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プラナムの家

「おっきくて、立派な建物……。ここがプラナムさんのお家なんだ……」

 研究所から車に乗ること数十分。僕たちは立派な土地の敷地内を歩いていた。


 敷地も建物も実に立派だが、これほどの土地を持つ者は貴族内でもそうそういないだろう。


「庭の草木もしっかり手入れをされていて、とてもきれいな場所ですね。パナケアちゃんも、ここだったら気にいるかな?」

「まう! まうま~!」

 ナナに抱かれているパナケアは、きれいな草花が咲いている庭に手を伸ばしていた。


 ここに来るまで砂や岩ばかりの土地だったために寂しそうにしていたが、これならばのびのびと過ごせそうだ。


「ワウワウ! ワオーン!」

「キャウーン!」

「ルトとコバも、気持ちよさそうって言ってるみたい」

 アマロ地方のようにどこまでも走っていけるわけではないが、十分すぎるほどに広さがある。


 ルトとコバも、これほどの広さがあれば満足できるだろう。


「ここに滞在する間は、この庭もご自由にお使いくださいませ。ソラ様方のことですし、荒らしたりすることはないでしょうしね」

「あはは……。使ったら戻す気持ちで利用させてもらいますよ」

 こんなに綺麗に手入れをされているというのに、荒らすような使い方はしたくない。


 場所を貸してもらっていることを忘れずに、活用していくとしよう。


「こんなに立派な土地や建物に加え、ある程度自由に大陸を出られるって、プラナムさんは何者なんですか?」

 こうではないかという想像は、いままでに何度かしている。


 想像が当たっているか、ぜひプラナムさんの口から聞いてみたいのだが。


「そういえば説明していませんでしたか。わたくしの家は、この国が始まった時の皇帝、その流れを汲む三つの家の一つなのですわ」

「それって、王族ってことですよね……? そ、想像以上でした……」

 貴族の中でも有力な家なのだろうとは思っていたが、まさか王族だとは考えもしなかった。


 それほどの人物が自ら他の大陸に赴き、異種族に協力を求めねばならないほどに切羽詰まっていたとは。


「まあ、わたくしの家は政には関与しないことにしているので、それほど国に働き掛けることはできませんがね。その分、他の分野で活躍させてもらっていますわ」

 さっさと庭を抜けていこうとするプラナムさん。


 もう少し見て回りたい気持ちもあるが、まずは彼女の行動に合わせよう。


「そういうわけで、父と母は皇宮勤めをしております。基本的にこの家に戻ることはありませんので、何も気にせずごゆるりとお過ごしくださいませ」

 プラナムさんの使用人たちの手によって、屋敷の玄関が開かれる。


 ここまで立派な屋敷に入ることは初めてだ。


「君の家に招かれた時のことを思い出すよ」

「ここまで立派ではないですけどね。でも、私も同じことを考えました」

 屋敷を見上げるナナの表情は、少し寂しげだった。


 彼女が住んでいた家もとても大きく、立派なものだった。

 広い玄関にいくつもの大きな部屋たち。何より、個人宅に蔵書室まであることに驚いたものだ。


「魔導士らしい家だったよね」

「それ、褒めてるんですか?」

 思い出を共有しながら、共にクスクスと笑い合う。


 すると、ナナに抱かれているパナケアが彼女の腕を叩きだし、玄関の方を指さした。


「おっと、みんな家の中に入っちゃったんだね。ソラさん、行きましょうか」

「そうだね。失礼いたします!」

 扉を押えてくれていた使用人に挨拶をしつつ、屋敷の中へ足を踏み入れる。


 玄関内だけでもとても広く、高そうなツボには美しい花が活けられ、天井からは豪華なシャンデリアが吊り下げられていた。

 床には大きなカーペットが敷かれており、中央部分に何やら刺繍がつけられている。


 工具と盾らしき模様に見えるが、これは何を表しているのだろうか。


「では、間近にある食堂からご案内いたしましょうか。こちらへどうぞ」

 シルバルさんが開けた扉の先へと進むプラナムさん。


 僕たちも彼女に続いて部屋に入ると。


「うわ……。なっがいテーブル……」

 長大な部屋の中心には、真っ白なテーブルクロスをかけられた、これまた長大なテーブルが鎮座していた。


 一体、自宅のテーブル何個分だろうか。


「稀に食事会が行われることがありますので、これくらいのテーブルが必要なのですわ」

 ご両親が皇宮勤めだと言っていたので、様々な人々と交流をする必要があるのだろう。


 そういった点は、『アヴァル大陸』とこの大陸とで変わることはないようだ。


「よく見ると、テーブルが低い」

「ほんとだ。私たちの体にはちょっと小さいかも」

 目の前のテーブルは、プラナムさんたちの体に合わせて作られているらしい。


 研究所を出てくる前に備品を用意するよう指示を出していたが、さすがに間に合わなかったのだろうか。


「ご心配なく。すでに製作は済んでいるはずですわ! ……持ってきなさい!」

 僕たちの心情を読み取ったのか、プラナムさんは手を叩いて何かの合図を出す。


 すると先ほど僕たちが通ってきた扉から、大きなテーブルと複数の椅子を持った使用人たちが現れた。

 それらを邪魔にならない場所に置いた後、元々あったテーブルの足を取り外して分解すると、手早く台車に乗せて出ていってしまう。


 残った数名が、空っぽになった部屋の中心に除けておいたテーブルを移動させ、きれいなテーブルクロスをかけていく。

 真っ白なクロスの上には小さな花瓶が置かれ、可愛らしい花々がその中に活けられ、あっという間に食卓テーブルが完成するのだった。


「こんなに手早くテーブルを交換するなんて……。すごいですね……」

 新たに設置されたテーブルは、僕たちがくつろぎやすい高さに変更されている。


 これなら腰を痛めることもなく、会話や食事を楽しめそうだ。


「わたくしが直接選んだ者たちですから。これくらいはお茶の子さいさいですわ」

 作業を終えた使用人たちは、僕たちに会釈をしてから部屋の外に出ていく。


 残された僕たちはテーブルに着き、プラナムさんと会話をすることとなった。


「皆様。改めまして、わたくしのお願いを聞き届けてくださり、誠にありがとうございます。その上、遠く離れた異国まで同行していただき、感謝の言葉もございませんわ」

「こちらこそ、ここまで案内していただき、ありがとうございます」

 お互いに頭を下げ、感謝の言葉を伝え合う。


 双方存在しなければ成り立たなかったことではあるが、それでもお礼は言いたくなる。

 プラナムさんもその想いは同じのようだ。


「ここを皆様の自宅と思って、ご自由にお過ごしくださいね。何か不満があればいつでもおっしゃってください。我々一同、誠意をもって対応をさせていただきますわ」

 自宅と思うには、僕には少しばかり広すぎる。


 それはレイカとレンも同様だと思ったのだが。


「広い家に住むのには興味があった」

「お姫様気分が味わえそう……! 楽しませていただきますね!」

 姉弟は楽しそうにそう言った。


 せっかく体験できる機会なのだから、楽しまなければ損か。


「ふふ……。また、こんな大きなお屋敷でソラさんとお食事ができるんですね」

「さっきから聞いてれば……。みんな、遠回しにあの家が狭いって言ってない? ちょっと失礼じゃないかい?」

 口を尖らせ、不満に聞こえるであろう声色を出すと、家族たちは慌てた様子を見せ始める。


 もちろん、そんな不満は微塵にも思っていない。

 僕はニヤリと笑みを浮かべ、冗談だということを暗に示すことにした。


「あ、食器のサイズとかは大丈夫なんでしょうか?」

「お皿は大皿を使えば問題ないでしょう。ただ、カトラリーは皆様それぞれに合わせた方が良いでしょうから……。これから採寸を取らせていただきますわね!」

 手のサイズの採寸をとられた後、食堂から外に出る。


 その後もプラナムさんに案内されながら、彼女の家を見学して回るのだった。

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