「ただいまー! ゴブリン、ボコってきたんですけどー!」
あたし、ゆきぽよは、ドヤ顔で冒険者ギルドの扉をバーンと開けた。
隣には、なんか疲れた顔のゴルドーさんがいる。
ギルドの中は、昼間よりもさらに賑わっていて、酒臭さも倍増してる感じ。
カウンターには、さっきの受付嬢、エリアナさんがいた。
「あ、ゆきぽよさん、ゴルドーさん! お帰りなさい。…って、え? もう終わったんですか!?」
あたしたちの姿を見て、エリアナさんが目を丸くする。
「おう。この嬢ちゃんが、あっという間に片付けちまってな」
ゴルドーさんが、ゴブリンの耳が入った革袋をカウンターに置いた。
エリアナさんが中身を確認して、さらに驚いた顔をする。
「確かに…6匹分ですね。新人の方が、登録初日にゴブリン討伐を完了するなんて…しかも、こんなに早く…」
「いや、エリアナさん。早えとか、そういうレベルじゃねえんだ。この嬢ちゃん、素手で…いや、そこら辺の石とか木の枝で、ゴブリンどもを文字通り『蹴散らし』やがったんだ」
ゴルドーさんが、やけに真剣な顔で報告する。
「け、蹴散らした…ですか?」
「ああ。殴る蹴る投げる! 戦闘ってより、一方的な蹂躙だったぜ。俺ぁ、ただ見てるだけで、斧を抜く暇もなかった」
ゴルドーさんの言葉に、エリアナさんは完全に絶句してる。
周りで聞き耳を立てていた他の冒険者たちも、「マジかよ…」「あのギャルが?」「SSスキルってのは伊達じゃねえな…」とかヒソヒソ話してる。
なんか、めっちゃ注目されてるんですけど。
まあ、別にいーけど。
「…と、とにかく、依頼達成、おめでとうございます! こちらが報酬になります」
エリアナさんは、なんとか平静を装って、カウンターの下からジャラジャラと硬貨を取り出した。
銅貨と、ちょっと大きめの銀貨が混じってる。
「これが報酬! やったー! 初めてのバイト代的なやつ!」
あたしは目を輝かせて、硬貨を受け取った。
思ったよりたくさんある!
「いくらくらいあんの? これで、何が買えるわけ?」
「銅貨100枚で銀貨1枚の価値になります。今回の報酬は銀貨3枚と銅貨50枚。一般的な宿屋なら、一泊銀貨1枚程度。食事付きでもう少しかかりますが、数日は十分に生活できる金額ですよ」
エリアナさんが丁寧に説明してくれる。
へー、銀貨って結構、価値あんだ。
「よっしゃー! これでウマいもん食えるっしょ!」
あたしは報酬をポーチにしまい、ゴルドーさんに向き直った。
「ゴルドーさん、約束通り、一杯奢るわ!」
「おう! 待ってたぜ、その言葉!」
ゴルドーさんが、ニカッと豪快に笑う。
さっきまでの疲れが吹っ飛んだみたいだ。
あたしとゴルドーさんは、ギルドの奥にある酒場スペースに向かった。
木のテーブルと椅子が並んでて、壁には鹿の頭とか飾ってある。
ファンタジー感あるじゃん。
「さて、何にするかな。嬢ちゃんも食うだろ?」
ゴルドーさんが、壁に貼られたメニューを指さす。
木の板に、なんかよく分かんない文字で料理名が書いてある。
「えーと…読めねーし。てか、エールって何? ビール的な?」
「まあ、似たようなもんだ。麦から作る酒だな。ここのエールは美味いぞ」
「ふーん。じゃあ、それ。あと、なんかガッツリ系の肉料理! オススメないわけ?」
「だったら、猪(ボア)の丸焼きか、ワイバーンのステーキだな。今日はどっちもあるみたいだぜ」
「ワイバーン!? あの、ドラゴンみたいなやつ!? 食えんの!?」
「ああ。低級のやつだがな。歯ごたえがあって美味いぞ」
「マジか! じゃあ、それにしよ! ワイバーンステーキ!」
異世界、ファンタジーな食材食えるとか、テンション上がる!
ゴルドーさんはエールとボアの丸焼きを注文し、あたしはワイバーンステーキと、よく分かんないけど「果実水」ってやつを頼んだ。
すぐに、デカいジョッキに入ったエールと、あたしの果実水が運ばれてきた。
果実水は、なんか赤くて甘酸っぱいジュースみたいな感じ。
普通に美味しい。
「んじゃ、嬢ちゃんの初仕事成功と、とんでもねえ強さに乾杯!」
ゴルドーさんがジョッキを掲げる。
「うぇーい!」
あたしもグラスを合わせて、乾杯。
ゴルドーさんは、エールをゴクゴクと喉を鳴らして飲んでいる。
マジで美味そうだ。
そして、料理が運ばれてきた。
ボアの丸焼きは、骨付きのデカい肉塊! ワイルド!
あたしのワイバーンステーキは、想像してたより普通っぽい見た目だけど、分厚くてデカい。
ナイフとフォーク…って、なんか原始的な形だな、これ。
「いっただきまーす!」
早速、ワイバーンステーキを切り分けて、口に運ぶ。
…ん! 結構、硬い! けど、噛めば噛むほど味が出る感じ?
スパイシーなソースと合ってて、普通にウマい!
「どーよ、嬢ちゃん。ワイバーンの味は」
「んー、悪くない! てか、結構イケる!」
あたしは夢中で肉にかぶりつく。
異世界に来て、まともなご飯、初めてかも。
なんか、生き返るわー。
「しかし、嬢ちゃん。その力、これからどうするつもりだ?」
肉を頬張りながら、ゴルドーさんが聞いてくる。
「えー? どうするって言われても…。とりあえず、金稼いで、なんか面白いことしたいかなー、みたいな?」
「冒険者としてやっていくなら、ちゃんとした装備も必要になるぞ。その恰好じゃあ、さすがに危なっかしい」
ゴルドーさんがあたしのミニスカと厚底ローファーを見て言う。
「えー、これ、可愛いじゃん。動きやすいし」
「そういう問題じゃねえんだがな…。まあ、金が貯まったら、防具屋でも覗いてみろ。多少はマシになるだろう」
「ふーん」
防具とか、ダサそう…。
あんま興味ないな。
「あと、宿だな。まさか野宿するわけにもいかんだろ」
「あ、それ! マジで探さないと! ふかふかのベッドで寝たいんですけどー!」
今日の寝床がないんだった。
すっかり忘れてた。
そんな話をしていると、近くのテーブルに座っていた、ガラの悪そうな冒険者グループの一人が、ニヤニヤしながらこっちに近づいてきた。
「よう、嬢ちゃん。ゴブリンを素手で捻ったってのは本当かい?」
男は、あたしのことを上から下まで、ジロジロと値踏みするように見る。
うわ、ウザい系きた。
「あ? そーだけど。なんか文句あんの?」
あたしが睨み返すと、男は肩をすくめた。
「いやいや、滅相もねえ。ただ、その『SSスキル』ってやつ、どれほどのモンか、俺っちにも見せてくれねえかな?」
完全に、喧嘩を売ってきてる。
めんどくさ。
「おい、やめとけ。この嬢ちゃんに手を出すのは、自殺行為だぞ」
ゴルドーさんが、低い声で男を制止する。
「へっ、Bランクのゴルドーさんが、そんなにビビるたぁ、よっぽどなんだな。ますます興味が湧いてきたぜ」
男は、あたしの隣にドカッと座ろうとしてきた。
「ちょ、なんなん、マジで! うざいんだけど!」
あたしは、男が座ろうとした椅子を、足で軽く蹴り飛ばした。
ドガシャーン!!
椅子は、あたしの予想を遥かに超える勢いで吹っ飛び、酒場の壁に激突して粉々になった。
「「「…………!!」」」
酒場が一瞬で静まり返る。
デジャヴ?
絡んできた男も、その仲間たちも、ゴルドーさんも、周りの客も、全員が唖然として、あたしと粉々になった椅子を見てる。
「あ…」
やっべ。
また、力加減、間違えた。
「ひ、ひぃぃ…!」
絡んできた男は、顔面蒼白になって、後ずさりする。
「な、なんだ、今の威力は…!?」
「椅子が、一瞬で…」
「化け物か…」
周りの冒険者たちも、完全にドン引きしてる。
「…ったく、お前さんは、本当に手加減ってもんを知らんな…」
ゴルドーさんが、頭を抱えて呟いた。
「ご、ごめんって。だって、ウザかったんだもん」
あたしは、ちょっとバツが悪そうに言う。
まあ、自業自得っしょ。
結局、絡んできた男たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
酒場のマスターには、後でゴルドーさんが弁償するって言ってくれた。
優しいじゃん、ゴルドーさん。
「…さて、飯も食ったし、奢りももらったし。俺はそろそろ行くぜ」
ゴルドーさんが立ち上がる。
「おう。ゴルドーさん、ありがとね! マジ助かった!」
「おうよ。嬢ちゃんも、その力、無闇に振り回すんじゃねえぞ。あと、ちゃんと宿見つけろよ」
「わかってるってー!」
手を振ってゴルドーさんを見送る。
さて、と。
あたしは、ポーチの中の銀貨を握りしめる。
初めて自分で稼いだお金。
これで、今夜寝る場所を探さないと!
「よーし! 宿探し、行くぞー!」
あたしは、気分も新たに、ギルドを出た。
外はもう、すっかり夜になっていて、月明かりと、街灯代わりの魔法の灯り?みたいなのが、石畳を照らしている。
昼間とは違う、夜の異世界の街並み。
なんか、ちょっとワクワクする。
「どこの宿がいいかなー。やっぱ、キレイで、ベッドがふかふかなとこがいいよね!」
鼻歌交じりで、あたしは夜の街を歩き出す。
果たして、あたしにピッタリの宿は見つかるのか?
てか、変なヤツに絡まれないといいけど…。
まあ、絡まれたら、また吹っ飛ばせばいっか!
なんとかなるっしょ!