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第5話 レベルアップとかウケる! イノシシ狩り行くぞ!

夜の異世界の街を、宿を探してさまようあたし、ゆきぽよ。

何軒か「宿屋」って看板が出てる店に入ってみたけど…。


「うーん、ここも微妙…」


なんか薄暗くて、掃除してる? って感じの部屋だったり。

ベッドが藁(わら)っぽくて、絶対カユいやつだったり。

かと思えば、「銀貨5枚!? 高すぎ!」って宿もあったり。

マジで、ちょうどいい感じのとこ、なくね?


「あー、もう! 足、痛いんですけど!」


厚底ローファーで石畳を歩き回るのは、さすがに疲れる。

ポーチの中の銀貨をジャラジャラさせながら、トボトボ歩いていると、少し奥まった通りに、こぢんまりとした宿屋を見つけた。

『陽だまり亭』って看板が出てる。

なんか、名前からして良さげじゃない?


思い切って木の扉を開けると、カラン、とベルが鳴った。

中は、掃除が行き届いてて、清潔感がある。

カウンターの奥から、人の良さそうなおばちゃんが出てきた。


「あらあら、いらっしゃい。お客さんかい?」


おばちゃんは、あたしの姿を見て、一瞬、目をパチクリさせたけど、すぐににこやかな笑顔になった。


「うん! 一人なんだけど、泊まれる?」


あたしが聞くと、おばちゃんは頷いた。


「ええ、空いてますよ。一泊、食事付きで銀貨1枚と銅貨20枚だけど、どうだい?」


「お、安いじゃん! ここにする!」


即決。

あたしがポーチから銀貨1枚と銅貨20枚を出すと、おばちゃんはちょっと驚いた顔をしたけど、すぐに受け取ってくれた。


「ありがとうね。じゃあ、こっちだよ。案内するね」


おばちゃんに連れられて、階段を上がる。

廊下もピカピカに磨かれてる。

いいね、この宿!


「ここがお部屋だよ。ゆっくりしておくれ」


通された部屋は、広くはないけど、すごく綺麗!

木の床も壁もツヤツヤだし、窓からは月明かりが入ってきてる。

そして何より!


「ベッド! しかも、ふかふかしてそう!」


あたしは駆け寄って、ベッドにダーイブ!

ボフン!

うわ、マジでふかふか! 最高! 天国!


「あはは、元気な子だねえ。何か困ったことがあったら、いつでも言ってね」


おばちゃんは笑って部屋を出て行った。


「はぁー、マジ、極楽…」


異世界に来て、初めて心からリラックスできたかも。

さっきのゴブリンとか、ギルドでの騒ぎとか、全部どうでもよくなってきた。

あたしは、ふかふかベッドの感触を堪能しながら、あっという間に眠りに落ちていった。

マジで、秒で寝た。


どれくらい寝たんだろ。

窓から明るい光が差し込んでる。

鳥の鳴き声? みたいなのも聞こえる。

異世界の朝だ。


「んあー…よく寝たー!」


ベッドの上で、ぐーっと伸びをする。

マジで熟睡できた。

体も軽い気がする。


ふと、あたしはステータスウィンドウのことを思い出した。

昨日、ゴブリン倒したし、なんか変わってるかも?

意識を集中すると、目の前に半透明のウィンドウが現れた。


【愛内 ユキナ(ゆきぽよ)】

種族:人間(転移者)

レベル:3

HP:190/190 (+40)

MP:40/40 (+10)

職業:なし

スキル:

・身体強化 極(SS)

・言語理解(固有)


「…お?」


レベルが「1」から「3」に上がってる!

HPとMPも、なんか増えてるし!


「え、マジ? いつの間に? やっぱゴブリン倒したから?」


レベルアップとか、マジでゲームみたいじゃん!

ウケるんですけど!


「てか、強くなった実感、全然ないんだけど」


まあ、元々『身体強化 極』でめちゃくちゃ強いから、レベルがちょっと上がったくらいじゃ、違いが分かんないのかも。

てか、レベル1の時点でゴブリン瞬殺だったしな。


「ま、いっか! 上がったならラッキーってことで!」


あたしは深く考えずに、ウィンドウを消した。

とりあえず、お腹空いた!


部屋を出て、一階の食堂に行くと、おばちゃんが朝食を用意してくれていた。

焼きたてのパンと、野菜がゴロゴロ入った温かいスープ、あと、ゆで卵みたいなやつ。

シンプルだけど、すごく美味しそう!


「いただきまーす!」


パンは外がカリッとしてて、中がふわふわ。

スープも優しい味で、体に染みるー。

異世界飯、意外とイケるじゃん!


朝食をしっかり食べて、元気が出たあたしは、今日も一日、金を稼ぐために冒険者ギルドへ向かうことにした。

『陽だまり亭』のおばちゃんに「行ってきまーす!」と元気に挨拶して、ギルドへ。


「ちわーっす! エリアナさん、昨日ぶりー!」


ギルドに入ると、カウンターには今日もエリアナさんがいた。


「…ゆきぽよさん。おはようございます。昨日は…その、大丈夫でしたか? 宿は見つかりました?」


エリアナさんは、若干、引きつった笑顔であたしを迎えた。

やっぱ、昨日の椅子破壊事件、気にしてる?


「おう! めっちゃイイ感じの宿、見つけた! ベッドふかふか!」


「それは…よかったです。それで、本日はどのようなご用件で?」


「今日もなんか稼げるやつないかなーって! ウチ、レベルも3になったし!」


あたしがレベルアップしたことを伝えると、エリアナさんは「やはり…」という顔で頷いた。


「ゴブリン6匹でレベルが2つも上がるなんて、さすが転移者の方ですね。…ゆきぽよさんの実力は、ゴルドーさんからも詳しく伺っています。正直、Dランクの依頼では物足りないでしょう」


エリアナさんは、依頼ボードとは別の、カウンター下のファイルを取り出した。


「いくつか、Cランク相当…いえ、ゆきぽよさんなら、もっと上のランクの依頼もこなせるかもしれませんが…いくつか提案させていただけますか?」


「お、マジ? やるやる!」


エリアナさんが見せてくれたのは、

「街道荒らしの盗賊団の討伐(推奨ランクC)」

「沼地に生息する巨大ヒル(ジャイアントリーチ)の駆除(推奨ランクC)」

「狂暴猪(レイジボア)の討伐(推奨ランクC)」

とか、そんな感じの依頼だった。


「盗賊? ヒル? イノシシ? んー…」


どれも、あんまりソソられないけど…。


「この、イノシシってやつ、強いの?」


「レイジボアですね。通常の猪よりも遥かに大型で、非常に凶暴です。その突進力は、並の冒険者なら鎧ごと吹き飛ばされるほどですよ。森の生態系を荒らすため、定期的に討伐依頼が出されます」


「へー。イノシシかー。猪突猛進ってやつ?」


なんか、バカっぽくて、あたしと気が合うかも?(失礼)


「よし、これにする! レイジボア討伐!」


一番、手っ取り早く終わりそうな気がした。


「承知いたしました。場所は街の東にある『迷いの森』です。ゴブリンのいた森より、少し深い場所になりますね。くれぐれも、油断なさらないように…あと、装備は…」


エリアナさんが、また装備のことを言いかけたけど。


「だいじょぶだってー! ウチ、強いし!」


あたしは、その忠告を笑顔でスルー。

昨日稼いだお金で、とりあえず水筒と、保存食の干し肉みたいなのをいくつか買って、ポーチに入れる。

準備完了!


「んじゃ、イノシシ狩ってきまーす!」


あたしは、新しい依頼書を手に、再び意気揚々とギルドを後にした。

レベルも上がったし、今日のあたしは、昨日よりさらに強いはず!

レイジボア? とかいうやつ、秒で終わらせて、またウマいもん食うぞー!


東の森に向かって歩き出す。

天気もいいし、なんか遠足気分。


「今度はどんなキモいのが出てくんだろ? てか、イノシシってキモい系?」


まあ、キモくても、ウザくても、あたしの敵じゃないっしょ!

今日も一日、ノリと勢いで、がんばろー!


…この時のゆきぽよは、レイジボアの「突進力」が、自分の想像をちょっとだけ超えるものだとは、まだ知らない。

まあ、それでも結局、力技でなんとかするのだが。

ゆきぽよの快進撃は、まだ止まらない!

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