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第31話 じゃあ俺達は一緒の学年ですね

 いよいよテスト前最後の土日がやってきた。月曜日から中間テスト本番が始まるためこの二日間の過ごし方は非常に重要だ。


「よし、行くか」


 俺は勉強道具一式をリュックサックに詰め込むと家を出て自転車で移動し始める。俺が向かっている場所は駅前にある市立図書館だ。

 家よりも外で勉強した方が捗るため図書室で勉強をする事を決めた。今回の中間テストは恐らく問題ないと思うが手を抜くつもりは無い。

 少しして市立図書館に着くと中は多くの人で溢れかえっていた。当然土曜日だからという理由もあるだろうが中学生や高校生くらいと思わしき男女の姿が結構目立つため俺と同じように勉強をしにきているに違いない。


「とりあえず昼前まで勉強するか」


 俺は空いていた席に座りリュックサックの中から勉強道具一式を取り出す。そしてワイヤレスイヤホンを耳に装着して適当な音楽を聴きながら勉強を始める。

 暗記科目を中心に問題を解く俺だったが中間テストの範囲には家庭科や保健体育のような副教科が含まれていないため今回に関してはさほど苦戦はしていない。しばらく勉強に集中する俺だったが突然気が散る出来事が発生する。


「きゃっ!?」


 何と近くを歩いていた女性が何かに躓いたらしく派手にすっ転んだのだ。床がカーペットタイルで比較的柔らかいため特に怪我などは無さそうだが手に持っていた筆記用具やらノートやらを盛大に床にぶちまけていた。流石に放置するのも可哀想だったため拾うのを手伝う。


「拾うのを手伝いますよ」


「すみません、助かります」


 その声にどこか聞き覚えのあった俺は思わず女性の方を見る。そしてその女性の正体が一体誰なのかにようやく気付く。

 それは高校三年生の時に務めていたクラス委員長の相方である黒瀬春奈くろせはるなだった。当然とはまだ接点がないため実質初対面の相手だ。


「手伝って頂いてありがとうございました、私って昔からめちゃくちゃドジなので」


「いえいえ、当然の事をしたまでです」


「……あれっ、もしかしてあなたも空城くうじょう高校の学生ですか?」


 床に落ちていたものを全て拾い終わってから話していると突然黒瀬さんはそんな事を言い始めた。まだ何も話していないはずなのに何故分かったのか不思議に思っていると黒瀬さんは口を開く。


「あっ、急にこんな事を聞いてごめんなさい。机の上に置かれていたそれが目に入ったので」


「ああ、なるほど」


 黒瀬さんが指刺したものは中間テストの範囲などのプリントを綴じたバインダーだった。バインダーの表紙には俺達の学校の校章がデカデカとプリントされているためそれで気付いたのだろう。

 そう言えば先程拾ったものの中にもバインダーがあったな。そんな事を思いつつせっかく話す機会が出来たのでそのまま会話を続けようと口を開く。


「じゃあ俺達は一緒の学年ですね」


「えっ、そうなんですか?」


「青色のバインダーは一年生用なので」


 確か二年生が緑色で三年生が白色だったような記憶がある。このバインダーはテスト期間中の勉強時間を記入した用紙などを綴じて提出する必要があるため結構重要アイテムだ。


「じゃあ敬語じゃなくても良いかな?」


「ああ、勿論大丈夫」


「オッケー、ありがとう。そう言えば自己紹介がまだだったね、私は五組の黒瀬春奈」


「俺は二組の佐久間有翔、よろしく」


 まさかこんなタイミングで黒瀬さんと接点が出来るとは思ってすらいなかったため驚きだったが交友関係は広い方が何かと便利なので全く問題はない。

 むしろ前世ではクラス委員長を一緒にやっていた事もあって黒瀬さんとはめちゃくちゃ仲が良かったためある意味ラッキーだ。

 ちなみに前世では高校時代に仲の良かった女子は黒瀬さんだけだったりする。前世の俺はブラック企業に入るまで入奈ほどではないがコミュニケーション能力があまり高くは無かったのだ。

 だから今世ではそこそこ仲の良い佐渡さんとも前世ではそんなに話していなかった。そのため黒瀬さんは入奈と同じく前世では仲の良かった貴重な女子の一人と言えるだろう。

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