そよ風が吹く午後、魔法術対策機関のマークがついたジープが森の地面を転がる。十分な食事と水分を与えられた晴山 優吾は元気を取り戻した。魔獣のクロスケも優吾の肩で毛づくろいを始める。
「ふぅ……ありがとうございます……おかげで生き返りました……」
「
「ハァ…そうかよ…ったく…」
ジープを運転しながら一心は瘴気のないところまで移動している。バックミラー越しに朱晴は優吾の顔を見つめる。
「な、何か?」
「いやぁ…どこかで見た顔だなぁ…と……あ!思い出した!はんちょー!この人、例の石の人ですよ!確か、名前は…晴山……優吾!そうだ!この人晴山優吾ですよ!」
一心はブレーキを踏み、バックミラーで優吾の顔を見つめる。
「そういや、事情がどうとかなんとか言ってたな?まさか戦ってる途中に……とかか?」
「いや、石はもうずいぶん前に没収されましたよ?俺は夏休みを満喫していたら、突然家の窓が割れてそしたら、ここに落とされたんですよ……」
訝しげにする一心は瘴気の地帯を抜けたのを見るや否や、運転席を降り優吾へ近づき、石がないかを確認する。石がないのを確認して本部へ連絡をする。
「……おう、そうだ、今一緒にいる……知らん、なんか落とされたとかなんとか……いや、だから、本人が言ってんの…あぁ……まぁいいわ……とりあえず……任務が終わるまでこっちで預かるから、琉聖とか元監視係のワッパにも伝えとけ……」
通信を切ると優吾と顔を合わせる。
「とりあえずお前、任務が終わるまでそこで大人しくしてろ。」
「はい……」
溜息をつきながらも一心は運転席に戻り、ジープを発進させるため、ギアをドライブにいれた瞬間、フロント部分に何かが落ちてくる。その衝撃で車は半壊状態で燃え上がる。一心と朱晴は優吾と荷物を迅速に取り出し急いで車を飛び出す。
「ったく、なんだ……」
「はんちょー!大丈夫ですか!?」
おう、と一心は人個で返事をする。半壊した車へと目をむけ警戒する。黒煙とともに大きな塊が人型の影を映す。
「そうでないと困る。」
黒煙出てきたのは
「なんだぁ?さっきのサソリ野郎の敵討ちか?」
「そうではない。俺は、そこにいる石を持っている少年が必要なだけだ。」
そういいながらゾウ男は優吾を指さすが首をかしげる。一心は優吾に視線を向け、ゾウ男へ視線を戻す。
「そうかい、あいにくそんな奴は今ここにはいないから人違いだな……
一心は朱晴へ目配せして攻撃に参加するように促す。朱晴は頷き、優吾と荷物をその場に置き、手を前に構える。一心と同じように集中する。風が渦を巻き、一心のように刀を顕現させる。
「
刀を腰に携え、一心のように構える。一心はさらに目配せし合わせるように合図を送る。朱晴は抜刀し、一心と合わせてゾウ男へ斬りかかる。ゾウ男は防御するそぶりも見せず、二人の刀を体で受け止める。
「か……!」
「……ッ!」
「ふん、同じ魔法術対策機関でも力量に差があるのか……前に戦った奴はもう少し強かったぞ……?」
一心はその言葉に琉聖の顔を思い浮かべ、ジワリと殺気を出したがすぐに抑え朱晴へさらに目配せをする。朱晴は頷くと一心に合わせて、バックステップを踏み距離をとる。そして、動きを合わせたまま、一心とさらに斬りかかる。連続する斬撃にゾウ男は二人を咆哮で吹き飛ばす。強制的に距離を空けたゾウ男は半壊している車を完全に使い物にならなくするため姿を変えながら丸める。
「そうだ、自己紹介がまだだったな…
銀色の鎧に覆われた身体に灰色の身体の巨体。太く大きい脚はゾウそのものでその足は地面を思い切り踏むと衝撃が三人の方へと向かっていく。
「ㇵァ……全くめんどくせぇことを引き受けちまったぜ……おい、覇々滝。そいつ連れて行逃げろ。」
「はんちょーは?」
「後で追いつくさ。」
一心は先ほどよりも速く動きエファへ斬りかかる。
「少しはやるようだな。」
「神気取りのお前さんに教えてやる。魔法術対策機関の班長にはなぁ……」
エファはその緋色に燃え上がった片翼を目に映し圧倒される。一心は刀を構え、自分の燃える片翼で煙草に火をつける。
「班長には大魔導師だけじゃなくて、純血の魔獣の幻想種がいるんだよ……」
「その翼は……
「ご名答……」
爆発する走りと共に熱気と発火が巻き起こる。その音を聞いた朱晴と優吾は脇道に逸れて回り道でエファを追い越していた。
「今の音大丈夫なのかよ?!」
朱晴はにこやかに爽やかに、だがどこか悲しそうに優吾に微笑む。
「大丈夫っス。はんちょーは私がいると本気出せないんで……それより、靴を貸したんですから怪我しないように走ってくださいよ?」
「おう、ありがとう!でも…ちょっと体力が……」
えぇ…と朱晴は困惑し、速度を落とし優吾の走る速度に合わせる。走り始めて数分、二人と一匹はエファを追い越しわき道から順路へ戻る。そのまま走っていると人影が見えてくる。朱晴はその影に止まり、優吾は朱晴の背中にぶつかる。
「ちょ、いきなり止まんな!」
「はぁ、はぁ……これは厄介っス……」
目の間には
「優吾さん、後ろに下がってください。」
刀を構える朱晴は抜刀しながらサソリへ斬りかかった。
「気持ち悪いですね~。」
「きもいのはそっちっス!」
サソリは刀を尻尾ではじきながら変身をする。
「エファが自己紹介したので私も改めて、
「聞いてないっス!」
サソリは嗤いながら朱晴の攻撃を受け流し、腹部へ蹴りを一発入れる。距離が離れた朱晴へサソリはニヤリと嗤う。
「どうしました?震えてますよ?上司と一緒じゃないと怖いんですか?」
朱晴は文字通り震えている手を落ち着けるため深呼吸をする。後ろでは優吾も震えながら朱晴へ心配そうな視線を向ける。
「さて、そこの少年渡してもらいますよ?」
サソリが指を鳴らすと、優吾の背後に黒い影が落ちる。朱晴も優吾もその影に目を向ける。現れたカラス魔族にむかおうと朱晴は踵を返したが、サソリは尻尾を朱晴の腰へ巻き付け拘束する。
「くっ!」
「おっと、私の相手をしてください。そして、彼は少し弱らせてください。」
サソリはカラス魔族へそう伝えると朱晴を拘束したままどこかへ跳躍し移動した。
「あ!おい!」
優吾は追いかけようとサソリを追おうとするがカラス魔族が森の中へと蹴り入れた。
「優吾さーん!私は大丈夫なので!死ぬ気で逃げてください!!」
「ははっ!届いていると良いですねぇ!」
朱晴は刀を納刀し抜刀の構えをする。風の魔力を刀へ送り、そして一気に抜刀する。
「
一度の抜刀で斬撃を数発飛ばす朱晴が一心から教わった魔法。その百風繚乱はサソリへ直撃するが、サソリはにやにやと表情を変えずにそのまま朱晴を拘束から解放する。空中で解放された朱晴は納刀し、エアロボールを下に打ち落下の衝撃を和らげながら着地する。
「油断、大敵!!」
着地と同時にサソリは尻尾を朱晴の首元へ突き出すが、朱晴は抜刀しながらその攻撃を防ぐ。
「気持ち悪いですね~本当に気持ち悪い……」
朱晴は肩で息をしながら刀を構えながらサソリを睨む。ところ変わって森の中へシュートされた優吾は土煙から立ち上がり吐血する。ほぼ瀕死だが、カラス魔族は「弱らせる」という基準を守るため、優吾へ近づくと腹部へ膝打ちを入れる。優吾はそのままその場うずくまり揺らぐ視界の中、立ち上がろうと必死に脚に力を込める。
「カァ……」
低くうなるとカラス魔族は優吾の頭を掴み首をかしげながら目を合わせる。
「てめぇ……絶対許さねぇ……」
吐血をしながらも優吾はカラス魔族を睨んだ。
──────魔法術対策機関 医療班 研究スペース──────
博子は石の資料を打ち込み終わると腕を伸ばし深く長い溜息を吐く。ふと石のことが気になり目をやると石は青色に点滅しており魔力を計測する装置も魔力の反応を検知している。
「な、今までただの石だったのに……」
数値はだんだんと上がっていき、測定器の数値が最大数値を追い越しエラーの表示がされると装置からは煙が上がる。博子は慌てて装置から石を出すと石はまるで意志を持っているかのように浮き始め、そのまま研究スペースの窓を割り外へ飛び出していった。
「えぇ……そんなのあり?」
博子は打ち込み終わった石の資料を書き直すためそのすべてを消した。そして、博子は琉聖へと連絡する。
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カラス魔族を睨む優吾は血を吐き捨てるとカラス魔族の顔面に拳を叩き入れるが、カラス魔族は首を傾げ優吾を投げ飛ばす。投げ飛ばされた優吾は地面を跳ねながら大きな木へ激突する。
「く……そ……が……!」
力を入れようとするが、優吾の体には力が入らない。カラス魔族はそんな弱り切った優吾に近づき担ぎ上げようと手を伸ばすが、小さな影がそれを邪魔した。カラス魔族の足元にいるその黒い影は魔獣クロッキオ=シュバルツのクロスケだった。クロスケは飛べないためカラス魔族の足元でカラス魔族の足をつつき、必死に止めようとしている。
「く、クロ…スケ?」
「
カラス魔族はそのカラスに目を向け動きが止まる。だが、我に返ったようにカラス魔族はクロスケを蹴とばす。クロスケはそのまま飛び、地面に落ちる。優吾はその光景に口を開け、慌ててクロスケへ駆け寄る。クロスケは辛うじて息をしているものの。かろうじて息はしている。苦しそうに目を開けるとクロスケはカァ…と弱々しく鳴く。
「てめぇ……」
優吾はクロスケを安全な場所へ置くとカラス魔族をにらみつける。そして、痛む節々を気にも留めずに走り出す。優吾の拳がカラス魔族へ届く直後、空から青い光が優吾のもとへ落ちた。
「魔装!!!!」
優吾の拳はカラス魔族に止められたが魔装が完了したことによりカラス魔族は吹き飛ぶ。
「
カラス魔族は土煙から立ち上がりホコリを払う。
「カァ……」
そのまま二人は一歩踏み込んだ。
24:了