木目調の壁。飾られた盾の数々。中央に置かれたソファー。久しぶりのギルドには、懐かしさと同時に新鮮さも感じる。
「そういえば、最近、ユウキったら付き合い悪くない?」
開口一番ギルドマスターのミサキに愚痴られる。彼女は、ソファーにふんぞり返っているがキャラ作りなのは知っている。前に「NPCを助けたら、100ゴールド」という、うま味がまったくないミッションに積極的だったのが印象に残っていた。100ゴールドでは、モブうさぎの餌を買うことしかできない。
「もしかして、ログイン率が減ったのって彼女ができたからだったりして。ギルチャで『好きな食べ物:グミ』って答えたときの照れ方、完全にリア充だったし!」と、副官のアユミが囃し立てる。
いや、ログインはしてるって。モブうさぎとしてだけど……。二人とも、私がただのモブうさぎになってたなんて知るよしもないか。
それに、リアルでは女だ。「ユウキ」というプレイヤー名だし、イケメン剣士だからギルド内ではモテている。だけど、ギルメンも本当は性別が違うかもしれない。浮島で暮らしているという現実だけでなく、普段とは違うという「自由」を楽しむのが「ユグドラシル・オンライン」の役割だから。
「なあ、うちのマユがキルされたけど、理由とか知らないか?」
ド直球に切り出す。
「マユねえ……。あのキルはログを見るまで気づかなかった。もしかして、うちのギルドに恨みを持った人の犯行とか? もし、そうなら許せないわね。一人でいるところを狙うなんて、卑怯者のすることだわ」
ミサキが拳を握ると爪が食い込む。リアルだったら、血が滲んでいるかもしれない。
確かに、その可能性もある。だけど、その場合はYASUが他のプレイヤーをキルしている理由が分からない。キルされたプレイヤーは、数日間ログインできなくなる。もしかして、それがキルの理由……?
「どんな理由であれギルメンをキルされたんだから、黙っているわけにはいかないわね」
もしかして、ミサキは敵討ちをするつもりなの? キルは、合法だけど……。YASUをキルしたら、秩序を壊したという理由で今度はミサキが狙われるかもしれない。
アユミは反論することもなく、こくりと首を縦に振る。
普段は穏やかな二人が、ここまで殺気立っている。
仮想待合室を出ながら思った。「ユグドラシル・オンライン」は、キルが当たり前になる、そんなゲームへ変貌するか否かの岐路に立っているのかもしれないと。