手足の自由を奪われた晴山 優吾は上空から落とされる。頭に被された麻袋を首を振って落とす。だんだんと緑が近づく中、優吾は叫び声が出る前に茶色の地面を目の前にする。地面に激突する瞬間、すれすれに止まった。
「死んで……ない?」
背中が何かに引っ張られているのを感じ、背中へ視線を向ける。優吾の背中を掴んでいたのは、全長数メートルはある黒い塊だった。
「
「クロ……スケなのか?」
「
大きな黒い鳥はクロスケということになった。クロスケは優吾を降ろしながら着陸する。そして、クロスケは自分自身を証明するため、大きなくちばしであまがみ程度の力で優吾の腕を掴み体を撫でるように最速する。
「お前、やっぱクロスケなんだな……本当に魔獣だったのか……」
「
優吾がクロスケを撫で終わるとクロスケはみるみると小さくなっていった。
「お、小さくなった。魔力切れか?」
「
クロスケは項垂れると、優吾の肩に乗り眠ってしまった。優吾は魔獣だから魔力切れで疲れたのかとクロスケを肩に乗せたまま裸足で森の中を彷徨った。
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満干から数キロ離れた県境付近。魔法術対策機関 本部が管理する森がある。白い光が差し、美しい光景もさることながら古代遺跡もあり、いまだに調査が進められている。そんな森林管理をする班が第三班である。班長一人と班員一人という機関でもさらに極小の人数の班が管理をしている。森林管理の内容は、木の病気の有無。周辺に生息している動物、魔獣の生態調査。時には大量に発生した魔獣の駆除もしている。
「ここら辺も異常はないな。」
「それじゃ、次は……えっと…ここが、東ー1なんで、ここから北にむかって古代遺跡の状態っスね!」
「おう、そうか、んじゃ、次行くぞ」
班長
「相変わらず北側はブキミっスね……」
「まぁ、木々も光を遮ってるからしゃーないなぁ…」
二人は奥へと進んでいく。しばらく暗い道を歩いて開けた場所につく。緑一面だった森はいきなり土の色が強くなる。その真ん中に大きく黒い大穴が深くまで空いている。
「相変わらず遺跡なのか、大穴なのか分からなくなりますね……」
「まぁ内部は螺旋状に空間が広がっているみたいだから遺跡っつう解釈も分からなくもねぇな……ほら、降りる準備。」
了解っスと朱晴は大きなリュックから安全帯とロープを取り出し、自らに装着していく。ものの数秒で装着を終えると朱晴はそのままロープを一心へ渡し穴の中へ壁伝いに降りていった。大穴の中で朱晴は懐中電灯一本で照らしていく。そしていつも使っている安全な通路を見つけるとロープを引っ張り合図をする。その合図で一心はロープの手を止め朱晴の合図を待つ。大穴内部へ入ると朱晴はロープを引っ張り安全に移籍へ入れたことを合図する。そして懐中電灯で遺跡内を照らし、状態を記録していく。
「ここは、前と変わりなし……ここも大丈夫……」
記録が終わるとロープを引っ張り一心へ合図を送る。一心もロープを引き始め朱晴は壁伝いで地上へ戻る。
「異常なしっス!」
「おう、そうか。んじゃ、戻るぞ…」
いつも通りに調査を終え、三班は乗ってきたジープに戻るため北道と別の道で調査しながら戻る。帰り道、一心は樹木の状態が気になった。いつも、通りながら戻る帰路の樹木の様図画おかしい。杉の木なのだが、異様な雰囲気と何か黒い靄を出している。一心は朱晴の信仰を止めて確認する。すんと鼻を鳴らすと眉間にしわを寄せて朱晴を後ろへ下げる。
「どうしたんすか?」
「瘴気だ。この…ここいら一帯の杉が瘴気を出してる。」
朱晴は一心の脇から顔を出し確認する。
「うわ!なんスかあれ!」
「知らん、何者かが杉にへんなもんぶち込んだんだろ。おい、マスク持ってきてるか?」
「二人分、二回使用ならあります!」
「よし、装着していくぞ。」
そのまま二人は防塵防毒マスクを装着して黒い霧の中を進んでいく。数分後人影が見えてくる。こんなひどい瘴気の中、マスクもつけずに杉の木に何かを注入している。一心と朱晴は目を合わせてうなずき人影を挟むように静かに回り込む。
「おい…お前、何してる。」
人影はローブをめくり正体を見せる。サソリの尻尾を持つ細身の男。その男は一心と朱晴を見てため息をつきながらも笑みをこぼす。
「ふふっ…バレてしまいましたか……」
サソリ男はそのまま一心の方へ空の注射器を投げつけ目くらましをするが、一心はその注射器を避けてサソリ男へ距離を詰める。
「お前、琉聖のヤツが言っていた
サソリ男はまた短く笑うと一心から距離を離すように跳躍する。朱晴はその跳躍に合わせて風魔法のエアロボールを撃つが、サソリ男はそれを見向きもせずに避ける。
「えぇ、えぇ。私は
丁寧に礼をすると、三班の二人を見てニヤリと口角を上げる。一心は手を前に出し、集中する。目を閉じさらに集中を高め開眼する。魔力が集約され、虚空に熱のよる蜃気楼が現れる。その蜃気楼から刀が顕現する。
「
一心はその刀を腰に携え改めて抜刀する。刀身が銀色に輝く刀は瘴気をの中でも輝いている。サソリはそんな一心をみて首をかしげる。
「あなたも…魔族ですね……?」
「それが?」
「実にもったいない!あなたのような上級の魔族でしたら人間に従わずとも力でねじ伏せればよいではないですか!」
サソリのいうことに一心は刀を構え無言で飛び掛かる。
「お前にはわからねぇさ……人間の素晴らしさってのは……」
「気持ち悪いですね……」
一心は目で朱晴に攻撃するように合図する。朱晴は両手にためていたエアロボールをサソリにむかって放つ。サソリはその攻撃をよけ一心を蹴とばす。一心は体勢を立て直しながら着地し、サソリの方を睨む。サソリは二人から距離を置き、ホコリを払いながら懐中時計を見るとわざと驚いたように口に出す。
「危ない危ない……おっと、もうこんな時間ですか……私はこれで失礼……後はこの方が相手してくれますよ。」
懐中時計を閉めると同時に二人の目の前には黒い瘴気を纏った人影が現れる。正気を払うとその正体を現す。黒い羽、金色の瞳、鋭い爪、口を開き軽く発生するとカァと鳴く。
「カラスの魔族か……」
カラス魔族はステップを踏み二人へ向けて挑発するように人差し指を立てる。しかし、その異常な殺気に二人は構えるだけで動こうとしない。カラス魔族は首をかしげると再度ステップを踏みながら地面から何かを拾い二人へ投げる。一心はそれを刀ではじき、朱晴はそれを最小限の動きで避ける。カラス魔族はその動作にさらに何かを投げる。二人はよけながらカラス魔族との距離を詰め攻撃を仕掛けていく。
「小石か?」
カラス魔族はカァと短く鳴くと視線を一心へ向けながら朱晴へ石の投擲を始める。朱晴はその投擲を避けながらカラス魔族へさらに距離を詰める。一心はカラス魔族へ刀を振り下ろし攻撃を続けるが、避けながら投擲を繰り返し、一心へ挑発をするように視線を向ける。
「やろう……!」
少しイライラしながら刀を振るが、当たらない。数分の攻撃が続き、二人は肩で息をするが、カラス魔族はホコリ一つもついてない。
「なめやがって……」
一心が刀を構えなおし朱晴へ目配せすると二人は一斉に走り出す。カラス魔族はそのまま金色の目でにらむと威嚇をするように魔力を放出する。二人はその魔力放出に背筋が凍る。一心は緊張適度で済んだが、朱晴は魔力に当てられ完全に慄いてしまう。
「こいつ、なんて魔力量だ……大魔導師級だ……」
再び硬直する戦場。その戦場に一般人と小さな魔獣が何食わぬ顔で入ってきた。裸足で現れ、ボロボロの服に汗だくの額。完全に疲弊しきった晴山 優吾だった。
「す、す、すみまへぇん……そ、遭難しちゃって……た、すけ助けてくだはぁい……」
カラスは優吾に目をやると後ずさりする。それを見た一心はそのまま優吾を壁にしてカラス魔族へ踏み込み刀を振った。カラス魔族はその攻撃を避けることができず袈裟斬りにされるが、傷がつく程度であまり効いている様子はなかった。カラス魔族はそのまま退散し三人の前から姿を消した。一心はボロボロの優吾に近づき胸ぐらをつかんだ。
「てめぇ…何考えてやがる!」
優吾は怒られているのにも関わらずヘロヘロな様子で謝る。
「す、すみません……でも、事情も聴いてほしいです……」
一心はそのまま突き飛ばすとジープのあるところまで歩いていく。
「おい、覇々滝。そいつつれてこい。」
「お、おっす。」
朱晴は満身創痍の優吾に肩を貸し、一心の後を追いかけた。
23:了