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火力うさぎ、出動

 あのプレイヤーは、今日ログインしてくる。ギルド掲示板の投稿時間と行動パターンから、私はそう予測していた。


 YASUが狙うのは、RMTの疑いがある者たち。その中には、私のギルドの元メンバーも含まれていた。だからこそ、放っておけない。


 私は、うさぎの姿で草原エリアの丘に隠れていた。目を凝らす。──いた。


 そのプレイヤー、ノアは、背中にレア素材が詰まった大きなリュックを背負っていた。彼の行動は怪しかった。取引所を使わず、特定のプレイヤーに直接アイテムを渡していたのを見たことがある。


 だが、それでも「キルされて当然」とは思えなかった。


 ──そして、YASUも現れた。


 風を切るような速さでノアに近づく。彼はノアに話しかけることなく、いきなり斬りかかった。


「やめなさい!」


 叫ぶ代わりに、私は跳んだ。うさぎの脚力を使って、YASUとノアの間に飛び込む。


 YASUの剣が私の目の前で止まる。


「なんだ……?」


 彼が眉をひそめる。


 私は、うさぎの姿のまま、剣を構えた。もちろん、モーションだけ。だが、そこには明らかな殺気を宿らせる。


「お前……ただのモブじゃないな?」


 ──その瞬間、私は地面を蹴った。火力ステ特化の踏み込みは、まるで衝撃波のようだった。


 風が割れる。


 YASUが咄嗟に防御姿勢を取るが、私の斬撃は、彼の肩にかすり傷を与える。


「ふざけるな」


 YASUが一歩引いた。初めて見せた、戸惑い。私は無言でうさぎの耳をピンと立てる。


 ノアは呆然とその場に立ち尽くしている。だが、それでいい。今はまだ、彼の罪も、YASUの正義も裁けない。


「お前、何者なんだ?」


 YASUが低い声で問うた。


 私は一拍置いて、言った。


「火力バカうさぎ。正義の探偵よ」


 冗談めかして、でも、静かな確信を込めて。


 YASUは睨んだまま、剣を下ろす。そして、舌打ちと共にその場を去った。


 私はノアを見つめた。彼が何者で、何をしているかは、まだ断定できない。だが──この火力は、守るためにある。

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