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第2話 村を焼かないための反省会

「魔王、そもそも論なんだけど、俺に好かれたいなら村燃やすのやめない?」

「それは私も薄々気付いていた」

「まだ序盤の村から出てないの!?」


あれから何度目からの放課後。

まだソウは序盤の村から出られていないらしい。

当然のように部室に現れる魔王にも慣れてきた。


「俺はさあ!美少女(男)インフルエンサーとして、メンヘラに捕まるのだけは避けたいから徹底して金品のやりとりは断ってんだよ!」

「なんか違う話始まった」

「田中、メンヘラとは」

「あなたのことですね」

「私が?どういうことだ?」

「けど俺は男が好きなんだよ!イケメンは好きだけど別にイケメンじゃなくていい、男という存在が好きだし、この美とKAWAIIを世界中に与えることが俺の指名だと思っているから、彼氏という存在は何人いてもいい!!」


立ち上がって熱のこもった演説を始めるソウに対し、魔王はスマホでメンヘラというワードをググっていた。

ソウは壮大すぎるアホみたいなことを言っているけど、何を言っても許される顔面を所持しているせいで常に脳裏に「可愛いな」と浮かんでしまうことが悲しい。


「俺は誰でも歓迎なんだよ、世界中の男から惚れられて少子化が進んでも仕方ないとさえ思っている!俺は世界一美少女(男)だから!!」


その思考は魔王より魔王たる存在ではないか。現世滅ぼす気でいるじゃん。


「先日まで刺されずに生きてきたということは俺の界隈は治安が良かったってことなのに、現世の常識が通用しないドメンヘラに惚れられてしまったばかりに転生先の村は俺ごと毎夜燃やされ続けてんよ!!レベル1である勇者に対して容赦がなさすぎてエグイって!!」

「それはそう」

「私が…メンヘラ……」

「あっ意味理解した」

「いやしかし、愛する人に自分だけを見てほしいという気持ちはおかしなことではないと思うが…」

「それはそうだけど、普通そこで村も世界も滅ぼさないんですよ」

「ほんとそれ」


ソウの演説の内容はともかく、現時点で圧倒的に魔王がこちらの世界基準で大悪党であるということに揺るぎはない。

顔面偏差値が高かろうと己を毎晩殺してくる存在を好きになることはまず無いだろう。ドン引きだよ。


「俺の性癖を変えたいならまずお前が譲れ。村は燃やさない」

「わ、わかった。村は燃やさない」

「よし」


魔王の説得にやっと成功してソウは満足そうに笑った。

さすが魔王をも手玉にとる美少女(男)…あっ何かまた通信入った。


ーー聞こえますか…


「また来たよ神通話!」

「神!魔王が村燃やさないからハッピーエンドくるよ!」


ーー村は燃やしなさい魔王。


「とても神とは思えねえ発言すんなこいつ」

「現代社会の倫理に馴染みかけた魔王より馴染んでない」

「ソウの故郷は燃やせない。いま約束した」

「別に故郷でもないけどね」


さすがにどうかしている発言が脳内に響いたもので、僕たちは一斉に神へブーイングを起こした。


ーー勇者が旅に出ないとストーリーが進みません。村から出ないことがハッピーエンドではありません…


「でも最終目標魔王討伐でしょ?これもう討伐したも同然じゃん」

「そうだ。私はソウに射抜かれたため討伐されたも同然である」


ーー………わかりました、魔王は旅立ちイベント出禁です…


「出禁!!」

「魔王いないパターンの村滅びイベントって!?」

「そんな!今晩ソウに会えないなんて!」

「お前昼夜問わず出会ってから毎日俺にまとわりついてんだから別にそれはよくない?」


ーー村は都市開発により行政的に取り壊しとなります…


「あんなクソ田舎の初期村が都市開発に!!」

「神って政治的な干渉も出来るんだ!?」

「ソウの故郷が役所によって滅びるなんて…おのれ役人め…」

「おい役人を滅ぼすなよ犯人脳に直接語り掛けてる奴だからな」


ーー村人には生涯不自由なく暮らせる金額を渡し一時転居を進めております…


「俺が強制的に旅立ちパワハラを受けるためだけに村人がなんか裕福になった…」

「ま、まあ気兼ねなく旅に出れるじゃん…」

「俺だけ文なしのホームレスになるしな…」

「ソウ、私の城で暮らせばいい。一緒に行こう」

「いやそれじゃストーリー進まないでしょ…」


ツッコミが追い付かなくなったところで神の通話は切れた。

ところで二人にはどうでもいいことなんだろうけど、この二人のせいで僕の放課後の時間が奪われて原稿が進まない。他の部員達も顔面偏差値の高い二人を遠巻きに見ているだけで誰も助けてくれない。

ストーリーが進んだらこれもなくなるんだろうか。応援するよ、ソウ。頑張って…



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