ログアウトした瞬間、全身がどっと重くなった。火力バカうさぎから、ただの女子高生に戻るこの瞬間、わりときつい。
「はぁ……今日もジャンプだけで移動……脚がつりそう」
ベッドに倒れ込みながら、私は腕を伸ばしてノートPCを開いた。ギルメンが殺された──あの映像が脳裏に焼き付いて離れない。
やるしかない。探偵任務を受けた以上、中途半端なまま終わらせるわけにはいかない。ログを辿って、キルログの加害者をチェックする。
「……やっぱりこの名前、目立つな」
何度も表示されていた、赤いログの名前。『YASU』。
どこかで見たような、いや、聞いたことのある──誰もが一度は聞いた“あのネタ”。
「……犯人はヤス、って……いや、そんなわけ──」
笑いかけて、すぐに黙る。
調べてみると、YASUは一定の法則でPKを繰り返していた。キルされたプレイヤーは全員、特定のレア素材を持っていた。つまり、動機は嫉妬? でも、それなら運営は私に捜査依頼をしないはず。表面的ではない何か、他の動機があるに違いない。しかし、YASUに直接会うわけにはいかない。
「この事件、簡単に解けそうにはないわね」
階段を降りてリビングに向かう。ゲームに夢中で、危うく夕食をすっぽかすところだった。
キッチンに置かれた今日の食事パック──スチーム加熱5分、食器付き。
私はそれを機械にセットして、スイッチを押す。中身を食べたあとは、ぬるま湯で丁寧に洗い、乾燥機へ。ゴミじゃない。「島の端になる」素材だ。
ベランダから見えるのは、海にせり出すクレーンアーム。今日も1メートル分、島が延びていた。だけど、どこまで延びたら、「自由」って戻ってくるんだろう。
日本が住めない陸地になってから、日本人は浮島で生活している。そして、奪われた「自由」をVRゲームで味わっている。そう、現実から目を逸らすかのように。
「おいおい、俺を睨んでも何も起きないぞ」とお父さん。
お父さんは国家公務員だ。どんな仕事をしているかは家族にも秘密。でも、浮島政策に関連しているのは間違いない。この前、書斎で関連資料をチラッと見たから。
「ねえ、お父さん。嫉妬以外に人を殺す動機ってある? いや、例えばの話」
「殺人の動機? 俺は、人を殺したいなんて思ったことないからな。そうだな、愛憎なんかも動機になるんじゃないか?」
愛憎。もしかして、YASUは「ユグドラシル・オンライン」を愛して過ぎたが故に、それが憎しみとなってPKをするようになった? いや、それじゃあ、特定のアイテムを持っている人だけを狙う理由にはならない。
分からないことだらけだ。探偵役として調査任務を任された。でも、私にあるのは推理力であって、人の心を読み解くことではない。運営は心理学者を雇うべきだったかもしれない。
「まあ、一つ言えるのは『気負いすぎるな』ということだ」
その一言には、まるで私の状況を把握しているような、そんな不思議さを感じずにはいられなかった。