対面。青年は少女と一触即発の中で拳を構える。そして、数分の沈黙を破ったのは少女の声だった。
「
魔法術対策機関 第一班 班員天々望 四夜華は手を広げる。足元には幾何学的な模様が浮かび上がり、その模様が光ると光でも見えるか見えないかのワイヤーが展開された。
四夜華の使用する固有術
魔法と魔術を混ぜる事は事実上可能である。しかし、術式の組み合わせ、詠唱、魔力操作の複雑さからほとんどの者はこの二つを組み合わせることを避けている。才能のある『現代の大魔導師』と呼ばれる魔法と魔術を極めた者達でも避けるくらいにはセンス、才能、魔力量の三拍子がそろっていないと合わせることは不可能だ。
ギア上げの最初の段階のその前の段階、車で言えばエンジンをかけてニュートラル状態が
相対するは青年。神の使い無田 皆無は幾何学的な模様に、魔法術というワードから、魔力を基準とした戦い方をする世界の住民だと即座に理解し、異能力をルールを破らない程度に発動する。
「
抹消無効は四夜華の魔法術の効果を消し去り、攻撃準備の妨害をする。もちろん、抹消された術式に魔力の光は灯らず、四夜華は術式の不良かと焦り、皆無から距離を取るため、バックステップで雑木林へと入る。
皆無の目的は話を聞いてもらうことなので、ここで逃せば次は見えない位置からの攻撃が来ると考え、四夜華の後を追う。
「くっ、今日に限って…やはり、作りたての術では太刀打ちできないか……」
踵を返し、皆無に背を向ける形で四夜華は戦闘体勢を整えようと四夜華から皆無の見える位置で走る。四夜華から見えるということは皆無からも見えるということ。喧嘩を売っておいて、逃亡は許さないと言わんばかりの顔つきで皆無は四夜華の背を追う。その間も皆無は能力を発動し続ける。
四夜華は煙幕代わりにファイアボールを皆無の足元へ撃ち込むが、ファイアボールも発動しない。強盗との戦闘での魔封じの効果は消えているはずだが、何かおかしいと四夜華は魔力探知を働かせようと走りながら、辺りに意識を集中をするがこれも発動しない。
『ボクの身体から魔力が消えた?』
結論は仮定だが、あの青年との戦闘を開始してからおかしなことばかりが起こっている。原因は確実に後ろの青年だと考え、魔力を封じられた時の為の手札を切る。もちろん、強盗との戦闘の後なのでほぼ付け焼刃状態だが、テストも含め実践する。
魔力でワイヤーを操れないのであれば、自分自身で操れば良い。より勢いが増すように
先端には鉄の塊をつけ、分銅のように振り回し始める。そして、皆無に向き直り、そのワイヤーを飛ばす。ほぼ分銅のその武器の先端は皆無の横を通り過ぎると四夜華と皆無との距離がだんだんと縮まる。横に回る鉄塊はやがて、皆無を囲むようにワイヤーが巻き付く。
魔力や異能的な効果のない攻撃は、当然ながら無効化できない。巻き付くワイヤーが身体へと食い込む。両腕を封じた四夜華はそのまま皆無を吊し上げる。
「捕まったか。」
捕まえたのだが、皆無は顔色一つ変えずそのまま四夜華を見下ろす。
「なぁ、降ろしてくれないか?」
その余裕そうな態度が気に入らなかったのか四夜華はにらみつける。
「殺気が全く感じられない。しかもわざと捕まった感じだ。ボk……私が子供だからって舐めてるだろ。キミ。」
「俺が君を見下して何の利益が?」
「そんなの知らないよ。ただ、大人は皆ボk…私の事をなめてかかる。そして、キミみたいに吊るされるんだ。」
「なるほどな。それじゃ、このままでいい。話し合いをしようじゃないか。」
────────────
一方、龍兎と大介は………
「いやぁ、お宅速いなぁ……」
龍兎は呆気なく大介に取り押さえられた。いや、正確には『わざと取り押さえられた』が正しい言い方だろう。大介もそこまで強い力では取り押さえていない。対面からの逃走の後に龍兎はすぐに能力はおろか、戦闘自体を避けている様子だった。
「わざと捕まったね?」
「だって、オレらやってないんだもん。」
「攻撃したのはこちらが悪かったね。」
大介は先程対面した際にも二人からは殺気が感じられないこと。敵意が全く感じられなかった点、この二人は両手を上げて態度でもそれを示していた。それを無視して四夜華は攻撃をしてしまった。
「あんたからも敵意は感じられない。話は分かる人とみた。」
龍兎は大介の手を掴み立ち上がると、大介の顔を見つめる。
「なにか?」
「見たことある顔だ。」
龍兎の昔の事だが、大介と一度一緒に共闘もしている。という記憶がある。だが、記憶では、大介は仮面を着けて戦っており、右腕が魔石でできていた気がするのだ。仮面のしたは険しい顔をしていて、いつも眉間にしわが寄っている。
なくなったはずの右腕を見つめながら、改めて視線を顔へ移動させる。爽やかな優しいメガネの青年といった感じだ。
「あんた、子供はいるか?」
「いやぁ、僕みたいなネガティブな人間なんて結婚はおろか子供なんて……」
そっくりさんかと思いながら、龍兎は神へと一瞬通信を取る。
『と、言ってるが?』
『ん~、その晴山大介は”まだ”結婚も子供いないね。』
『どういうことだ?まさかとは思うが……』
『そうだね。そこは過去の世界線だね。未来は確定されているけど、大介が消えればその世界線は死ぬね。しかもその世界線、主人公はいないから補正は効かないね。』
龍兎は通信を切ると、大介を見つめる。
「こりゃ、骨どころか影も残らないくらいにしんどい奴かぁ?」
「どういうこと?」
「こっちのこと。それより、あんたはさっさとこの山から下山した方がいい。」
「それはできないな。僕は今、任務でここにきているんだ。」
「いや、あんたの死に場所はここじゃない。今回はオレともう一人でやるから。おとなしく下山してくれ。」
大介は首を傾げ、眉間にしわを寄せる。
「君は。なにかの組織に属しているのかな?僕らの方ではキミやもう一人は見たことない。」
龍兎はどうするか考える。記憶を消すからいいじゃんと気軽に行動できないのだ。
この世界線では主人公が”まだいない”。目の前の晴山大介はその主人公の父なのだが、余計な記憶を追加してこの先のこの世界線になにか別の「歪み」が出てしまっては、逆に世界線が死んでしまうしてない。龍兎は再び神へと通信をつなげる。
『どうするよ。』
『ん~世界線への影響は少ないけど……協力してもらう事には何ら問題はないけど、今回は確実に記憶を抹消もしないといけないね。これから起こる出来事も全て完全抹消しないとね。』
『なんか、組織に属しているようだが?』
『組織の人達の記憶も抹消か……まぁ、頑張ってよ。』
『ホント他人事なのな。お前。』
通信を切ると、龍兎は渋々自分の所在を明かす。
「オレは神の使いで世界の修正を任されている布田龍兎だ。にわかには信じられないかもしれんが、協力してほしい。多分、お前達の追っている奴は共通の的かも知れないんだ。」
大介はそのまま押し黙り、顎をさわり考え始める。数分の沈黙を破り大介は答えを出す。
「分かった。神の使いなのかは置いておこう。僕は晴山大介。魔法術対策機関の調査班を任されているよ。」
大介は若干怪訝そうな目つきで握手を求めてきた。龍兎はその手を取り、共闘の約束を結んだ。
────────────
「…………なるほど。にわかには信じがたいな。だが、共通の目標を打倒するのには賛成だ。」
「そうか、それは良かった。それでは四夜華、俺を降ろしてくれ。」
四夜華と皆無も話し合いが終わったようで、四夜華は皆無を解放する。
「さて、先程から悪意のある殺気がこちらへ向かっているようだな。」
解放されると同時、皆無はこちらへ向かってくる明らかに強大な殺気へ気付きその方向を村見つける。その言葉に四夜華は何も感じられず、皆無を見る。だが、その目には嘘を言っているような濁りはない。
「神の使いか……信じてみてもいいかもな。」
「そういえば、四夜華。俺の前では、一人称を普段のものにしてくれ。作戦を伝え合うときに支障をきたす。」
「ボクの一人称が違うといつから……」
「最初からだ。毎回「ボk」って言いかけていたからな。強制されているのならば仕方ないが、そうでなければ、その一人称でやり取りをするぞ。」
「いいや、強制はされていない。ボクの一人称は”ボク”だ。」
四夜華は皆無と同じ方を見つめると、走り出した。
皆無はその後を追う。そして、龍兎との通信を盗み聞きしていた皆無は神に通信をつなぎ、一応確認する。
『こいつも、守らないとこの世界線に支障はきたすか?神。』
『もちろん、必要不可欠だね。登場人物は一人でもかけてはいけないからね。』
『面倒な事になった。』
そして二人にとって今までで一番、鬼畜な任務が幕をあけた。
Mission:魔装戦士(過去)の世界線の主要人物を守りつつ大罪を天へと還せ。