『第三班より、第一班、第二班へ救援要請。各班員は直ちに満干周辺の管理区へ急げ。』
要請を聞いた第一班と第二班はすぐに準備をする。
「晴山さんでしたっけ?いいんですか?」
雪白夢希は彩虹寺を見たが、彩虹寺はそのまま走る。
「恐らく、今は、とにかく任務をするだけだ。」
放送は追加で伝え忘れていたことを発信する。
『なお、重要監視対象の晴山優吾もいる模様。保護の準備も必須。』
その放送に彩虹寺は顔の色を変えた。
「よかったですね。誘拐事件解決しそうで……」
本部内、各班は第三班の救援準備をしている中、第一班 班長 星々琉聖は代表 遊馬 冬至と会議をしていた。
「話はこれくらいにしようか……」
「遊馬さん、本当にいいんですか?」
「決めるのは、彼だ。我々の協力者になるのなら支援を。それ以外なら徹底的な排除を…」
石の分析結果の資料を持ちながら、二人は顔を見合わせる。
「分かりました。それでは……」
代表室をあとにしようと星々は頭を下げる。背を向けた星々に遊馬は「待ちたまえ」と言って何かを投げる。星々はその白い封筒を取り中身を確認すると、「なるほど…」と言ってその封筒を懐に入れた。
「確かに、決めるのは彼自身でしたね。」
星々はそういって部屋を後にした。
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緑の閃光を追い、一心と朱晴は本部へ通信をしながら移動する。
「こちら、三班。連れ去られた晴山優吾の捜索中、魔族同士の戦闘に遭遇。一匹が凄まじい魔力を放出してカラス魔族へ攻撃を仕掛けて約一キロの距離を約一分の速さで移動し崖へ激突。今その魔族たちのもとへ一緒にいる班員は全身打撲だが、今のところ動けているから同行を継続させる。以上……」
通信を切り、一心は前を見る。前方は土煙が晴れ始めており、森の緑が一面更地となっていた。
「あの魔力量の溜め方は……」
魔力とは血のように全身に駆け巡っているものだ。だが、一心が対峙した緑のワシは異様な魔力の溜めめ方をしていた。”全身の魔力を足に集中”ではなく、”足の魔力を増幅させて”溜めていた。突然、魔力がそこに現れたかのように増幅しだしたのだ。
「はんちょー?どうしたんスか?」
「いや、なんでもねぇ…それよりもっと速度上げるぞ……ついてこれるか?」
「愚問っスね……行けるに決まってるっス!」
「そいじゃ、行くぞ……」
二人はそのまま走る速度を上げて魔族の元へ向かう。
「とういうか、はんちょー…気になったんですけど緑の奴はなんか魔族というより人が鎧を纏っていた様にも見えたんスけど……」
「行ってみりゃ分かんだろ……まぁ、敵意は感じなかったな……」
数分後、二人は良好な視界で崖まで着いた。そこには、崖から足が抜けなくて必死の緑の魔族がいる。二人は警戒しながら武器を構える。緑の魔族は二人に気づいたのか、さらに必死に足を抜こうとする。そして、何か閃いたようにハマった右足と逆、左足に魔力を溜める。そして、崖に平行になるように回し蹴りを繰り出し崖を一部破壊しながら抜け出すことに成功した。そして、接近していた二人の方へ向き直り、急いで魔装を解く。二人は魔族が晴山優吾の姿になったことで武器を下げつつも訝しげに優吾を見つめる。
「ほら、俺だよ。俺。」
「年寄りだからってバカにしてんのか?」
「いや、あんたどう見ても三十代とか四十代だろ……てか、オレオレ詐欺じゃねぇよ!晴山優吾本人だよ!」
「どうも信じがたいっス……」
「いや、信じるも何も、お前ら俺のことなぁんにも知らんだろ!」
三人の言い争う中、三班の二人の後ろからジープが二台到着した。その中からは第一班と二班の面々が降りてくる。真っ先に優吾へ駆け寄ったのは、一班 副班長
「すまん…」
「石は没収したはずだが?」
「いや、俺は、その、なんだ……クロスケが魔族に傷つけられてそれで……気づいたら石が手元に振ってきた…んだよ……」
そして、優吾は石を彩虹寺の手に渡す。その間にもう一人の手が横切る。第一班 班長 星々琉聖だ。星々は彩虹寺から石を取ると、優吾へ返す。彩虹寺は目を見開き星々を見つめる。
「いいんだ。研究結果、この石はただの石ということが分かったし、何より、ココから満干まで数10㎞あるのに石の方から優吾君へ向かってしまっては誓約もなにもあったもんじゃない。」
そして、星々は懐から紙を一枚優吾へ渡す。
「これは?」
「ん……そうだな~覚悟の証明?かな?それにサインをして僕に渡すまでじっくり考えるといいさ。」
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魔法術対策機関
代表 遊馬 冬至 年 月 日
協力者契約書
以下の者は協力者とする
晴山 優吾
記
1.魔法術対策機関において上記の者は一般人であるが、緊急事態時は魔法術対策機関と同等に扱うこと
2.ただし、上記の者は魔法術対策機関の班員ではないため、会議等の機密情報は当人へは必要以外に口外してはならない
3.この契約書に強制力はなく、サインも当人の意志を尊重するものとする
本人 印
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優吾はその紙を見つめ息を飲み、封筒へ入れ直す。とりあえず今回は保護対象として保護されることになった優吾はその羽音を聞いて空を見上げた。黒い影が向かってくると肩へ止まる。
「
クロスケが飛び乗ってきたのだ。元気な様子に優吾はクロスケを胸に持ってきて抱きしめる。
「クロスケぇ!!生きてたのかぁ!よかった……」
「
クロスケは苦しそうな声を上げるがどこか嬉しそうだった。班員達はその光景にほほえみながら、車へと乗り込んでいく。優吾は崩れた崖の方を見てクロスケをみせる。
「じいさん……ごめんな……ありがとう。」
そのまま優吾とクロスケは魔法術対策機関の本部を経由し、自宅へ帰された。
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???──────
コンピュータや配線むき出しの機械が並ぶ暗がりの中、画面に映った鎧を纏った晴山 優吾の映像を見返す瞳はキーボードを打ちながら、試験管の液体を混ぜる。そこへ、銀色の使徒の三人が入ってきた。
「ん~?あれ?晴山優吾は?」
殺気こそないものの、銀色の使徒の三人は少し戸惑いながらもエファとサソリが答えた。
「す、すまない。逃がしてしまった。」
「邪魔が入ってしまって……」
ふーんというとその手はボタンを押す。 そのボタンを押したことにより横にあった扉が開き、手枷、足枷、口枷が装着されたボロボロの人間が入ってくる。
「彼、貸してあげるよ。晴山優吾をここまで連れてきてくれればいいから……」
ギンロは少し訝しげに画面を見つめる人物に質問する。
「ねぇ……晴山優吾を連れてきたら本当にうまくいくのかい?」
「さぁ、でも、試してみないとわからないじゃない?」
手を休め、その人物は銀色の使徒へ向く。丸眼鏡をはずし、頭へ乗せる。長身の男性だが、その病的な肌の白さと目の下のクマが不気味に感じる。
「とりあえず、頼むよ?こっちもゆっくりしてられないんだから……」
ボロボロの人物は全身の枷を外されると、三人の前で止まる。そして、長身の男へ向き直ると指示を仰ぐように見つめる。男はその視線を察し、カップ麺をすすりながら後ろ向きで手を振る。
「とりあえず、その人たちのいうこと聞いて。最重要な目標は晴山優吾……この子をここまで連れてきて……」
男が写真を見せるとボロボロの人物は何も言わずに三人の方へ向き直る。ギンロは微笑みながら肩へ手を乗せる。
「それじゃ、よろしく頼むよ。」
銀色の使徒と男の使いはその部屋を後にした。
28:了