「で、今日はどんなミッションをするんだ?」
ギルドに顔を出していない数日間、当然ながら高難度ミッションにはチャレンジしていないはず。だって、うちのギルドの攻撃担当はこの私。バカ高い攻撃ステータスで、モンスターをねじ伏せる。それが私の役割であり、快感だった。
剣士としての血が、久々にうずいていた。
「もちろん、この前追加されたドラゴン狩り。そうでしょ、ミサキ」
「それ以外ありえないでしょ? ユウキがいない間に戦えなかった分、今日の討伐でストレス発散よ」
私だって、数日間モブうさぎだったのよ。このストレスを発散しなくちゃ、潜入捜査なんて続けられない!
「それで、新しく投入されたドラゴンの居場所は?」
「それは……草原エリア」
ミサキの顔が少し曇る。草原エリアといえば、例のPK事件が起きた場所。嫌でも記憶が蘇る。
けれど、だからこそ、行かなきゃいけない気もした。
――ドラゴン狩りと、情報収集。一石二鳥ってやつだ。
草原エリアの北側、岩陰に潜む“飛竜グレンザード”を視界に捉えた瞬間、ギルドメンバーのテンションが一斉に跳ね上がる。
「よっしゃ、やるわよ!」
「ヒール準備完了! 突っ込め、ユウキ!」
「任せなさい!」
私は剣を振り上げ、草原を駆ける――いや、跳ねる。
ぴょん、と足が軽やかに地面を蹴った。
あれ、跳躍力が……高くなってる?
――そうだ。うさぎ姿で潜入してた間、毎日ぴょんぴょん跳ねてたせいで、ジャンプステが地味に鍛えられていたのだ。戦闘用じゃないサブステが、まさかこんな形で役に立つなんて。
高く飛び上がった私は、そのままグレンザードの頭上に着地し、振り下ろした一撃で角を叩き折る。
「ッしゃああああッ!」
仲間の攻撃と連携し、十数分の激闘の末、ドラゴンは崩れ落ちるように消滅した。
「ふふん、火力バカは伊達じゃないんだから」
「てか、ジャンプすごくなかった!? なんか進化してない!? うさぎ化した!?」アユミが目を丸くしてツッコミを入れる。
「さ、さすがにそれは……ね?」
笑ってごまかすけど、内心ドキッとしている。あれ以上のジャンプを何度もしてた私が言っても説得力ゼロ。
狩りの後、休憩がてらログを見ていたそのときだった。
システム通知が流れる。
《プレイヤー【KOTONE】がPKされました》
――また、キルした側の欄にはYASUの名前。
モニター越しに心臓が跳ねる。KOTONEは、よくチャットで挨拶を交わす程度だったが、私と同じ古参プレイヤーだ。
誰でもいいわけじゃない。YASUは、狙ってる。
仲間かもしれない人がまた消えた。その事実が、討伐の余韻を一瞬で吹き飛ばす。
私は剣を背に差しながら、ひとつ、深く息を吐いた。
――戻ろう。モブうさぎに。
捜査を進めなきゃ。これ以上、誰かがログアウトさせられる前に。