「んー! やっぱ港町は魚がウマい!」
あたし…いや、ウチ、愛内ゆきぽよは、港町リベルタの朝市で買ったばかりの、焼きたての海鮮串を頬張っていた。
昨日の夜、蛇の目のアジト(倉庫)を派手にぶっ潰してやった後だから、朝ごはんがマジで美味い!
ちなみに、あの倉庫、今朝見に行ったら、見事に全焼してた。
ウケる。
街では、「昨夜、第7埠頭で原因不明の大火事があったらしいぞ!」とか、「いや、あれは黒い組織同士の抗争で、何者かがアジトを爆破したんだ!」とか、色々噂になってるけど、もちろんウチは知らん顔。
腹ごしらえも済んだところで、宿屋に戻り、早速アル(アルフォンス王子)に通信機で連絡を入れる。
「もしもしー、アル? ゆきぽよだけどー。リベルタの蛇の目、ちょっくら潰しといたわー」
『…はい? 今、何と?』
通信機の向こうで、アルが素っ頓狂な声を上げる。
「だからー、アジト見つけて、ボスっぽいのボコって、証拠っぽいのもゲットしたから。あ、あと、ついでにアジト、燃やしといた! てへぺろ!」
『ま、またですか!? ほ、放火まで!? あなたという人は本当に、毎回毎回こちらの想像を遥かに超える行動を…! し、しかし、拠点を制圧し、証拠まで手に入れたと?』
アルの声が、呆れと、驚きと、若干の諦めが混じった感じになってる。
面白い。
「そーそー。なんか、密輸品のリストとか、ヤバそうな手紙とか、いっぱいあったよ。ちゃんと取っといたから、後で送るわ」
『…分かりました。すぐに部下をリベルタへ向かわせ、証拠を受け取らせます。あなたは…あなたは本当に、とんでもない方だ。…ですが、ありがとうございます。これでまた一歩、『蛇の目』壊滅に近づきました。報酬の金貨1000枚、必ず用意させます』
「やったー! さすがアル! 太っ腹!」
『ただし! 次からは、もう少し…もう少しだけ、慎重な行動をお願いしますよ! 心臓に悪いですから!』
アルの悲痛な叫びをBGMに、ウチは上機嫌で通信を切った。
さて、王子の部下が証拠を受け取りに来るまで、数日はリベルタに滞在することになりそうだ。
暇だし、昨日会った情報屋の兄ちゃんにでも、また会いに行ってみるか。
今回の倉庫襲撃の件で、なんか新しい情報持ってたりして。
ウチは、昨日と同じ路地裏で、情報屋の男を見つけた。
男は、ウチの顔を見るなり、目を丸くして駆け寄ってきた。
「お、おい! あんた、まさか本当に昨夜、第7埠頭の倉庫を…!?」
「ん? あー、まあね。ちょっとお掃除してきただけだし」
ウチがしれっと言うと、情報屋の男はゴクリと唾を飲んだ。
「マジかよ…あの『蛇の目』の拠点を、たった一人で潰したってのか…。あんた、一体何者なんだ…。大したもんだぜ、嬢ちゃん」
男は、驚きと、ちょっとした尊敬の眼差しでウチを見る。
「それで? なんか新しい情報とかないわけ? あの蛇野郎ども、まだリベルタに仲間とかいんの?」
「ああ…蛇の目の連中は、今回の件で、ほとんどリベルタから撤退するだろうな。だが、安心するのは早いぜ。この街には、蛇の目とは別の、もっと厄介な連中もいる。それに、奴らがこのまま黙って引き下がるとも思えねえ。必ず、報復に来るはずだ」
「ふーん。上等じゃん。返り討ちにしてやるし」
情報屋の男の不吉な予言は、思ったより早く現実のものとなった。
その日の午後。
ウチが、市場で新しい水着(異世界デザインで結構カワイイ!)でも見てっかなーとぶらぶらしていると、突然、周りの雰囲気が変わった。
なんか、殺気立ってるっていうか、明らかにウチを狙ってる視線を、四方八方から感じる!
「…うわ、マジで来たし。しかも、昼間っから堂々とやる気?」
次の瞬間、市場の雑踏の中から、見るからにガラの悪い船乗り風の男たちや、黒ずくめのチンピラたちが、武器を構えて飛び出してきた!
その数、20人以上!
「見つけたぞ! あの派手なアマだ!」
「昨日の落とし前、きっちりつけさせてもらうぜ!」
「タダで済むと思うなよ!」
どうやら、昨日ウチが潰した倉庫の残党か、あるいは、それに繋がる別の裏組織の連中みたいだ。
縄張りを荒らされたとか、そういうこと?
めんどくさ。
「マジでしつけーな、こいつら! いい加減にしろ!」
一般市民が「きゃー!」とか叫んで逃げ惑う中、ウチはため息をつきながら、戦闘態勢に入る。
もう、隠密行動とか、どーでもいーや。
派手にやっちゃえ!
市場の屋台を盾にしながら、襲い来るチンピラたちを、次々と蹴散らしていく!
果物カゴを蹴り飛ばして目くらましにしたり、魚屋のマグロ(みたいなデカい魚)をぶん回して武器にしたり! (後でちゃんと謝った)
市場のど真ん中で、まさに大乱闘!
「このアマ、強えぞ!」
「囲め! 囲んで叩け!」
敵も、数だけはいるから、なかなかウザい。
でも、今のウチの敵じゃない!
ドカッ! バキッ! ゴシャッ!
景気のいい音が市場に響き渡る。
ウチの『身体強化 極』と、新しく覚えた『気配察知』『危機回避』スキルが、ここでも大活躍!
敵の攻撃は、ほとんど当たらないし、当たっても全然痛くない!
「あんた、また派手にやってるねぇ!」
そんな大騒ぎを聞きつけて、リベルタの冒険者ギルドの受付嬢(あの姉御肌の人)が、屈強な冒険者数人を引き連れて駆けつけてきた!
「あら、お姉さん! ちょうどよかった! こいつら、ウザいから、ちょっと手伝ってくんない?」
「はぁ…しょうがないねぇ。街中でこんな騒ぎ起こされたんじゃ、ギルドとしても見過ごせないからね! あんたたち! この無法者どもを叩きのめすよ!」
姉御肌の号令で、ギルドの冒険者たちも戦闘に参加!
おお、なんか共闘っぽくて、ちょっとだけテンション上がる!
ウチとギルドの冒険者たちの活躍で、あれだけいたチンピラたちは、あっという間に制圧された。
市場はメチャクチャになっちゃったけど、まあ、怪我人とかは、たぶん出てないっしょ。
「ふぅ、終わった終わった。お騒がせしましたー」
「あんたねぇ…少しは加減ってもんを覚えなよ。ま、今回は、街のゴロツキが一掃できたから、結果オーライってとこかね」
姉御肌は、呆れつつも、どこか楽しそうだ。
この一件で、ウチは、リベルタの裏社会の連中から、さらに目をつけられることになったみたいだけど、同時に、一部の善良な市民からは、「街の用心棒の姐さん!」みたいな感じで、なぜか慕われるようになっちゃった。
ウケる。
数日後。
アルの部下の人が、リベルタに到着し、ウチは無事に証拠の帳簿と、蛇野郎(ファング)が持ってた指令書を引き渡した。
そして、約束の金貨1000枚も、きっちりゲット!
ホクホク顔のウチ。
「さてと。リベルタでのミッションも、これで一段落かな?」
情報屋の兄ちゃんが言ってた、「蛇の目の大物」とか「地方貴族」とか、まだ気になることはあるけど…。
とりあえず、アルからの次の指示を待つしかないか。
港町リベルタの青い空を見上げながら、ウチは、これから始まるであろう、さらなる面倒事(と、金儲けのチャンス)に、ちょっとだけ期待するのだった。
まあ、何が来ても、ウチなら余裕っしょ!