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ヴァロフェス1
ヴァロフェス1
ワダケンイチ
異世界ファンタジーダークファンタジー
2025年04月30日
公開日
3.1万字
連載中
闇の鴉。究極のダークヒーロー誕生 ヴァロフェス--生まれながらにして鴉の面をつけた男。追うのは"マクバ"という名の災い。とある村に次々と起きる子供の失踪事件に"マクバ"の痕跡をみつけたヴァロフェスは、復讐の刻がきたことを知る!

疾走する闇

 私は走る。

 煮えたぎるような闇の中を。

 手にした得物を振るい、群がる敵を打ち砕きながら。

 全身に浴びるのは、生臭い返り血。

 そして、ふと、考える。

 敵、とは何だ?

 私が倒さなければならない、敵とは?

 ……決まっている。

 やつだ。

 白衣の魔術師――、マクバ。

 私に世界の唯一の理解者と偽って近づいた偽善者。

 やつは目の前で私の母を焼き殺し、私を、文字通りの怪物へと変えた。

 一瞬でも白衣の魔術師に心を許した者は、その魂を鷲づかみにされる。

そして、全てを奪い取られる。

 残るのは消えない苦痛と悲しみ、そして、己を呪う心のみ。

 しかし、やつの囁きは、天界の小鳥のさえずりにも似て、優しく甘美だ。

 故に、この世界には満ち溢れている。

 やつに惑わされ、身も心も闇に堕ちた者たちで。

 そう、この私がそうであるように。

 と――、眼前を遮る闇が大波のようにうねり、私を包み込もうと襲いかかってくる。

 そして、私は闇の中に、見た。

 年老い、疲れ切った男の顔を。

恋人に見捨てられ、嫉妬に狂った若い女の顔を。

親に虐げられ、怯えきった幼い子どもの顔を。

家臣に裏切られ、怨念に歪んだ貴族の死に顔を。

 顔、顔、顔、顔……。

 闇はいくつもの顔を持っていた。

 泣き叫び、怒り狂い、そして嘲りの笑い声をあげながら闇は、私を一飲みにしようとする。

 闇に向かい、私は吠えた。

 それが唯一、正気を保つ方法だった。

 それから、稲妻の如き素早さで闇の抱擁を避け、手にした得物で切り裂く。

 引き裂かれた闇の中から、いつか聞いたあの声が蘇ってくる。

――追いつけるものなら追いついてごらんなさい。

 黙れ!

――今のあなたでは決して私を捕えることなどできない。

 黙れ、黙れ!

 胸の中にどす黒い炎が燃えあがり、私は叫ぶ。

 逃がさない。

私はお前を許さない。

お前を滅ぼすためなら、私はどこにでも行く。

 そう、どこへでも、だ。

「……受け入れるのです。本当の、本来あるべきあなた自身の姿を」

 耳元で声がした。

 そこにいたのか。ずっとそこにいたと言うのか。

 私は叫んだ。叫び続けた。

「私は人間だ!」

 二十年余りの生涯に渡って何度も口にしてきた言葉を叫ぶ。

「私は人間だ! 私は人間だ!」

「人間だからこそ、闇に墜ちるのです」

 魔術師の声に低い笑いが加わる。

「そう、この世界の全ては闇に墜ちゆく……」


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