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第14話 任務外任務・豆まき


「……はぁ?」


 社長室。呼び出された倉子が、心底うんざりした声を漏らす。


「社長、今なんと?」


「豆まきに行ってこい」


「……はい?」


 真横に立つ真子も目をパチパチと瞬かせている。


「いやいや、なにそれ。うちら、警備員ですよね? SPですよね? 豆投げてどうするんです?」


「安心しろ、今回は“警備”じゃない。“参加者”としてだ」


 社長が胸を張って言い切る。


「……参加者?」


「年明けに警備に行った大日神社から、正式にオファーが来た。節分の豆まきに、年女として出てくれと」


「いやいや、意味が分からないんですけど! 私、あの神社の氏子じゃないですし!」


「だが二人とも――24歳だろう?」


「ええ。24歳なのに、制服で高校通わされてますが」 


 倉子と真子は、見事なまでにジト目を揃える。


「つまり、今年の年女ということになる。年女による豆まきは、伝統ある神事だ」


「でも、それって芸能人とか、地元の名士がやるやつじゃないんですか?」


「すべての神社が芸能人を呼べるわけではない。地元の年男年女が主役となる場所も多い」


「だからって、なぜ私たちに……」


 倉子は頭を抱えた。


 だが、社長はご機嫌だ。


「ご縁があったということだ。何事も繋がりが大事だぞ。おまけに今回は“業務扱い”だ」


「……業務?」


「もちろん出勤扱い。交通費も支給、手当あり。しかもな、今回は“警備される側”だぞ」


 社長がニヤリと笑う。


「……どうして、こんなに胡散臭く聞こえるんですか、その言い方」


「それにな、ここで点数を稼いでおけば、あの神社の警備契約を専属で取れるかもしれん」


「なるほど、そういうことですね?」


 倉子はすべてを察した顔になった。


「つまり、いつもの“社長の営業活動”の延長ってことですか……」


「まぁ、そう言うな。せっかくだから楽しんでこい。で、どうする?」


「どうするって、もう決まってるじゃないですか。任務でしょ?」


「いやいや、今回は“任務外”だ。つまり選べるぞ。巫女服にするか、メイド服にするか」


「結局どっち着ても注目の的になるってことじゃないですかぁぁぁっ!!」


 悲鳴混じりの叫び声が、社長室に響き渡った。



---


了解しました!

こちらは第14章に続く**「豆まき当日エピソード」**です。倉子と真子が“年女”として豆をまかされるコメディパートです。



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【第14章:任務外任務・豆まき


 節分当日。大日神社の境内には、思いのほか多くの参拝客が集まっていた。


「先輩……これ、思ってたよりガチじゃないですか……」


「聞いてない……拝殿の上から豆まくとか聞いてない……」


 メイド服姿の倉子と真子は、神主の隣に並ばされ、手に升を持っていた。しかも周囲は地元の老舗の社長夫人や、町内会の婦人部の方々。浮きまくっている。


「では、豆まき神事を始めます。皆さまご一緒に――」


「おにはーそと!」「ふくはーうち!」


「「おにはーそと……ふくはーうち……」」


 力ない声で豆をまくSP二人。


 だが、群衆の反応は想像以上に熱かった。


「あれ? あのメイドさん、去年の年越し警備で見たぞ!」


「やっぱり本物のSPなんだって!」


「投げ方がプロっぽい!」


 妙な注目を集めてしまっている。


 そんな中、子どもが転びそうになるのを、倉子が華麗にキャッチ。真子は豆を直撃させそうになったおじさんに咄嗟に手で防ぐ。


 豆まきのはずが、なぜかいつものように警備モードになっていた。


「……先輩、これ完全に“まく”より“守る”方にシフトしてますよね」


「クセって怖いわね……」


 イベント終了後、境内の一角で振る舞われた甘酒をすすりながら、二人はほっと息をついた。


「……まぁ、なんだかんだで、無事終わったし」


「“警備される側”って聞いてたのに、結局“見守る側”だった気がするのは気のせいっすかね」


 承知しました!

以下は、**豆まき本番中の混乱と“永遠の17歳先輩”井上喜美子の登場フラグ”**を絡めたエピソード追加パートです:



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【第14章:任務外任務・豆まき(中盤)】


 豆まき神事の最中――。


「おにはーそと!」「ふくはーうち!」


「……って、専念できるかーい!!」


 倉子が盛大にツッコミを入れたのは、目の前で参拝客がわちゃわちゃと押し寄せてきたからだ。


 境内の群衆が妙に整然としすぎていて、逆に緊張感を覚える。


 その原因は明らかだった。


 豆まき舞台の両脇、境内の各ポイントには、見知った面々――セキュリティ・アテナの社員たちが配置されていたのだ。


 警備服姿でビシッと並ぶ姿は、どう見ても“守られる側”ではなく“守る側”。


「ねぇ真子、どう見ても、私たちを守るってレベル超えてるよね……これもう完全にVIP護衛体制なんだけど」


「気になって豆まきどころじゃないっす。目合ったら敬礼されるし……」


「誰が主賓よ!?」 


 そして、真子がふと耳打ちしてくる。


「ちなみに今回の現場指揮官、井上先輩らしいっす」


「……あの、永遠の17歳を自称してる先輩?」


「はい、うちらより年上ですけど、“女子高生は任せて”って普段から言ってるじゃないですか」 


「……女子高生役、あの人に任せとくべきだったんじゃない?」


「実年齢聞いた人が消えるって噂もあるんで……」


「こわっ!」


 その頃、社殿裏で腕を組みながら警備状況をチェックしている井上喜美子先輩の姿が――


「ふふふ、やっぱり現場は若い子に任せないとね。私は、永遠の17歳だからもう“若手”じゃないのよ」


 本人の前では誰も突っ込めないが、その年齢設定だけは未解決の社内最大ミステリーだった。




【第14章・ラストシーン】


 その夜。

 豆まきという名の“任務外任務”を終えた倉子は、ようやく帰宅し、自室のアパートでひと息ついていた。


 スーツを脱ぎ、ジャージ姿に着替え、缶ビールを開ける音が静かに鳴る。


 ぷしゅっ。


「……ふー。やっと終わった……」


 ソファに沈み込むように座り、テレビをつけた。手には冷えたビールと、コンビニの焼き鳥パック。


「で、この後はCNN“World Today”の吹替版をお送りします」


 アナウンサーの声とともに、VTRが始まる。


「Today in Japan, a traditional bean-throwing ritual was held at shrines across the country for Setsubun, a seasonal event meant to drive away evil spirits...」

(「本日、日本各地の神社で節分の豆まきが行われました。これは悪霊を追い払うための伝統的な行事です」)


「へえ……豆まきが海外で紹介される時代か……」


 ビールを口にしながら、何となく眺めていた倉子の目が、画面に映った風景で固まる。


 そこに映っていたのは、今日訪れた――いや、自ら壇上に立って豆をまいた大日神社の境内だった。


「Here at Dainichi Shrine, two women known as the ‘Maid SP’ who previously guarded President Trouble during his visit, made a surprise appearance, throwing beans and drawing cheers from the crowd—」

(「こちら大日神社では、以前“トラブル大統領”の護衛を務めたことで知られる“メイドSP”の二人が登場。豆をまいて参拝客の歓声を集めました」)


「ま、まさか……やめろ、やめてくれ……!」


 画面に映ったのは、メイド服で豆をまく自分と真子。しかもカメラ目線で微笑むカットまでバッチリ使われていた。


「やめろーっ! CNN、やめろおおおおおお!!」


 倉子の叫びが、狭いアパートの壁に虚しく反響する。


 その後も、淡々と“伝説の誕生”を語るナレーションが続いた。


『These “Maid SP” agents became a viral sensation last year after their appearance during the U.S.-Japan summit…』

(「この“メイドSP”たちは、昨年の日米首脳会談で話題となり、一躍SNSで大きな注目を集めました」)


「……くっ……取材なんてされた記憶ない……」


 そして気づく。


「……ああ……絶対、社長が許可出したな……!!」


 涙目で焼き鳥をつまみながら、ビールを一気に飲み干す。


「……せめて……せめて地上波だけにしてくれよぉ……!」


 こうして、“節分の豆まき事件”は、また一つ――世界規模の伝説になったのだった。



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