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マジうける!異世界なんですけど!
マジうける!異世界なんですけど!
シマセイ
異世界ファンタジー冒険・バトル
2025年04月30日
公開日
5.8万字
連載中
渋谷にいたはずのギャル女子高生「ゆきぽよ」こと愛内ユキナは、気づくと剣と魔法の異世界に飛ばされていた。 持ち前の超ポジティブ思考とノリで状況を受け入れ、転移時に手に入れたチート級スキル「身体強化 極(SS)」を、あまり深く考えずに駆使。 絡んできたチンピラをワンパンで沈め、その力に驚かれつつ冒険者ギルドに登録。 常識外れのパワーとギャルならではの感性で、異世界の困難やトラブルも「ウケる!」と笑い飛ばしながら、力技で突き進む! 底抜けに明るい異世界ドタバタ冒険コメディ!

第1話 マジうける!異世界なんですけど!

「マジ、今日のプリ、盛れたんだけどー!」


渋谷の喧騒の中、愛内ユキナ(あいうち ゆきな)はスマホの画面を親友のミカに見せびらかしていた。

金髪に染めたロングヘアをサイドで結び、目の周りはガッツリ黒のアイラインとつけまつげで強調。

制服のスカートは限界まで短く詰められ、足元はルーズソックスと厚底ローファー。

典型的な、というか、もはやテンプレとも言えるギャルスタイルのユキナは、流行りのフィルター加工された自分の写真にご満悦だった。


「ほんとだー。ユキナ、今日イチ可愛いじゃん!」


「っしょー? やっぱこのカラコン、当たりだわー」


キャッキャとはしゃぐ二人。

学校帰りにゲーセンでプリを撮り、これからカフェでお茶するのがお決まりのコースだ。


「つーか、今日、数学の小テスト、マジやばかったんだけど」


「それなー。赤点回避、ワンチャンあるかな?」


「無理っしょ。てか、勉強とかマジ意味不だし。将来、微分積分とか使わなくね?」


「使わんわー。それより推しの新曲、聴いた?」


「聴いた聴いた! 今回も神ってたー!」


他愛もない会話をしながら、人混みをかき分けて歩く。

スクランブル交差点の信号が青に変わり、巨大な波のように人々が動き出す。

ユキナもミカも、その流れに乗って歩き出した、その瞬間だった。


―――ピカッ!


「え?」


目の前が真っ白になるほどの強烈な光。

思わず目を閉じたユキナ。

次の瞬間、足元の感覚が消え、体が宙に浮くような、あるいは落下するような奇妙な感覚に襲われた。


「ちょ、な…!?」


悲鳴を上げる間もなかった。

意識が遠のいていく。

最後に聞こえたのは、ミカの驚いたような声だったか、それとも渋谷の喧騒だったか…。


気がつくと、ユキナは見慣れない場所に立っていた。


「……は?」


さっきまでの喧騒が嘘のように静かだ。

目の前には、石畳の道と、レンガ造りの建物が並んでいる。

行き交う人々は、まるで中世ヨーロッパの映画に出てくるような服装をしている。

麻や革で作られたであろう簡素な服、腰に剣を差した屈強な男、フードを目深にかぶった怪しげな人物…。


「え、なにこれ。ドッキリ?」


キョロキョロと辺りを見回す。

さっきまで隣にいたはずのミカの姿はない。

スマホを取り出そうとして、ポケットを探るが、スマホがない。

それどころか、さっきまで持っていたスクールバッグごと消えている。

代わりに、腰にはなぜか小さな革製のポーチがぶら下がっていた。


「はぁ!? バッグどこいったん!? てか、スマホないとマジ無理なんだけど!」


パニックになりかけるユキナ。

しかし、彼女のメンタルは、良くも悪くも鋼でできていた。

いや、鋼というより、反発性の高いゴムに近いかもしれない。


「…ま、いっか。なんかウケるし」


数秒後にはケロリとして、状況を楽しもうとし始めている。

持ち前のポジティブさ、悪く言えば脳天気さが、早くも異世界でその片鱗を見せていた。


「ここ、どこだろ。テーマパーク的な? にしちゃ、リアルすぎじゃね?」


独り言を呟きながら歩き出す。

すれ違う人々は、ユキナの奇抜な服装(この世界基準では)と、金髪をジロジロと見てくる。

中には、ヒソヒソと何かを話している者もいる。


「ちょ、何見てんだし。ギャル、初めて見た?」


メンチを切りそうになるのを、ぐっとこらえる。

郷に入っては郷に従え、という諺は知らないユキナだが、「とりあえずヤバそうなやつには絡まない」という生存本能は働いていた。


とその時、目の前に半透明のウィンドウのようなものが現れた。


「うおっ!?」



【愛内 ユキナ(ゆきぽよ)】

種族:人間(転移者)

レベル:1

HP:150/150

MP:30/30

職業:なし

スキル:

・身体強化 極(SS)

・言語理解(固有)



「……はにゃ?」


ウィンドウに表示された文字を、ユキナはなぜか読むことができた。

たぶん、「言語理解」ってやつの効果だろう。

内容はさっぱり理解できないが。


「ステータス? ゲームとかで見るやつじゃん。ウケる」


レベル1。

HPとかMPとか、低いのか高いのかも分からない。

職業なし。

まあ、そりゃそうだ。

昨日までJK(女子高生)だったのだから。


「で、スキル? しんたいきょーか…ごく? SS?」


読み方は分からないが、なんだか凄そうな字面だ。

SSランクというのが、どれくらい凄いのかは見当もつかないが、「極」というからには、きっとMAX的なやつだろうと、ユキナは解釈した。


「ま、よく分かんないけど、なんか強そーじゃん? ラッキー!」


深く考えないのがユキナの良いところだ。

自分がとんでもないチート能力を手に入れた可能性など露ほども考えず、「なんか強くなれるっぽい? やったー!」くらいの認識である。


ウィンドウは、ユキナが意識を逸らすと、すっと消えた。


「とりあえず、腹減ったんだけど。なんか食べたい」


異世界に来て早々、ユキナの思考は食欲に向かっていた。

腰のポーチの中を探ってみる。

期待はしていなかったが、案の定、入っていたのは見慣れない銅貨が数枚だけだった。


「これ、使える金? てか、何が買えんの?」


途方に暮れていると、不意に背後から声をかけられた。


「おい、そこの小娘」


振り返ると、そこには見るからに柄の悪い、ガラの悪い男たちが三人立っていた。

汚れた革鎧、錆びた剣、そして下卑た笑み。

テンプレのようなチンピラである。


「なんだよ、アンタら」


ユキナは警戒心ゼロで、むしろ少し不機嫌そうに答えた。

空腹と、状況のよく分からなさが、彼女をイラつかせていた。


「その派手な格好、どこの国のモンだ? 見ねえ顔だな」


リーダー格らしき男が、値踏みするようにユキナの全身を見る。

特に、短いスカートと露出した足に、ねっとりとした視線を送っている。


「あ? ウチ? 日本のJKだけど。なんか文句あんの?」


「じゃぱん…? 聞いたことねえな。まあ、どこの田舎モンか知らねえが、ここは俺たちの縄張りだ。この街で好き勝手したいなら、それなりの『挨拶』ってもんが必要だろう?」


男がニヤリと笑い、他の二人も下品な笑い声を上げる。

明らかに、カツアゲ目的だ。


(うわ、ウザ…)


ユキナは内心で舌打ちした。

現代日本でも、たまにこういう輩に絡まれることはあった。

そういう時は、適当にあしらって逃げるか、友達と大声を出して追い払うのが常だったが、今は一人だ。


「金なら、これしかないけど」


ユキナはポーチから銅貨を数枚取り出して見せた。


「はっ! たったそんだけかよ。舐めてんのか?」


男は唾を吐き捨てた。


「じゃあ、体で払ってもらおうか? そのフリフリの服、高く売れそうだ」


男たちがじりじりと距離を詰めてくる。

まずい、とユキナは思った。

こいつら、マジでヤバい奴らだ。


「さ、触んな!」


一人の男がユキナの腕を掴もうとした瞬間、ユキナは反射的にその手を振り払った。


その時だった。


自分でも意図しないほどの力で、男の手を弾き飛ばしてしまったのだ。


「ぐあっ!?」


腕を掴もうとした男は、まるで人形のように数メートル後方に吹き飛び、地面に叩きつけられた。


「「!?」」


残りの二人も、そしてユキナ自身も、目の前の出来事が信じられずに固まる。


「え…? 今の、ウチ…?」


自分の手を見つめるユキナ。

ただ振り払っただけのはずなのに、とんでもないパワーが出てしまった。

これが、もしかして…。


(スキル…『身体強化 極』ってやつ!?)


ユキナの脳裏に、さっき見たステータスウィンドウがよぎる。

SSランク。極。

その意味を、ユキナは身をもって理解した。


「て、てめえ! 何しやがった!」


リーダー格の男が、恐怖よりも怒りが勝ったのか、剣を抜いてユキナに斬りかかってきた。


「やばっ!」


咄嗟に身をかがめるユキナ。

剣はユキナの頭上を空振りし、勢い余った男は前のめりになる。

その無防備な背中に、ユキナは思い切り蹴りを入れた。


「うおりゃあっ!」


ドゴォッ!!


鈍い音と共に、リーダー格の男は前のめりの勢いのまま、石畳に顔面から突っ込んだ。

ピクリとも動かない。


「ひぃぃっ!」


残った最後の一人は、完全に戦意を喪失し、腰を抜かしてへたり込んだ。

仲間二人が、一瞬で謎のギャルにノックアウトされたのだ。

無理もない。


「ちょ、マジウケるんだけど! ウチ、めっちゃ強くね!?」


ユキナは自分の拳を握ったり開いたりしながら、興奮気味に叫んだ。

恐怖よりも、手に入れた未知の力への好奇心と高揚感が勝っていた。

まさに、天真爛漫、おバカ、能天気。


「な、何事だ!?」


騒ぎを聞きつけて、屈強な鎧姿の衛兵らしき男たちが駆けつけてきた。

地面に伸びるチンピラ二人と、腰を抜かしている一人、そしてその中心で興奮冷めやらぬといった様子の派手な少女。

状況は一目瞭然だった。


「君がやったのか?」


衛兵の一人が、警戒しながらもユキナに問いかける。


「え? あ、うん、なんか絡んできたから、バーンってやったら、ドーンって」


ユキナは擬音を多用して、状況を説明しようとするが、全く伝わらない。

しかし、衛兵たちはチンピラたちの悪行を知っていたのか、それ以上ユキナを追及する様子はない。


「ふむ…腕は確かなようだな。見たところ、冒険者のようでもないが…」


別の衛兵が、ユキナの腰のポーチや服装を見て呟く。


「冒険者?」


聞き慣れない言葉に、ユキナは首を傾げる。


「君、名前は? この街は初めてか?」


「ウチ? 愛内ユキナ! 日本から来たの。冒険者って何? バイト?」


「にほん…? やはり聞いたことがないな。まあいい、詳しい話はギルドで聞こう。ついてきなさい」


「ギルド? なにそれ、おいしいの?」


ユキナはキョトンとした顔で、衛兵たちについていく。

空腹であることは変わらなかったが、それ以上に、これから何が起こるのかというワクワク感が勝っていた。


こうして、現代日本から迷い込んだギャル、愛内ユキナの、異世界での波乱万丈(で、おバカ)な冒険が、今、幕を開けたのだった。

彼女が持つ規格外のスキル『身体強化 極』が、この世界にどんな騒動を巻き起こすのか、まだ誰も知らない。

もちろん、ユキナ本人も。


(なんか、面白くなってきたじゃん!)

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