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第22話 収納魔法

 ゴールデンウィークを間近に控えた四月下旬。


 ついにその魔法を習うときがやってきた。


「よし。全員魔法のインストールは終わったな? では魔法を使ってみろ。とは言っても今日は課題はないからな。まぁ、レクリエーションだと思って気楽に楽しんでくれ」


 今日教わる魔法は『ストレージ』という汎用魔法。


 あらかじめ登録した物体を異空間に収納しておき、好きなときに取り出せるという便利な魔法だ。


「わかっていると思うが悪用はするなよ。例えば店に売っているものを勝手に登録して収納し持ち帰るとか。魔法を悪用し一般社会に迷惑をかけた者は重罪となる。バレたらどうなる……なんて質問はするなよ」


 と、黒崎は教養を説きながら教室をグルグルと回る。


 まぁ悪用はないにしても、いろいろと面白そうな魔法ではある。


 例えばそうだな……この魔法を活用すれば、もう一生引っ越し業者にお金を払わなくて済むぞ! 


「って、こんな考えしか思い浮かばないの悲しみ」


 なんて言っている間に、クラスメイトたちは自分のものを出し入れして楽しんでいる。

 早く俺も……。ええと何にしようかな。


「まずはこのシャーペンだな」


 ストレージの登録機能を使い、シャーペンを登録。これにより、魔法がこのシャーペンをと認識した。


「じゃあいくぜ――ストレージ」


 手に持ったペンが何もない空間に吸い込まれていく……はずなのだが。


「あれ?」


 何も起こらない。


「ストレージストレージストレージ! ダメだ……」

「どうした朝倉?」

「いや先生……俺の魔法、上手くいかなくて」

「ふぅむ。ストレージの魔法を失敗するヤツなんて聞いたことないが。どれ。もう一度やってみろ」


 俺は何度もストレージを発動するが、シャーペンを収納することができない。


 登録がうまくいっていないのかと別の私物を登録してみても、やはり結果は同じだった。


「な、なんでだよ」


 正直、この魔法が今までで一番ワクワクしているまであるのに……!


「む、待てよ。朝倉、ちょっとスマホを貸してみろ」


 黒崎にスマホを渡す。すると……黒崎の顔が曇った。


「朝倉。お前、ストレージの魔法を使うのは今日が初めてだよな?」

「当然ですよ」

「入学前に使っていたことは?」

「知ってるでしょ? 俺、入試で初めて魔法を知ったんです」

「そうだったな……ではこれは……スマンが魔法をインストールし直してみるぞ」


 教師権限で魔法を削除。その後再インストールをしてみたが、黒崎の表情が晴れることはなかった。


「黒崎先生。何かわかったんですか?」

「む……ああ。非常に不可解なことなのだが……ストレージの魔法には、異空間に収納できる容量に限りがあることはさっき話したな?」

「はい」


 大体平均で倉庫一個分の容量が持てるらしい。


「その容量が埋まっているんだよ。全部」

「な、どうして!?」

「収録リストを確認してみろ」

「これは……」


 ストレージの魔法は、収納登録時に名前を設定することでスマホ画面で今収納されているものが何なのかすぐに判断することができる管理画面が存在する。


 そして俺のストレージ管理画面には、黒く塗りつぶされた文字で埋め尽くされているのだ。


「コワ~」

「超ホラーって感じ」


 いつの間にかクラスメイトたちも集まってきている。


「誰かが俺のストレージを勝手に使ってるってことですか?」

「いや……そんな話は聞いたことがない……一体何がなにやら……」


 あの黒崎が珍しく困惑している。本当に異常事態なのだろう。


「こうなったら……全部取り出して空にしてやる……って駄目だ。ロックがかかってる」


 よく見ればリストの横には鍵マークがついている。

 クソ……俺のストレージなのになんで自由に使えないんだよ。


「あ、見て見てみおりん。ひとつだけ鍵マークのない物があるよ!」


 その時、隣でスマホを除いていた忍崎(男)が声を上げた。


「本当だ。先生」

「ああ、それだけは取り出せるようだ。だが……注意しろよ」


 俺は頷いた。


 恐る恐る、ボタンを押しストレージから物体を取り出す。


「これは……本?」


 現れたのは一冊の本だった。恐ろしく豪華な装飾のされた大きな本。表紙の文字は魔法文字のようで、読むことはできなかった。


「なんだこれ魔導書か? ……っておい、開かないぞ?」

「カビてくっついちゃったんじゃない?」

「いや待て朝倉。不用意に触るな」

「え!?」


 珍しく慌てた黒崎の言うとおり、俺は爆発物でも扱うかのように丁寧に本を机の上に置いた。


「先生。これが何か知っているんですか?」


「間違いない。これは時宮奇書ときのみやきしょだ」


「ときのみやキッショ!?」


「時宮奇書だ」


 最強最悪の魔法使いとして知られる時宮天災ときのみやてんさい


 その彼が愛用したとされる最強の魔法が記された魔導書。それこそが時宮奇書と呼ばれる魔導書なのだ。


 だが時宮奇書は封印されており、魔法を使うことはおろか、中を見ることすらできない。

 魔法を使うためには、時宮奇書それぞれに課せられた試練を突破する必要があるという。


「試練の内容は奇書によって様々だ。記録だとその時に出現している中で一番強い魔物の前に転送されるとかなんとか。まぁ、不用意に触らないに超したことはないな。何せ、試練を突破できた者はひとりもいない」

「試練か……」


 時宮奇書。時宮天災由来の物品。


 その時宮の魔導書が俺のストレージから出てきた。ということは。


 俺は生前の時宮が所持していたアイテムをすべて引き継いでいるということだ。


 それが転生による副産物なのかはわからないし、現状その殆どがストレージから取り出すことはできない。


 だが、何かのきっかけでこれらが使えるようになれば……。


 って。いけないいけない。試練があるって言われたばかりだろ。


「どうする朝倉。歴史的価値のあるものだが……お前のストレージから出てきた以上お前の物だ。お前がいいなら、学園を通じて調査機関に提出するが?」

「いや……しばらく自分で持っておきます」

「うむ。それもいいだろう」


 そして、教室の空気が緩んだ。皆「珍しいもの見ちゃったねー」とひとしきりはしゃいだ後、魔法の練習に戻っていった。


「はぁ……」


 俺はため息をついて、時宮奇書に目をやる。


 ストレージという超便利魔法が実質使えないのは不便だが、それ以上の収穫があったような気がする。


 それに、魔法式をイジればもっと多くの物を取り出せるようになるかもしれないし、容量を増やすこともできるかもしれない。


「悲観するにはまだ早いよな。さて」


 本を仕舞おうとストレージを発動したその時。


 教室中に声が響いた。


『――試練のとき


「この声は……」


 入試の時に聞いた、老人の声。……いや。俺の前世、時宮天災の声だ。

 その瞬間、時宮奇書から凄まじい魔力が放たれ、俺の視界が真っ暗になる。


「なっ……!?」


「おいどうした朝倉!? 大丈夫か!?」


 黒崎先生やクラスメイトたちの声が遠くなっていく。

 そしてわずか数秒の後、俺は全くしらない場所に立っていた。


「ここは……」


 どこかの高原のようだ。どうやら俺は、どこか違う場所に転移させられたらしい。


 これも時宮奇書のせいなのか!?


 ってかこれって……試練が始まっている!?


『試練の刻。我が魔導書を使いたければ……足手まといを守りつつ、その領域を支配する魔物を倒すのだ』


 再び時宮天災の声。

 くそ勝手に始めやがって……ん? 足手まとい? 何のことだと思っていると。


「うぅ……ぐす……お兄ちゃん誰?」

「えぇ……マジか」


 小学生くらいの女の子が半泣きで俺の制服の裾を引っ張っていた。




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