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第2話 ギルドってバイト先?

衛兵さんに連れられて、石畳の道を歩くあたし、愛内ユキナ、こと「ゆきぽよ」。

さっきチンピラをバーンってやった興奮がまだちょっと残ってる。


「てかさー、この街、マジでウケるんですけど」


周りの建物はレンガとか石でできてて、なんか古臭い感じ。

歩いてる人たちも、麻? みたいなゴワゴワした服ばっかだし。

たまに鎧着たゴツい男の人とかいて、コスプレ? って聞きたくなる。


「あれ、馬車じゃん! やばー! リアルおとぎ話じゃん!」


パカパカ音を立てて通り過ぎる馬車に、思わずテンションが上がる。

日本じゃ絶対見れない光景だ。


「ここ、ホントに日本じゃないんだ…」


今更ながら、自分がマジで異世界に来ちゃったんだって実感が湧いてきた。

ミカ、どうしてるかな…。

ママやパパは心配してるかな…。

ちょっとだけ、ホームシックになりかける。


(…いやいや、湿っぽいのはナシっしょ!)


すぐさま思考を切り替える。

だって、せっかく異世界に来たんだもん。

楽しまなきゃ損じゃん?

それに、なんかウチ、めっちゃ強くなってるっぽいし!


「着いたぞ。ここが冒険者ギルドだ」


衛兵さんの声で、前を見ると、ひときわ大きな木造の建物があった。

デカい木の扉には、なんか剣と盾みたいなマークが彫ってある。

看板には「冒険者ギルド」って書いてあるけど、あたしにも読める。

「言語理解」スキル、マジ便利。


「おー! なんかカッケー!」


中に入ると、そこは酒場みたいな雰囲気だった。

木のカウンターがあって、奥には屈強そうな男の人や、軽装だけど目つきの鋭い女の人とか、色んな人がワイワイガヤガヤしてる。

壁には、なんか紙がいっぱい貼ってある。

あれが依頼ってやつかな?


「うわ、むさっ…てか、酒臭っ!」


むわっとした熱気と、汗と、お酒の匂いが混じった独特の空気に、思わず顔をしかめる。

渋谷のクラブとかとは全然違う、もっとワイルドな感じ。


「エリアナさん、いるか? ちょっと訳アリの新人なんだが」


衛兵さんがカウンターに向かって声をかけると、奥から一人の女の人が出てきた。

年はあたしよりちょっと上、二十歳くらいかな?

茶色い髪をポニーテールにしてて、キリッとした美人さん。

ギルドの制服っぽい、動きやすそうな服を着ている。


「はい、お疲れ様です。訳アリ…ですか?」


受付嬢のエリアナさんは、あたしを見て、ちょっと眉をひそめた。

まあ、そうだよね。

金髪、ミニスカ、厚底ローファーのギャルが、こんなとこにいたら浮きまくりだもん。


「この子が、さっき街で絡まれてたチンピラどもを一人で…その、伸してしまってな」


「え?」


エリアナさんの目が、ちょっと見開かれる。


「あたし、愛内ユキナ! ゆきぽよって呼んで! 日本から来たの! よろしくぅ!」


とりあえず、元気よく自己紹介してみる。

ギャルの基本は、まず挨拶っしょ。


「あ、はい…エリアナと申します。ゆきぽよ…さん? 日本、というのはどちらの国でしょうか…?」


エリアナさんは、丁寧だけど困惑した様子で聞き返してくる。


「だから、ニッポン! JKの聖地!」


「じぇーけー…?」


全然、話が通じない。

異世界、マジぱねぇ。


「まあ、細かいことは後で聞くとして、まずはステータスを確認させてもらっても?」


衛兵さんが助け舟を出してくれた。

ステータス? ああ、さっき見たやつか。


「はい、もちろんです。ゆきぽよさん、こちらの水晶に手をかざしてください」


エリアナさんがカウンターに置かれた、バレーボールくらいの大きさの水晶玉を示す。


「え、これ? なんか占いみたいじゃん。ウケる」


言われるがままに、水晶玉にそっと手をかざす。

ネイル、剥げてないといいけど。


すると、水晶玉がぼんやりと光り始めて、その表面に文字が浮かび上がった。


【愛内 ユキナ(ゆきぽよ)】

種族:人間(転移者)

レベル:1

HP:150/150

MP:30/30

職業:なし

スキル:

・身体強化 極(SS)

・言語理解(固有)


「ふむ…レベル1、職業なし。転移者というのは…まあ、時々いますからね。スキルは…言語理解と…」


エリアナさんは淡々と読み上げていたが、最後のスキル名を見た瞬間、息を呑んだ。


「し、身体強化…『極』!? しかも、SSランクですって!?」


さっきまでの落ち着いた態度が嘘のように、エリアナさんが素っ頓狂な声を上げる。

その声に、周りで飲んだくれてた冒険者たちも、何事かとこちらに注目し始めた。


「え、SSってそんなヤバいの?」


あたしがキョトンとして聞くと、エリアナさんは興奮気味に早口で説明し始めた。


「ヤバいどころではありません! SSランクのスキルなんて、世界でも数えるほどしか確認されていないんですよ! それに『極』が付くなんて…伝説級です! 通常、身体強化スキルはランクが上がっても、単純な筋力や耐久力の上昇ですが、『極』は…その、あらゆる身体能力が規格外に跳ね上がると言われています! まさに一騎当千、神話の英雄クラスの潜在能力です!」


「へー、そーなんだー。よく分かんないけど、すごそー」


説明が長くて、正直、右から左へ受け流してた。

要するに、めちゃくちゃ強いってことっしょ?

さっきチンピラを吹っ飛ばせたのも、納得だわ。


「あの、ゆきぽよさん! もしよろしければ、冒険者になりませんか!?」


エリアナさんが、ぐいっと身を乗り出して迫ってくる。

目がマジだ。


「冒険者? バイトみたいなもん?」


「ええ、まあ、依頼を受けて報酬を得る仕事ですから、ある意味ではそうですね。でも、あなたのその力があれば、多くの人を助けられますし、何より、この世界で生きていくための糧を得ることができます! その力、持て余しておくのはもったいないです!」


「ふーん…」


人を助けるとか、正直あんまピンとこないけど、「生きていくための糧」ってのは重要だ。

だって、あたし、今、マジで無一文だし。

この銅貨数枚じゃ、今日の晩飯も怪しい。


「時給いくら?」


「じ、時給制ではありませんが…依頼内容によっては、かなりの高収入が期待できますよ! 特にSSスキル持ちのあなたなら!」


「マジ? じゃあ、やるやるー!」


なんか面白そうだし、お金稼げるならいっか!

軽いノリで、あたしは冒険者になることを決めた。


「ありがとうございます! では、こちらの登録用紙に…って、文字は書けますか?」


「任せて! 漢字はちょっと苦手だけど、ひらがなカタカナなら余裕だし!」


「…でしたら、私が代筆しますので、お名前や特徴などを教えていただけますか?」


(あ、書けない前提だったのね…)


ちょっとだけ凹んだけど、まあ、異世界だし仕方ない。

エリアナさんに言われるがまま、名前とか(金髪とか、ギャルとか?)を伝えて、登録はあっさり完了した。

ギルドカードっていう、身分証みたいなプレートも貰った。

ランクは一番下のDからスタートらしい。


「通常、Dランク冒険者には簡単な薬草採取や、ゴブリンの討伐などの依頼から受けていただくのですが…」


エリアナさんが、ちょっと言いにくそうにする。


「ゆきぽよさんの場合、そのスキルがありますからね…。参考までに、少しだけ力を見せていただけますか?」


「えー、めんどい」


「そこをなんとか! 例えば、あちらにある訓練用の重りを持ち上げてみるとか…」


エリアナさんが指さしたのは、部屋の隅に置かれた、見るからに重そうな鉄の塊。

たぶん、100キロくらいありそう。


「あれ? ふーん」


あたしはカウンターからひょいと降りて、重りのところに歩いていく。

周りの冒険者たちが、好奇と侮りの目で見てるのが分かる。

「あんなヒョロい嬢ちゃんに、持ち上げられるわけねえだろ」って顔に書いてある。


(なんか、ムカつくんですけど)


あたしは、よいしょ、って感じで、鉄の塊を片手でひょいっと持ち上げた。


「………は?」


「「「…………え?」」」


ギルドの中が、水を打ったように静まり返る。

エリアナさんも、衛兵さんも、周りの冒険者たちも、全員が口をあんぐり開けて固まってる。


「え、こんなもん? もっと重いのないの?」


あたしはキョトンとして、軽々と持ち上げた重りを肩に乗せてみる。

全然、重さを感じない。

これが「身体強化 極」? マジやば。


「…………」


「…………」


沈黙が続く。

なんか、めっちゃ見られてるんですけど。

気まずい…。


「…ぷっ、あはははは! こりゃすげえや! 面白い嬢ちゃんが入ってきたもんだ!」


最初に沈黙を破ったのは、カウンターで一番デカいジョッキを呷っていた、斧を持った髭面のオッサンだった。

その声を皮切りに、ギルドの中が再びざわめき出す。

今度は、さっきまでの侮りじゃなくて、驚きと、ちょっとした畏敬みたいな視線を感じる。


「…と、とにかく! ゆきぽよさんの実力はよく分かりました! Dランクからですが、すぐに昇格できるでしょう!」


エリアナさんが、咳払いをして仕切り直す。


「当面の目標は、まず装備を整えることと、宿を見つけることですね。この街には冒険者向けの宿屋もいくつかあります。そのためにも、まずは依頼を受けて報酬を得る必要があります」


「おっけー! とりあえず、金稼げばいんでしょ? 楽勝じゃん!」


あたしは重りをポイッと元の場所に戻して、カウンターに戻った。


「それで、どんな依頼があんの? 一番ギャラいいやつ、ちょーだい!」


自信満々で依頼ボードを見る。

薬草採取、ゴブリン討伐、荷物運び…。

なんか、地味なやつばっかじゃん。


「えー、マジでウチがゴブリンとか倒すのー? キモくなーい?」


ちょっとテンションが下がる。

もっとこう、ドラゴン退治とか、魔王討伐とか、そういう派手なやつはないわけ?


「まずはDランク相当の依頼からお願いします! いきなり高難易度は危険です!」


エリアナさんに釘を刺される。

ちぇー。


「じゃあ、それでいーよ。ゴブリン? とかいうやつ、ボコってくればいんでしょ?」


あたしは一番近くにあった「ゴブリン討伐(推奨ランクD)」の依頼書をひっぺがした。


「ちょ、ゆきぽよさん! 説明を…!」


エリアナさんの制止も聞かず、あたしはギルドカードと依頼書を手に、意気揚々とギルドを飛び出した。


「んじゃ、ちょっくら稼いでくるわー!」


目的地も、ゴブリンがどんな姿なのかも、よく分かってないけど。

まあ、なんとかなるっしょ!

だって、あたし、最強っぽいし!


異世界での初バイト(?)、ゴブリン討伐。

ゆきぽよの冒険は、早くも前途多難…いや、波乱の予感しかないスタートを切ったのだった

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