あっという間に診療所の休みの日となり、今日は領主様の屋敷で王様と話をする事になっているのだ。
早朝に詰所より馬車に乗り、いよいよ屋敷に向かおうという時にアレフさんから声をかけられる。
「では道中の無事を祈る。それから陛下に粗相のないようにな」
「ありがとうございます、ははは、気をつけます」
そう返して俺を乗せた馬車は領主様の屋敷に向かっていく。
久しぶりの馬車だけど馬車酔いもすっかりしなくなった。あの時のミミがくれた飴でのプラシーボ効果のおかげかもな。
おっと、また変に意識すると馬車酔いが再発するかもしれないし、ミミほどではないにしても俺も少し瞑想してみるか。
……。
「お客さん、着きましたよ。降りないんですか?」
「ん?はっ!もう着いたのか!」
「何言ってるんですか?グッスリ寝ていましたよ」
「え?そうなんですか?」
なんてこった!目を閉じて単に寝ていただけだったのか俺は。
ま、まあ結果的に酔わなかったし、良しとするか。
「御者さん、ここまでありがとうございました」
「仕事ですからね、夜にはまた別の者が迎えに来るそうなんで」
その言葉だけ残して御者さんは馬車と共にその場をあとにした。
さてと屋敷に入るかと思ったら、なんかすごく執事さんやメイドさん達が慌ただしくしているな。
「おお、ミヤシタ様、ようこそおいでくださいました」
「バンさん⁉お久しぶりです、なんか慌ただしいですね」
俺に声をかけたのは領主様の屋敷の執事長のバンさんだ。これ程慌ただしくしている理由を話してくれた。
「国王陛下とミヤシタ様が非公式での会談をなさるという事をお聞きしたのですが、陛下がこちらにお越しになるのは初めてなので、私も含め皆落ち着かないのです」
「そうなんですか」
「可能な限りのおもてなしは致しますが、陛下がお気に召すかどうかに皆不安でしてね」
可能な範囲でいい食事は用意するがそれを王様が気に入るか不安なんだな。メルなら自信満々で対応しそうだけどな。そう考えていると兵士の人が1人駆け寄りバンさんに声をかける。
「おそらくですが、陛下のお忍び用の馬車がこちらに向かっているとの報告がありました」
「おいでになったか、おい!すぐに領主様に陛下がいらしたとお伝えしてくれ」
「はい!」
兵士からの報告を受けたバンさんがすぐにメイドさんに領主様を呼ぶように指示を出した。
もうすぐ、ここにビルディス王国の国王がやってくる。いったいどんな人で、そして俺の話を聞いて、何をするつもりなんだろうか?