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第2話 せっかくの二周目の人生なんだから今度は絶対に失敗しないようにしないとな

 急いで制服に着替えた俺は朝ごはんを食べて家を飛び出す。まだ色々と心の整理はついていないが入学初日から遅刻するのはまずい。


「……この景色を見ると過去に戻ってきたって実感させられるな」


 ちょうど今歩いている駅前の街並みは再開発の関係で大きく変わったはずだが、目の前には再開発される前の景色が広がっていた。過去に戻らなければこの景色はもう二度見れなかったはずだ。

 そして周りには俺と同じ制服を着て学校を目指す生徒達の姿がちらほらあり、その中には何人か見覚えのある顔も混じっていた。

 そう言えばあんな奴もいたなと思いつつ、とはまだ面識がないため話しかける気はない。実質初対面の相手に用も無いのにわざわざ話しかける気にはならなかった。その後学校に到着した俺は靴箱に貼られていたクラス分け表を見て教室へと向かう。


「よお、佐久間。お前も五組だったのか」


「……島崎も五組か」


「ああ、知り合いが誰もいなかったら最悪だったし、佐久間がいてくれて良かったよ」


 クラスに着いた途端俺に話しかけてきたのは同じ中学校出身で当時仲が良かった島崎大智しまざきだいちだった。高校を卒業してからは一度も会っていなかったため顔を見るのは数年ぶりだ。

 ただしそれは中身が二十六歳の俺の話であって十六歳の今の俺は数週間前に中学校を卒業してぶりの再会となっているためそんなに久しぶりではない。


「なあ、佐久間。なんか雰囲気変わったか?」


「そ、そんな事はないと思うけど」


「うーん、何というか最後にあった時より大人びて見える気がしてさ」


「高校生になったから大人っぽいキャラで行こうと思ってるんだよ」


 ひとまずそう言って誤魔化した訳だが島崎は結構単純な奴なので信じてくれた。今の俺はアラサーのサラリーマンではなく高校一年生なのでボロを出さないようにしなければならない。それからあっという間に入学式も終わり今日は午前中のみとなっているためこれで学校は終わりだ。

 まだ入学初日という事で同じ中学同士で固まっているクラスメイト達が大半だったが他のグループに積極的に話しかけにいくコミュ強も一部いた。ちなみに当時の俺は島崎を中心としたオタクグループに所属していた記憶がある。


「佐久間、一緒に帰ろうぜ」


「そうだな」


 ひとまず俺は島崎と一緒に帰る事にした。逆行してからまだ半日しか経っていないはずなのにとにかく疲れたため早く家に帰って休みたい。

 過酷な残業で疲れへの耐性を獲得した気になっていたが別にそんな事はなかったようだ。いや、あれは耐性が出来たというよりかは感覚が麻痺していただけな気がする。


「明日からいきなりテストとかだるいよな」


「高校生なんてテストだらけだから慣れるしかない、三年生になったら毎月テストがあるし」


「えっ、そうなのか!? もう既に辛いんだけど」


 テストで手を抜いて偏差値の低い大学に入ったらブラック企業一直線だぞと言いたくなったが十六歳の俺の口からそんな言葉が出るのは不自然なため黙っておいた。

 ちなみに前世の俺のように頑張ってそこそこ良い大学に入っても就活にミスればブラック企業が待っているため油断は出来ない。


「てか、俺達もついに高校生になったんだからそろそろ彼女くらい欲しいよな」


「島崎は相当頑張らないと無理だと思うぞ」


「おいおい、いきなり夢も希望もない事を言うなよ」


 そうツッコミを入れてくる島崎だったが俺はこいつが高校三年間で彼女が出来なかった事を知っている。女子とは違い男子は受け身だとよっぽどのイケメンじゃない限り彼女なんて出来ないのだ。

 言うまでもなく俺や島崎はよっぽどのイケメンには該当していない。どうやれば彼女が出来るかの話題で盛り上がりながら歩いているうちに靴箱へと到着した。


「ごめん、ちょっとトイレに行ってくる」


「オッケー、俺はこの辺にいるから」


 俺は島崎と別れてトイレに向かう。そして用を足して手を洗う俺だったが鏡に映っている自分の顔色は本当に良かった。

 ブラック企業に勤めていたせいで常に顔色が悪かった訳だが、今の自分と比較するとどれだけ不健康だったかがよく分かる。


「せっかくの二周目の人生なんだから今度は絶対に失敗しないようにしないとな」


 そうつぶやきながらトイレを後にして島崎のところへ戻ろうとする俺だったが廊下の向こうから見覚えのある顔が歩いてきたため激しく動揺してしまう。

 黒髪ミディアムヘアでクールな表情を浮かべた女性は俺の前世の元カノである入奈だったのだ。その顔を見た瞬間”あなたを好きにならなければ良かった”と言われた場面が何度も脳裏にフラッシュバックする。それに対して俺を見た入奈も動揺しているように見えた。

 だが俺と入奈が付き合い始めたのは大学生になってからであり、現時点では同じ高校の先輩後輩という共通点しかなく面識なんてそもそもないためその理由は全く分からない。

 とにかくこれ以上一緒にいるのは辛すぎるため俺は早足で歩く。すれ違う際に一瞬だけチラッと入奈の方を見る俺だったが、彼女の顔には何故か分からないが歓喜と狂気の二つが混在しているように見えた。

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