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美咲は思い立って、監視カメラを購入した。
小型のものがネット通販で安価で手に入る時代だ。
美咲が購入した製品は一万円もしなかった。ドアの上に取り付けるだけで玄関の映像をいつでもタブレットから確認できるようになるという。
(これで誰が手紙を届けているのか、はっきりさせられるはず……)
設置は思ったより簡単で、カメラは目立たず違和感なく取り付けられた。久しぶりに安心感を覚え、美咲は少しだけ肩の荷が降りた気分になった。
しかしその日も、大学から帰ってみれば郵便受けには白い封筒が差し込まれていた。
鼓動が速くなり、封筒を開く指先が震え始める。嫌な予感を感じながらも、開封するのを止めることができない。
──
『おかあさんへ
さくらはもうだめです。
おとうさんはまいにちおこっています。
さくらがわるいこだから、さくらがいらないこだから、おこっています。
さくらはずっといいこにしていたのに。
おかあさん、どうしてあいにきてくれないの。
さくらはあいたい、あいたい、あいたい、あいたい。
おかあさんにあいたい、あいたい。
いますぐあいたいです。
はやくさくらをつれていってください。
もしきてくれないなら、さくらがいきます』
──
乱れた文字、同じ言葉の繰り返し、徐々に壊れ始めている少女の精神状態が嫌でも伝わってくる。
美咲は息苦しさを感じ、胸元を押さえた。
これまで抱いていた『可哀想』という感情は、いつの間にか薄れてしまい、代わりにおぞましいものを覗き込んでしまったような忌避感が強く湧いてきた。
(誰なの、こんな手紙を書く人は……?)
美咲は急いでタブレットを手に取り、玄関の録画映像を巻き戻す。早送りと巻き戻しを繰り返し、慎重に映像を確認していた時だった。
映像に動きがあった。
映し出されたのは、紛れもない美咲自身の姿だった。
「え……?」
美咲は映像を止めた。そこに映っている自分はぼんやりとした目つきで、自らの郵便受けに手紙を差し込んでいる。
「何これ……私……?」
混乱と恐怖が頭の中で渦巻き、全身から血の気が引いていく。
映像の中の美咲は、投函を終えると何事もなかったかのように駅の方へと歩いていく。
(私が、あの手紙を……? そんな、ありえない……!)
自分自身が信じられなくなり、美咲の身体は震え始めた。
脳裏に浮かぶ無数の疑問と恐怖が交錯し、美咲はただ呆然と画面を見つめることしかできなかった。