貸し、金大寺がそれを振り払ったことだけはわかった。


 へぇ……金大寺。なかなかやるじゃん。


「さて約束だ。煮るなり焼くなり好きにしてくれ」


 覚悟を決めたという表情で金大寺はこちらに向き直った。まだ何か言っていた理事長だったが、俺と目が合うと「ぴきゃ」と鳴いて離れてしまった。


 今は涙目になりながらこちらを見ている。


 あの人は一体何がしたいんだろう?


「さてどうするか」


 さっきまでは飯でも奢って貰おうかと思っていたんだが……。


「みおりんまだ取り込み中?」

「カラオケはもう無理だけど~」

「お菓子とジュースでも買ってラウンジで祝勝会する?」


 決闘を見守ってくれていたクラスメイトたちがこちらに降りてきた。彼らを見た金大寺が「そういやどっか遊びに行く途中だったんだよな。悪いな」と頭を下げた。


 そうだった。俺たちはカラオケに行く途中だったのだ。


 うん? 待てよ。


「決まった。俺からの命令」

「おっ。そうか。できれば軽いのに……い、いや男に二言はない。遠慮無く言ってくれ」

「カラオケしようぜ」

「は?」


 ここにいる全員がきょとんとしてしまった。


「A組が使える学生寮のカラオケルーム。俺たちに使わせてくれよ」

「そんなんでいいのか?」

「当然お前の驕りだぜ?」

「あ、ああ。そのくらいは払わせてもらう。でも、カラオケを使うなら俺も参加する必要あるんだが……」


 金大寺はちらりと俺のクラスメイトたちを見た。


「全然おっけー!」

「まきしーの歌聞きたい!」

「A組とE組の交友を深めよう!」


 七家の坊ちゃんということもあり廊下では金大寺相手にビビっていたクラスメイトたちも乗り気のようだ。流石陽キャ。


「ちっしゃあねーなぁ! じゃあ連れて行ってやるよ! A組のみが使えるVIPカラオケルームになぁ!」

「「「いえ~い!!!」」」


 ふぅ。これで一件落着だな。さてカラオケか。何を歌おうか。


 そう考えていると理事長が話し掛けてきた。


「私も参加した方が流れでしょうか?」

「いや、理事長は参加しない方がいい流れです」

「そうですか……」


 少し寂しそうにしながら理事長は去って行った。


 一体なんなんだあの人……。



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