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第4話 初めての報酬! ウマいもん食うっしょ!

「ただいまー! ゴブリン、ボコってきたんですけどー!」


あたし、ゆきぽよは、ドヤ顔で冒険者ギルドの扉をバーンと開けた。

隣には、なんか疲れた顔のゴルドーさんがいる。


ギルドの中は、昼間よりもさらに賑わっていて、酒臭さも倍増してる感じ。

カウンターには、さっきの受付嬢、エリアナさんがいた。


「あ、ゆきぽよさん、ゴルドーさん! お帰りなさい。…って、え? もう終わったんですか!?」


あたしたちの姿を見て、エリアナさんが目を丸くする。


「おう。この嬢ちゃんが、あっという間に片付けちまってな」


ゴルドーさんが、ゴブリンの耳が入った革袋をカウンターに置いた。

エリアナさんが中身を確認して、さらに驚いた顔をする。


「確かに…6匹分ですね。新人の方が、登録初日にゴブリン討伐を完了するなんて…しかも、こんなに早く…」


「いや、エリアナさん。早えとか、そういうレベルじゃねえんだ。この嬢ちゃん、素手で…いや、そこら辺の石とか木の枝で、ゴブリンどもを文字通り『蹴散らし』やがったんだ」


ゴルドーさんが、やけに真剣な顔で報告する。


「け、蹴散らした…ですか?」


「ああ。殴る蹴る投げる! 戦闘ってより、一方的な蹂躙だったぜ。俺ぁ、ただ見てるだけで、斧を抜く暇もなかった」


ゴルドーさんの言葉に、エリアナさんは完全に絶句してる。

周りで聞き耳を立てていた他の冒険者たちも、「マジかよ…」「あのギャルが?」「SSスキルってのは伊達じゃねえな…」とかヒソヒソ話してる。

なんか、めっちゃ注目されてるんですけど。

まあ、別にいーけど。


「…と、とにかく、依頼達成、おめでとうございます! こちらが報酬になります」


エリアナさんは、なんとか平静を装って、カウンターの下からジャラジャラと硬貨を取り出した。

銅貨と、ちょっと大きめの銀貨が混じってる。


「これが報酬! やったー! 初めてのバイト代的なやつ!」


あたしは目を輝かせて、硬貨を受け取った。

思ったよりたくさんある!


「いくらくらいあんの? これで、何が買えるわけ?」


「銅貨100枚で銀貨1枚の価値になります。今回の報酬は銀貨3枚と銅貨50枚。一般的な宿屋なら、一泊銀貨1枚程度。食事付きでもう少しかかりますが、数日は十分に生活できる金額ですよ」


エリアナさんが丁寧に説明してくれる。

へー、銀貨って結構、価値あんだ。


「よっしゃー! これでウマいもん食えるっしょ!」


あたしは報酬をポーチにしまい、ゴルドーさんに向き直った。


「ゴルドーさん、約束通り、一杯奢るわ!」


「おう! 待ってたぜ、その言葉!」


ゴルドーさんが、ニカッと豪快に笑う。

さっきまでの疲れが吹っ飛んだみたいだ。


あたしとゴルドーさんは、ギルドの奥にある酒場スペースに向かった。

木のテーブルと椅子が並んでて、壁には鹿の頭とか飾ってある。

ファンタジー感あるじゃん。


「さて、何にするかな。嬢ちゃんも食うだろ?」


ゴルドーさんが、壁に貼られたメニューを指さす。

木の板に、なんかよく分かんない文字で料理名が書いてある。


「えーと…読めねーし。てか、エールって何? ビール的な?」


「まあ、似たようなもんだ。麦から作る酒だな。ここのエールは美味いぞ」


「ふーん。じゃあ、それ。あと、なんかガッツリ系の肉料理! オススメないわけ?」


「だったら、猪(ボア)の丸焼きか、ワイバーンのステーキだな。今日はどっちもあるみたいだぜ」


「ワイバーン!? あの、ドラゴンみたいなやつ!? 食えんの!?」


「ああ。低級のやつだがな。歯ごたえがあって美味いぞ」


「マジか! じゃあ、それにしよ! ワイバーンステーキ!」


異世界、ファンタジーな食材食えるとか、テンション上がる!

ゴルドーさんはエールとボアの丸焼きを注文し、あたしはワイバーンステーキと、よく分かんないけど「果実水」ってやつを頼んだ。


すぐに、デカいジョッキに入ったエールと、あたしの果実水が運ばれてきた。

果実水は、なんか赤くて甘酸っぱいジュースみたいな感じ。

普通に美味しい。


「んじゃ、嬢ちゃんの初仕事成功と、とんでもねえ強さに乾杯!」


ゴルドーさんがジョッキを掲げる。


「うぇーい!」


あたしもグラスを合わせて、乾杯。

ゴルドーさんは、エールをゴクゴクと喉を鳴らして飲んでいる。

マジで美味そうだ。


そして、料理が運ばれてきた。

ボアの丸焼きは、骨付きのデカい肉塊! ワイルド!

あたしのワイバーンステーキは、想像してたより普通っぽい見た目だけど、分厚くてデカい。

ナイフとフォーク…って、なんか原始的な形だな、これ。


「いっただきまーす!」


早速、ワイバーンステーキを切り分けて、口に運ぶ。

…ん! 結構、硬い! けど、噛めば噛むほど味が出る感じ?

スパイシーなソースと合ってて、普通にウマい!


「どーよ、嬢ちゃん。ワイバーンの味は」


「んー、悪くない! てか、結構イケる!」


あたしは夢中で肉にかぶりつく。

異世界に来て、まともなご飯、初めてかも。

なんか、生き返るわー。


「しかし、嬢ちゃん。その力、これからどうするつもりだ?」


肉を頬張りながら、ゴルドーさんが聞いてくる。


「えー? どうするって言われても…。とりあえず、金稼いで、なんか面白いことしたいかなー、みたいな?」


「冒険者としてやっていくなら、ちゃんとした装備も必要になるぞ。その恰好じゃあ、さすがに危なっかしい」


ゴルドーさんがあたしのミニスカと厚底ローファーを見て言う。


「えー、これ、可愛いじゃん。動きやすいし」


「そういう問題じゃねえんだがな…。まあ、金が貯まったら、防具屋でも覗いてみろ。多少はマシになるだろう」


「ふーん」


防具とか、ダサそう…。

あんま興味ないな。


「あと、宿だな。まさか野宿するわけにもいかんだろ」


「あ、それ! マジで探さないと! ふかふかのベッドで寝たいんですけどー!」


今日の寝床がないんだった。

すっかり忘れてた。


そんな話をしていると、近くのテーブルに座っていた、ガラの悪そうな冒険者グループの一人が、ニヤニヤしながらこっちに近づいてきた。


「よう、嬢ちゃん。ゴブリンを素手で捻ったってのは本当かい?」


男は、あたしのことを上から下まで、ジロジロと値踏みするように見る。

うわ、ウザい系きた。


「あ? そーだけど。なんか文句あんの?」


あたしが睨み返すと、男は肩をすくめた。


「いやいや、滅相もねえ。ただ、その『SSスキル』ってやつ、どれほどのモンか、俺っちにも見せてくれねえかな?」


完全に、喧嘩を売ってきてる。

めんどくさ。


「おい、やめとけ。この嬢ちゃんに手を出すのは、自殺行為だぞ」


ゴルドーさんが、低い声で男を制止する。


「へっ、Bランクのゴルドーさんが、そんなにビビるたぁ、よっぽどなんだな。ますます興味が湧いてきたぜ」


男は、あたしの隣にドカッと座ろうとしてきた。


「ちょ、なんなん、マジで! うざいんだけど!」


あたしは、男が座ろうとした椅子を、足で軽く蹴り飛ばした。


ドガシャーン!!


椅子は、あたしの予想を遥かに超える勢いで吹っ飛び、酒場の壁に激突して粉々になった。


「「「…………!!」」」


酒場が一瞬で静まり返る。

デジャヴ?


絡んできた男も、その仲間たちも、ゴルドーさんも、周りの客も、全員が唖然として、あたしと粉々になった椅子を見てる。


「あ…」


やっべ。

また、力加減、間違えた。


「ひ、ひぃぃ…!」


絡んできた男は、顔面蒼白になって、後ずさりする。


「な、なんだ、今の威力は…!?」

「椅子が、一瞬で…」

「化け物か…」


周りの冒険者たちも、完全にドン引きしてる。


「…ったく、お前さんは、本当に手加減ってもんを知らんな…」


ゴルドーさんが、頭を抱えて呟いた。


「ご、ごめんって。だって、ウザかったんだもん」


あたしは、ちょっとバツが悪そうに言う。

まあ、自業自得っしょ。


結局、絡んできた男たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

酒場のマスターには、後でゴルドーさんが弁償するって言ってくれた。

優しいじゃん、ゴルドーさん。


「…さて、飯も食ったし、奢りももらったし。俺はそろそろ行くぜ」


ゴルドーさんが立ち上がる。


「おう。ゴルドーさん、ありがとね! マジ助かった!」


「おうよ。嬢ちゃんも、その力、無闇に振り回すんじゃねえぞ。あと、ちゃんと宿見つけろよ」


「わかってるってー!」


手を振ってゴルドーさんを見送る。

さて、と。


あたしは、ポーチの中の銀貨を握りしめる。

初めて自分で稼いだお金。

これで、今夜寝る場所を探さないと!


「よーし! 宿探し、行くぞー!」


あたしは、気分も新たに、ギルドを出た。

外はもう、すっかり夜になっていて、月明かりと、街灯代わりの魔法の灯り?みたいなのが、石畳を照らしている。

昼間とは違う、夜の異世界の街並み。

なんか、ちょっとワクワクする。


「どこの宿がいいかなー。やっぱ、キレイで、ベッドがふかふかなとこがいいよね!」


鼻歌交じりで、あたしは夜の街を歩き出す。

果たして、あたしにピッタリの宿は見つかるのか?

てか、変なヤツに絡まれないといいけど…。


まあ、絡まれたら、また吹っ飛ばせばいっか!

なんとかなるっしょ!


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