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第19話 入学式と歓迎会

 春のやわらかな日差しが、校庭の桜並木を淡く照らしていた。


 今日この日、新たに学び舎の門をくぐる者たち――新入生。


 厳かに執り行われた入学式では、校長の挨拶や在校生代表である澪の歓迎の言葉が並び、新入生たちは緊張と期待に満ちた面持ちで椅子に座っていた。


「それではこれより、生徒会主催の新入生歓迎会を行います」


 式が終わると、講堂の照明と雰囲気は一転。明るく、温かな空気に包まれる。


 司会台に立ったのは、副会長の倉子。そして補佐の真子。


「皆さん、ご入学おめでとうございます。これから始まる高校生活が、素晴らしいものになりますように、私たち生徒会も全力でサポートしていきます」


 倉子が落ち着いた声で挨拶すれば、真子は明るく元気に続けた。


「今日は、皆さんのために、部活動紹介や発表がありますっす! 気になる部活があったら、遠慮せずどんどん見に行ってほしいっす!」


 それだけで、新入生たちの顔に自然と笑みが浮かび始めた。


 各部活の部長が1分以内で紹介を行い、30を超える部がテンポよく紹介されていく。


 そして、後半には合唱部、吹奏楽部、軽音部による歓迎発表が順に行われた。


 合唱部の澄んだハーモニー、吹奏楽部の力強い演奏、軽音部の明るくポップなステージ。


 それぞれの発表が終わるごとに、新入生たちの拍手は大きくなっていく。


 講堂の一角で見守る倉子と真子。


「……ちゃんと歓迎会してるな、私たち」


「SPのはずなんすけどね……」


「でも、こうして生徒として関われるのも、案外悪くないかも」


「先輩、それフラグっす。次回は“文化祭も担当”とか来るっすよ」


「……やめて」


 そんな掛け合いを交わしながら、拍手の中に二人もそっと手を合わせた。


 新たな一年の始まりを見届けながら、SPでありながら、先輩でもある彼女たちは――


 少しだけ誇らしげに、そこに立っていた。





行き過ぎる部活勧誘合戦の取締


 歓迎会も無事に終わり、初日スケジュールは滞りなく完了。  しかし、放課後の校門前では“新たな戦い”が幕を開けていた。


 各部活による新入生への勧誘――それ自体は、毎年恒例。  だが、今年は違った。


「今、わが部に入部すると、学食のラーメン券をプレゼントします!」


「うちは焼きそば券付き! 数量限定!」


「アイス券つけます! 選べます!」


 廊下、階段、昇降口前が即席の“勧誘市場”と化し、あちこちでチラシや叫び声が飛び交っていた。


 その様子を見回っていた澪の目が鋭くなる。


「……あれは、校則違反ですわ」


 澪が一歩前へ出るが、さらにその横から倉子が現れる。


「そこ! 入部に景品をつけるのは禁止。校則違反よ」


 にこりともせず睨みつける25歳副会長の威圧感。


「す、すいません! 撤回します!」


 景品付きの部活勧誘が、すぐにチラシを引っ込めていく。


 真子も、別の廊下で別件を発見。


「ポスターに“君もアイドルに”って書いてあるっすけど、軽音部って、そういう部活じゃないっすよね?」


「ち、違います……すぐに修正します……」


 部員たちが逃げるように引き下がっていく中、生徒会の3人は最後まで校門までの道を見回っていた。


「過剰な熱意も、抑えるのが“先輩”の仕事なのね……」と倉子。


「“取締役”じゃないっすか、もう」


「来年は、交通整理も担当かもしれませんわね」


 三者三様の肩の重さを感じつつ、新入生の一日目は無事終了を迎えた。







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