目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

火力バカ、跳ねる

「で、今日はどんなミッションをするんだ?」


 ギルドに顔を出していない数日間、当然ながら高難度ミッションにはチャレンジしていないはず。だって、うちのギルドの攻撃担当はこの私。バカ高い攻撃ステータスで、モンスターをねじ伏せる。それが私の役割であり、快感だった。


 剣士としての血が、久々にうずいていた。


「もちろん、この前追加されたドラゴン狩り。そうでしょ、ミサキ」


「それ以外ありえないでしょ? ユウキがいない間に戦えなかった分、今日の討伐でストレス発散よ」


 私だって、数日間モブうさぎだったのよ。このストレスを発散しなくちゃ、潜入捜査なんて続けられない!


「それで、新しく投入されたドラゴンの居場所は?」


「それは……草原エリア」


 ミサキの顔が少し曇る。草原エリアといえば、例のPK事件が起きた場所。嫌でも記憶が蘇る。


 けれど、だからこそ、行かなきゃいけない気もした。


 ――ドラゴン狩りと、情報収集。一石二鳥ってやつだ。





 草原エリアの北側、岩陰に潜む“飛竜グレンザード”を視界に捉えた瞬間、ギルドメンバーのテンションが一斉に跳ね上がる。


「よっしゃ、やるわよ!」


「ヒール準備完了! 突っ込め、ユウキ!」


「任せなさい!」


 私は剣を振り上げ、草原を駆ける――いや、跳ねる。


 ぴょん、と足が軽やかに地面を蹴った。


 あれ、跳躍力が……高くなってる?


 ――そうだ。うさぎ姿で潜入してた間、毎日ぴょんぴょん跳ねてたせいで、ジャンプステが地味に鍛えられていたのだ。戦闘用じゃないサブステが、まさかこんな形で役に立つなんて。


 高く飛び上がった私は、そのままグレンザードの頭上に着地し、振り下ろした一撃で角を叩き折る。


「ッしゃああああッ!」


 仲間の攻撃と連携し、十数分の激闘の末、ドラゴンは崩れ落ちるように消滅した。


「ふふん、火力バカは伊達じゃないんだから」


「てか、ジャンプすごくなかった!? なんか進化してない!? うさぎ化した!?」アユミが目を丸くしてツッコミを入れる。


「さ、さすがにそれは……ね?」


 笑ってごまかすけど、内心ドキッとしている。あれ以上のジャンプを何度もしてた私が言っても説得力ゼロ。





 狩りの後、休憩がてらログを見ていたそのときだった。


 システム通知が流れる。


《プレイヤー【KOTONE】がPKされました》


 ――また、キルした側の欄にはYASUの名前。


 モニター越しに心臓が跳ねる。KOTONEは、よくチャットで挨拶を交わす程度だったが、私と同じ古参プレイヤーだ。


 誰でもいいわけじゃない。YASUは、狙ってる。


 仲間かもしれない人がまた消えた。その事実が、討伐の余韻を一瞬で吹き飛ばす。


 私は剣を背に差しながら、ひとつ、深く息を吐いた。


 ――戻ろう。モブうさぎに。


 捜査を進めなきゃ。これ以上、誰かがログアウトさせられる前に。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?