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第二十四章 帝都の様相

帝都見学へ!

「う~ん……。ここ、かなぁ……」

「チェック」

「え!? あ、うっそだぁ……」

 自分がしてしまったミスに気付き、額をテーブルに打ち付ける。


 目の前の状況を打破するために懸命に頭を回すのだが、打てる手は一つとして無くなっていた。


「僕の勝ち。これで五連勝」

「ぐぬぬ……。ここまで勝てないとは……。もう一回!」

 僕とレンは、テーブルの上に置かれているボードゲームで遊んでいた。


 互いの駒を奪い合い、王とされる駒を先に奪った方が勝ちというルールだ。


「ソラ兄はいまの盤面を気にしすぎ。何手か先を見ないと」

「んなこと言われても……。初心者に使う言葉じゃないでしょ……」

 といっても、レンも同じ初心者なのだが。


 時は一時間ほど前のこと。

 僕に割り当てられた部屋でのんびりしていると、レンがボードゲームを持ってやって来た。


 最初は初心者同士、勝ち負けを繰り返しながら遊んでいたのだが、彼がルールを理解した途端にとてつもない強さを発揮し始めたのだ。

 兄としての尊厳が無くなるので、一回くらいは見返したいと思っているのだが、何回やっても勝てる見込みが立たなかった。


「ハンデ、いる?」

「いや、いらないさ。正面から戦って、勝てないと意味が――あれえぇぇ!?」

 僕が置いた駒を、レンは無慈悲に盤面からはじき出す。


 どのように行動すれば、彼の攻撃を抑えられるのだろうか。


「ふふ……。楽しそうですわね」

「あ、プラナムさん。どうかされましたか?」

 響いた声に振り返ると、プラナムさんが部屋の扉を少しだけ開けた状態でこちらを見つめていた。


 この様子だと、廊下に声が響いていたのかもしれない。


「ずいぶん熱中されていたようですが……。皆様の大陸には同じようなルールの遊びはないのですか?」

「ないですね。『アヴァル大陸』と『アイラル大陸』ではカードを使った遊びが主流で、駒の奪い合いというのは初めてです」

 カードをそろえて役の強さを競ったり、場に置かれているカードを使って相手より早く役を作ったりする遊びはあるが、相手と奪い合うという遊びはなかった。


 こういった遊びにおいても、大陸ごとに変化があるようだ。


「ふむ。でしたら今日は、異なる文化を知るということで、我々の国の見学と行きましょうか。買い物をする場所や、仕事場など楽しめる場所は多々あると思いますわ」

 今日の行動方針についての案を聞き、軽く思考を巡らせる。


 ゴブリンとドワーフたちの文化を知るチャンスであり、新たな知見にも繋がるかもしれない。

 この申し出を断る理由はないのだが、一つ懸念がある。


「昨日は注意を引いたら面倒だと仰っていましたが、大丈夫なんですか?」

「『アヴァル大陸』内の重要な施設に、名も知らぬ異種族が入るところを見れば、ソラ様も警戒心を抱くでしょう? つまり、そういうことですわ」

 研究所に変な噂を立てられたくなかっただけのようだ。


 出歩くことに問題がないのであれば、みんなで出かけてみるとしよう。


「ですが、ルトたちはお連れにならないようお願いしますね。皆、お利口なのは分かっておりますが、怖がる者がいないとは限りませんので」

 確かに、買い物をする場や、仕事場にルトたちを連れて行くのは良くはない。


 寂しがるかもしれないが、お土産を買ってくることで我慢してもらうとしよう。


「ごめんね、みんな。今日はお留守番。帰ってきたら、みんなで遊ぼうね」

「キャウーン……」

 寂しそうに体を縮めるコバとスララン。


 ルトはそんな二匹を咥えると、自身の背中に乗せて歩き出した。


「ありがとね。みんなのこと、よろしく」

「ワウワウ」

 コバたちをルトに任せ、ナナたちがいる部屋へ向かう。


 パナケアも同じように寂しそうな顔をしたものの、僕たちが出かける前にはモンスター同士で仲良く遊び出していた。


「よし、全員乗りました。よろしくお願いします」

「お任せくださいませ。それでは――まずはデパートに向かいましょうか!」

 プラナムさんの合図で、車はゆっくりと動き出す。


 敷地を抜け、舗装された道路を走り、市街地を駆け抜けていった。


「この国の人たちがお買い物をする場所か~。やっぱり、たくさんのお店が並んでる商店街なのかな?」

「僕たちの常識で考えるのは良くないと思う。一つの店舗で、食料品や日用品を一度に買えるとかじゃない?」

 レイカとレンが、これから向かう場所について想像をしながら会話をしている。


 この国は新たに建物を作るのが難しいと言っていたので、レンの想像が答えに近そうだ。


「服とかはさすがに買えませんよね……。私たちとでは体の大きさが違いますし……」

「この国の人たちの体に合わせて物が作られているからね。目を引くものがあっても、僕たちでは使いにくいものが多いかも」

 遊び道具なら少し小さくても問題ないが、服やカバンではそうはいかない。


 パナケアにあげるのであれば、ちょうど良い大きさになるかもしれないが。


「目的地に到着いたしました。これから敷地内に入りますが、いましばらく立ち上がらないようお願いいたします」

 運転手が指さした先には、背の高い建物が建てられていた。


 看板等は特になく、付近の建物と見た目は同じなので、一見すると物を購入する場所には見えない。

 が、出入口らしき場所からは大きな荷物を持った人が出てくる姿があるので、買い物をする場所であるのは確かなようだ。


「車を停められそうな場所はないけど……。どうするんだろう?」

「地下に車を停められる場所がありますわ。そこで停車した後、上階へと移動して買い物をするというわけです」

 プラナムさんの言うとおり、車は地下へと続く道を進んでいく。


 グネグネと曲がりくねった道をしばらく進むと、広々とした場所に出る。

 そこには無数の車があちこちに停められており、家族連れや恋人らしき人々が乗り降りする姿があった。


「思ったより混んでますわね……。貸し切りにでもした方が良かったでしょうか?」

「僕たちのためだけにそんなことは……。他の人たちが買い物をしている様子を見られるので、気になさらないでください」

 プラナムさんはこの国の要人なので、それくらいやっても問題はないのかもしれない。


 お店側としては、当日いきなり貸し切りにしてくれと言われても困るだけだろうが。


「確かに、民と共にお買い物をする方が楽しいですからね。護衛にシルバルもおりますし、何も問題はないでしょう」

 停車後、開けられたドアからプラナムさんが出ていく。


 僕たちも車を降り、周囲をキョロキョロと見渡していると、この国の人々がこちらを見ている様子が目に入る。

 どうやら僕たちの存在に気付いたようだが、不安そうな視線で見られることはなく、すぐに向きを変えて歩いて行ってしまった。


「驚かれない……。僕たちの姿と、見た目がほぼ変わらない種族がいるんでしたよね」

「稀に現れる程度ですがね。髪の色に関してはバリエーションが多いのですが、あなた方と同じ色の者も存在します。気にされるほどの差ではないでしょう」

 耳の長さは結構なポイントだと思うのだが、こちらの人たちは気にならないのだろうか。


 もしかするとこの大陸では、耳に何かしらの特徴がある種族が暮らしているのかもしれない。

 『アイラル大陸』では白と黒の角を持つ、二つのドラゴン族が暮らしているように。


「では、売り場がある上の階に向かうとしましょうか。まずはどこから行くべきか……。案内板を見ながら考えるとしましょう」

 プラナムさんは指を顎につけながら、人々が向かう先に歩いていった。


 そこには部屋があるらしく、多くの人々が集まっている。


「あれは何だろ? 壁の前でたくさんの人たちが集まってるけど……」

「乗り物が来るのを待っているのです。階層を移動するための乗り物が、あの壁の向こうにあるんですよ」

 階段で十分なんじゃと考えもしたが、この建物はものすごい高さがあることを思い出す。


 何十階も上まで歩いていくのは、さすがに考えたくない。


「……あの人って、もしかしてプラナム様?」

「本当だ……。でも、どうしてこんなところに?」

「『エルフ族』っぽい人たちがいるから、案内をしているんじゃない?」

 乗り物を待つ人々の列に並んで待っていると、このような会話が聞こえてきた。


 『エルフ族』という者たちが、僕たちに似ているという種族のようだ。


「決ましたわね。さあ、乗り込みましょう」

 チーンという音と共に、白い壁がゆっくりと開く。


 中は小部屋になっており、数字が描かれたパネルらしきものが左右の壁に取り付けられていた。

 乗り込んだ人々はそれらのパネルを押していき、最終的に全てのパネルが押されることになる。


「もしかして、王都にあった昇降機みたいなものかな?」

「かもしれないね。密閉された空間だから、フレイン隊長もこれなら大丈夫かもね」

 レイカと王都の思い出をのんきに話していると、開かれていた扉が閉じていく。


 その一瞬後にガクンと揺れ、軽くではあるが押しつぶされるような感覚に襲われる。

 どうやら上昇を始めたようだ。


 部屋は上昇を続け、目的階にたどり着くと同時に扉が開いていく。

 プラナムさんが人々の波に乗せられるように昇降機から降りたので、僕たちも彼女の後を追いかけることにした。


「ここは食料品の売り場になっております。欲しいものは確実に手に入るといわれるほど、ここのラインナップは充実しておりますわ」

 昇降機を降りた先には、広大な部屋の中にたくさんの食料品が展示され、それらを購入するこれまた多くの人々という、想像以上の景色があった。

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