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第29話 ええ、入奈先輩には俺がいるので安心してください

 自動販売機コーナーに到着した俺達は早速飲み物を選び始める。入奈が奢ってくれるとは言っているが高額なエナジードリンクを買わせるような性格の悪い事はしない。


「じゃあこれでお願いします」


「オッケー、私も決まった」


 入奈は自動販売機にお金を入れるとバナナオレとミックスジュースを購入した。そして俺は入奈からバナナオレを受け取ると近くのベンチに座って二人で飲み始める。


「やっぱり勉強をすると甘い物が欲しくなりますよね」


「ああ、疲れた脳がエネルギーを欲しがるからそうなるらしいぞ」


「なるほど、それが理由なんですね」


 そう言えば高校生の時もそうだったが大学生の時も試験勉強をしていると無性に甘い物が食べたくなった記憶があるな。全然メカニズムを知らなかったがそういう理由だったのか。


「まだ一年生だからまだ具体的な事は考えていないとは思うが、有翔は今後の進路はどうする予定なんだ?」


「うーん、とりあえず四年生大学には進学するつもりですけど具体的にどこにしようってところまではまだ考えられてないですね」


 前世と同じ大学に進学するという選択肢も勿論あるが、もっと高いレベルの大学を目指すという道だって全然有りだ。むしろ前世と違う選択肢を選んだ方が世界が広がるのではないかとすら思っている。


「そうか、実は私もまだどうするかまだ決めきれていないんだよな」


「てっきり入奈先輩は地元の国立大学を志望してるのかと思ってましたけど」


「確かに以前はそうだったがここ最近になってそれが本当に最善なのかと思うようになったのだ」


 前世では早い時期から県内の国立大学に進学する事を決めていた入奈だったが、今世では何かしらの心境の変化があり決めかねているようだ。

 今の入奈が前世と違い早い時期から俺と絡むようになったためそれが影響しているのかもしれない。やはりバタフライエフェクトか何かで過去は少しずつ変わっているのだろう。


「まあ、私も有翔もまだ時間はあるわけだしゆっくり考えればいいと思うぞ」


「そうですね、高校卒業後の進路は人生の大きなターニングポイントですし」


「進学や就職を選択する場面で失敗すると間違いなく将来困るからな」


 その入奈の言葉はめちゃくちゃ俺に刺さった。せっかくそこそこ良い大学に進学したというのに就職活動の企業研究に手を抜いて上場している有名企業しか受けなかった結果がブラック企業での過労死に繋がったのだから当然だろう。

 それからしばらく適当な雑談をしながら二人でジュースを飲んだ後、俺と入奈はゴミを捨ててから図書室へと戻り始める。


「この前から思っていたんだが放課後学内に残ってる人が意外と多いよな」


「ですよね、テスト期間でどこも部活が無いのでみんなさっさと帰ってそうなイメージでしたけど」


 前世ではテスト期間の放課後にわざわざ残って図書室で勉強をしなかったため知らなかったが、確かに入奈の言う通り学内にはまだそこそこ学生が残っている様子だった。

 うちの高校は一応県内でも上から数えた方が圧倒的に早いレベルの高い進学校であるため意識が高い学生が多いのかもしれない。

 もっとも、今意識が高くても大学生になった途端不真面目になるやつは多いと思うが。実際に簡単には入れないはずのうちの大学でも講義を自主休講という名前のサボりで欠席する輩が結構多かったし。


「私達みたいに学校に残って勉強をしてるのかもしれないな」


「ファミレスとかに行って勉強するよりも学校の方が効率とかは良さそうですもんね、俺もあんまり集中出来なかった記憶がありますし」


 実際に前世で島崎達とファミレスで試験勉強をした時は途中からドリンクバーのジュースを飲みながら勉強そっちのけで駄弁っていたた。まあ、あれはあれで青春の一ページという感じがあって結構楽しかったが。


「友達とファミレスで勉強だなんて私のようなぼっちにはそういう機会なんてきっと来ないだろうから羨ましい限りだ」


「さらっと凄まじい病み発言をしないでくださいよ」


「すまんすまん、ついな」


 入奈はこういうネガティブな発言をする事が前世でもたまにあった。だが五年以上彼氏をやっていた経験があるためこういう場合の対処法は既に知っている。


「心配しなくてもファミレスで勉強会がしたいなら俺がいくらでも付き合いますよ」


「本当か?」


「ええ、入奈先輩には俺がいるので安心してください」


 ちょっとキザなセリフ過ぎるかなと言っている途中に自分でも思ってしまったわけだが入奈は普通に嬉しそうだったのでひとまず良しとしよう。

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