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されど……

「四夜華、大介さん……ちょっと二人とも……」


あれ、僕たちはあのあと、どうなったんだったっけ?


あの後?


何のあと?


僕と四夜華ちゃんは確か……何か調査を頼まれて…


そこで意識が完全に覚醒した。


先ほどまで僕と四夜華ちゃんとあと、二人と戦闘をしていたような……


僕は目の前の青年の手を取り立ち上がる。

辺りを見渡すと例の古代遺跡の穴の付近に来ていることが分かる。


「二人とも良かった……」


「良かったって、僕たちは遊馬さんに頼まれて……」


頼まれて?依頼されて?なぜ?どのように?どんな依頼を?


その時、件の遊馬さんからの通信が入る。


「遊馬さん、晴山です。」


『二人とも無事かね?行方不明になって、数日経つが……』


「行方不明!?ボクたちがですか?」


話に聞くと僕と四夜華ちゃんは数日前から行方不明になっていて反応もなかったんだそうだが、今日の捜索で突然この付近で反応が復活して今に至るようだ。

僕と四夜華ちゃんは頭の中の違和感を探りながら、存在していたはずの記憶にない戦闘の痕跡をくまなく探す。だが、見つからない。


「大介さん。どうしたんですか?」


「いや……」


僕と四夜華ちゃんは記憶にはないが、確かに体感、体験したであろう記憶を語る。

語るというよりかは、戦闘があったのはたしかなのだが、ただ、その戦闘の内容、二人か三人かいた味方の事。とにかく、ここで激しい戦闘があった事を語る。


断片的でも、詳細でも、なんでもなく、ただ、ただ、ここでの戦闘は確かに存在した。

という事は覚えている。いや、覚えてはいないが、身体のどこかでその感覚がある。


例えるならば、そう、とても心地の良い夢然り、とても不快な夢然り、夢を見た後すぐに忘れるあの感覚だ。その感覚を話すが遊馬さんは脳に異常かと心配し、青年こと星々 琉聖青年はその話しを真剣に聞き、どうするかと悩む。


「とにかく、遊馬さん脳の検査を所望します。」


脳の検査の所望を申し出ると、琉聖青年の乗ってきたであろうバギーから枯れた男性の声が上がる。


「脳の検査ぁ?やめとけやめとけ。無駄だ。脳に異常はない。」


「一心さん。どうしてそんな事言えるんですか?」


男性は運転席から起き上がると大きなあくびを一つ繰り出し、目に涙を浮かべこちらを見る。


「そんなんいいから、早くこっち来い。」


「答えてください。脳の異常がない理由。」


「理由?パソコンがそうだろうが。メモリーから記録が完全になくなったら今のこいつらみたいになるだろ?それと同じだ。パソコン知らんけど。」


「PC詳しくないくせにメモリーとか横文字は知ってんのね……」


「いいから、早く来い。てか脳に異常ならそんな会話できないだろが。ほら、早く来い。もう、疲れたんだよ俺ぁ。」


僕と四夜華ちゃんと琉聖くんは一心さんのバギーに乗り込む。


「というか、一心さん。運転僕と代わってくださいよ。」


「んでだよ。お前の車トロいし、俺の車の方が速い。」


「やめて下さい。四夜華さん。一心さんの運転は危ないんですよ!俺がやります。」


この記憶が抜け落ちた感覚。


虚しくも悲しくもない感情。いや、もう、記憶すらもない。なんの話だったかな。


バギーのエンジンがかかった瞬間。


閃光と衝撃が走る。


吹き飛ぶバギー。投げ出される各々。


そして、僕は一人、何者かに首を掴まれている。


やっと息ができたのは、遺跡の近くに来てからだった。目の前には三人、いや、三匹の方がいいか?とにかく魔族がいる。見た目は完全に人だが、気配が完全に人外の出す雰囲気のソレだった。


「全く、こっちは今、遺跡の気分じゃないってのに。」


「ボクらは君の用があるんだよ晴山大介。」


「なぜ、僕…私の名を?」


身構えると、横の大柄な男が構える。それを静止するように喋っている青年はにこやかに話を続ける。


「今はそんな細かい事、どうでもいいじゃないか。それより、君はここで石を拾ったよね?」


石?確かに発掘作業で石棺の中から魔石を見つけたが、こいつらなぜそれを。

懐にある石へ目線を落とすと、青年は先程よりも口角を上げると眼にも止まらぬ速さで迫ってきた。


「みぃつけた。」


「しまった…」


青年が石を掴むと青く光輝き始める。そして、だんだんと熱を持つと青年の腕と僕の胸は燃え始める。


「こいつ……」


『申し訳ない。あなた達ではない。即刻、手を話していただけると助かる。』


石からそんな声がしたと思えば、青い光は白くなり、やがて爆発した。


────────────


天高くたなびく煙の中から出てきたのは魔族の青年ことギンロ=シルヴァスだけだった。

大きな音、衝撃に取り巻きのエファとサソリは目を見開きギンロへ近寄る。


「大丈夫かギンロ!」


「これは気持ち悪い感じですねぇ……」


そして、ギンロは心配するエファとサソリを押しのけて、近くになった大穴を覗き込む。

先程の石の魔力がこの中からするのだ。綺麗な透き通るような魔力。その唯一無二の魔力を追いかけて目線を落とす。


「くっ…逃がしたか。」


そして、唐突に来る眩暈と共にしりもちを着く。


「あいつは?」


「死んだ。この穴から石の魔力がする。」


「そうか………。」


「ほら、気持ち悪い感じになった。」


そして三人は男の仲間が来るのを危惧し、その場を後にしながら話す。


「石はどうする?」


「あの数キロの穴を降りるのは困難だ。引き上げられるのを待つ。それまでは、身を隠す。」


「いいですねぇ。気持ちいい感じです。」


────────────


物語の始終を見ていた神の使い二人は、改めて大罪を追う準備を始める。


「別れも言わずに突然…良かったんかよ。」


「そもそもあの二人は物語の主人公ではないのだろう?俺らと大罪達が去ってからの物語には接触不要だ。」


「うわぁ、皆無くん冷たいぁい。」


「俺らはあくまで神の使い。これ以上この物語にようはない。行くぞ。」


「へいへいそうでしたねぇ…っと。」


無田と龍兎は次元の穴をくぐると空白へと移動した。


戦士の名はまだ無く、戦士の命はまだ無い。されど物語は続く。


この語られることのない物語も。


完。

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