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75 2002/2003

 その日がやってきた。

 僕らは物陰から事が起るのを息潜め待っていると、なんの脈略もなく突然に施設から銃声が響き渡った。

 各々の視線が施設に注がれると同時に警報が鳴り始め、外で警戒していた見張りが中へ走って行った。

「今だ」

 僕らは正面を突っ切り、扉に近づいて拳銃を構えた。

「蹴破るよ」

 僕がみんなに伝えてから扉を破ると、中からむせ返る様な煙の臭いと黒煙が伸びていた。

 入口付近に人はおらず、遠くで銃声が連発して響いていた。

 僕と中村が横に並び、壁に背中を着けながら順番にクリアリングを行って行った。

『慎重にいけ』

 と浅井が無線を入れる。この無線は西本が交番で使っていたものだ。

 僕らはロビーを抜けて廊下に出ると、人がいた。女性だった。

「な、なんなん⁉」

 と関西弁を喋っていたが、特に武装もしていなさそうだったので結束バンドで自由を奪い、ロビーに拘束した。

 廊下を更に進むと黒い装備を着た男達がアサルトライフルをもって銃をどこかへ乱射していた。目を見張ると――その腕には黄色い布が縛ってあった。

 黄色い証。長谷川の仲間であり、この混乱を引き起こしている張本人だ。

 僕は長谷川が黄色いテープを巻きつけていた木の根元に埋めていた無線機の電源を入れた。

『こちら、建物の中に入りました。どうぞ』

 僕は目の前で銃を乱射している男達を凝視した。

 そのうちの一人が銃の乱射を止めて口を胸の無線機に近づけた。

『無事潜入できたか?』

 長谷川の声ではなかった。

『はい。状況は?』

『芳しくない。しばらくすると警備隊がここまでくる。挟まれる前に脱出するんだ』

『ルートは?』

『案内する。出来るだけ体は出さないようについてきてほしい』

 僕らは男達の指示に従って移動した。

 廊下を曲がり、オフィスに押し入って銃を壁に乱射する。脅すだけ脅して人々が静まり返り、その中を進んで行く。僕らはその背後について行き拳銃を下に向けながら進んだ。

『よく聴いてほしい。この先に部屋がある。そしてそこから地下の人の収容所へ行く人とデージーお姫様を救う人に別れて欲しい。予め話し合っているだろう?』

 地下に囚われている人、それは長谷川から聞いた情報だ。

 そしてデージーお姫様のデージーは、彼女の事だ。

『はい! 了解しました!』

 僕らは了承すると男達は前進を始め、そして扉を開いた。

 その刹那、黄色い閃光が僕の頬を掠った。

「え?」

 銃弾のシャワーが間断なく放たれ、僕らに向けて無残な轟音が耳を劈く。

 静寂が訪れ双眸を持ち上げると、そこで血を流しながら倒れる黄色い布を巻いた男達と、八人ばかりの警備を連れて立っている男だ。

 その男の顔を、久しぶりに見た。

「楓先輩」


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