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32:呪剣

龍の呪い。数千年前の英雄ドレイク=ジークフリートが受けたとされる呪いでその身は不死となり、あらゆる毒、魔法、まじないを無効化する体となってしまい、さらに自分の魔力を使用してしまうとその身を龍へ変えてしまう。不死身となったドレイクはその呪いに長年頭を悩ませていた。呪いを受けて約20年後転機が訪れた。知り合いが年老いて死んでいく中、ある人物が声を上げた。魔法も使えず周りからはドレイクと比べられ落第騎士と言われた弟 ドラゴ=ジークフリートだった。剣、魔法、魔術、魔導ができなかったドラゴが到達したのは魔拳闘士であった。ひたすらに体を鍛え、魔法を鍛えたが、その能力は特筆せず悩んでいたドラゴは拳に魔力を乗せることを思いつき魔拳闘士の道を選んだのだ。


「バカ兄貴。俺がお前を解放してやるよ。」


齢50代になる白髪頭のドラゴはドレイクへ決闘を申し込んだ。ドレイクは視線を合わせ、静かにうなずき、決闘に応じた。


そこからは本人たちも記録に残して居らず……ただ、二人が戦ったであろうそこには紫に鈍く光る球が装飾された剣だけが刺さっていた。


────────────


龍の呪いの大体の説明をきいた優吾はそれでもことの重大さに気づいていなようにも見えた。というより、自分には全く関係ないという顔をしている。そんな優吾の態度に星々は少しあきれたような顔でその呆けた顔を見つめる。件の当人は体に刻まれた龍の刺青を見つめている。


「優吾君さ……ことの重要性、分かってる?」


「呪いって言われましてもね……俺、魔力ないから子の呪いって実質メインの害である龍への変身ってないも同然じゃないですか?」


確かに…と、うなずく星々は慌ててその考えを改め首を横に振る。


「確かにそうだけど、魔装をするときに未知数なモノは潰しておきたいんだよ。」


「でも、呪いの解き方って分からないんですよね?」


星々は黙り込んでしまう。そう、一番厄介なのはこの呪いはいまだ解呪方法が見つかっていないことだ。ジークフリート兄弟の戦闘を見たという資料があれば、解呪方法も分かるかもしれないが、文献は全て二人のその後のみのことしか書かれていない。


二人は、互いの魔力で消滅した。


弟のドラゴが兄のドレイクを剣に封印した。


完全に龍になったドレイクをドラゴがとっちめて下部にした etc.……


このように様々な見解があるので、真相を知るのは二人だけなのだ。

困った星々は再び治療室を後にした。そして、入れ替わりで医療班 班長 博子が紙を一枚持ってやってくる。


「ほいほい~、お待たせたね~」


優吾は博子の方へ向き直り、紙を見せられる。


「今回も異常はなかったね~ただ……」


「ただ……?」


博子は少し考えた後頷き、優吾へ伝える。


「率直に聞くよ?君……魔法や魔術を使ったことってない?」


優吾はその質問に首を傾げる。

晴山事態の人生において、魔法、魔術などの魔力を使った行為は縁遠いものだ。小さい頃の記憶は魔法を使う授業で別室で座学をさせられたり、いじめまではいかないが魔力がないことをからかわれたりもした。そんな人生だったので、魔法や魔術を使ったことは絶対にないはずだ。

首を傾げた優吾に博子さんは言葉をさらに明確に正確にして質問した。


「もう少し正確に言うとね…禁術の類や自分には身に余る魔法を使ったりしてないかい?」


優吾は、博子が何を言いたいのか訳が分からないようでさらに首を傾げて首を横へ振った。博子は、そんな優吾の様子を見て持っている紙を見つめる。数分黙り込み、そして、博子は口を開いた。


「魔力回路」


優吾はその言葉に博子を見てそのまま説明を聞く。


「一般的に”魔力がない”と言われている人はね、魔力回路が起動していないだけなんだ。実際、お金をかけて魔力回路に施術を施せば、魔法を使えるようになるし、魔術書を読むことだって可能なんだ。」


優吾は博子の説明にうなずき口を開く。


「つまり、俺の魔力回路は施術すれば魔力が使えるってことですか?」


博子は首を横へ振り、手に持っている紙を優吾へ見せる。


「晴山優吾君。君の正確な診断はね……魔力回路断裂だよ。それも取り返しのつかないくらいのレベル5だ。」


優吾は、ちゃんと紙を見てその目で真実を確認する。


「回路断裂って……俺は、物心ついてから言葉を話せるようになって、魔法が使えないって父や母から聞いて……それで……」


「わかる、ただ、事実なのは変わらない。」


優吾は、涙を流したがその口からは感謝の言葉が出てきた。


「……ありがとう、ございます……真実が知れた……」


博子はその言葉に驚いたが、すぐに優吾と向きあう。


「いや、医者として当然のことをしたまでさ。」


「でも、だったら、俺は今までどうしてこの石で変身できていたんだ?」


疑問が一つ消えたが、また一つ増えた。優吾はひとまず、星々のところへ行こうと部屋を後にしようとするが、博子に止められる。


「ちょっと待ってくれ…君は一応、患者なんだ、ここで大人しくしてくれ。」


「いや、今、この呪いは俺にとってとっておきのバフです。」


優吾は部屋を出て、星々を探しに行った。そんな優吾の背中を見て博子は頭を抱えつつもどこかほほえましくその様子を見ていた。

そのころ一班の会議室にて、星々は龍の呪いの文献を調べまくっていた。ドイツ語、英語などの文献をパソコンで翻訳しながら見ているが、なかなかそれらしいものは出てこない。


「こりゃ、困ったな……」


そんな頭を抱える星々に夢希が紅茶の差し入れを持ってくる。


「お兄様、まだ、前の調べものの途中ではありませんでしか?」


「ん~早急に調べないと、優吾君に何かあったら僕は大介さんに顔向けできないよ。」


星々が腕を伸ばし再び集中へ着こうとすると会議室のドアが開く。肩で息をした優吾が嬉々として入ってきたのだ。そんな態度の優吾に夢希は不快そうな顔をしながら、星々へ近づく優吾を止める。


「優吾さん。協力者とはいえ、勝手に入ってこられては困ります。」


優吾はそんな夢希に謝りながら、星々へ診断結果を見せる。星々はそんな診断結果に顔を青ざめる。


「魔力回路粉砕断裂のレベル5……」


その診断結果に夢希も目を見開き驚く。固まった夢希をよそに星々は優吾へ近づき体中を触る。



「体は何ともないのかい?というか、これは呪いの影響なのか?」


「いや、前から言ってますけど、俺、魔法も魔術も使えないって言ったじゃないすか……その謎がさっき明らかになったんですよ……これで、龍化の呪いはないも同然……」


そして、嬉々として話す優吾の言葉に星々は被せて叱る。


「君は!今、何を言っているのか分かっているのか!!!!?君の身体は今、立っているだけで奇跡の代物と言っても過言ではない!!!!」


「……え?今の俺ってそんなまずい状態なんですか?」


「博子さんから聞かなかったのか?!」


首を横に振る優吾に星々は必死に事細かに説明をする。


魔力回路粉砕断裂

体中に張り巡らされている魔力回路が切れて魔力が生成できない状態となっている状態。

レベルが5段階あり、1段階だとなんとか治療はできるが、2~4段階まで行くとほぼ治療は不可能。最高レベルの5に至っては、死んだも同然のレベル。


「俺の身体って、奇跡の上に成り立ってたんだ……」


「だから……ッ!」


星々は優吾への叱責を続けようとして優吾の背後を見て止まる。止まった星々を不思議がり、視線を合わせていくとそこには博子がいた。星々は博子へ迫り優吾の診断結果を再度問いただす。


「博子さん!この診断結果はなんですか!ふざけているのなら……」


「ふざけてないさ。事実で真実で明確に正確に的確な診断結果だ。私の診断に間違いはない。」


「じゃあ、今すぐ彼へ手術を……」


「必要ない……すでに彼の魔力回路は手術されている。それも私よりも的確に、ね。じゃないと今彼は口から吐血し、耳や目から血を垂れ流しているからね……」


星々は黙り込み、椅子に座り直す。博子は近くにあるソファへ座る。


「そんな焦ることもない。というか、星々、君も彼に言うことがあるだろう。」


星々は思い出し、石の成分表を探す。見つけた石の成分表を優吾へ見せる。




「えっと、これは?」


星々が口を開く前に博子が口を開く。


「それは、君の石を分析した成分表……見た通り、なんたそこらにある石に変わりない。さらに、魔力分析もしたが、魔力の”ま”の字もない本当にそこらに転がっている石だ。」


「はい?ただの石?そんなわけ……」


優吾は石を握り、みんなの邪魔にならないところで魔装する。鉄の塊が宙へ浮き優吾へ刺さり鎧の形を生成し魔装を完了する。その際、星々や夢希は武器が取り出せる体勢をとっていた。だが、優吾はいつも通りであった。


「ほら、変身できた!これって、魔法の一種ですよね?」


その言葉に一同は口をつぐむ。


「え……っとぉ?これって魔法、魔術って類じゃなさそうですね。」


そして、博子が口を開く。


「君のその力には確実に魔法や魔術の類や錬金術の類も入っている……”多分”というのが今の結果なのだよ……」


「多分って……」


魔装を解き、近くの椅子に座る。そして、星々は誤解がないように補足で口を開く。


「一応、君の使う、吸収アブゾーブくれないくれないながれすいとかは魔力がちゃんと観測できたんだ。でも、それだけなんだよ。つまり、魔装については何もわからないんだ。」


優吾は数分黙ったが、大きくため息をついて顔を上げる。


「いやぁ、今日は何か、色々と分かって感無量っていうか……目からウロコ?ですね……」


その場の全員が笑おうとしたとき、本部の警鐘が鳴った。


『本部へ通達。Kブロックにて黒い鎧の魔族が暴れていると報告が入りました。現状、建物への被害のみで人への被害は確認できていない。第一班は直ちに急行せよ。』


放送を聞き、第一班の二人は顔を見合わせてうなずき、すぐに部屋を後にした。優吾も慌てて準備をして出て行こうとしたが、博子に呼び止められる。


「な、なんですか?」


「君のその力、もしかしたら、龍の呪いを無効化しているかもしてない……あの剣は君が使うのにふさわしいと私は思う。」


優吾は何が言いたいかわからず、首を傾げ一瞬考えたがすぐに思考を放棄し博子へ向き直る。


「何か、分からないっすけどありがとうございます!」


部屋を後にした優吾の背を博子は見つめていた。

部屋を後にした優吾の頭に声が聞こえてくる。


『渡せ……お前の身体を差し出せ……』


呪いの剣から聞こえてきた声だった。その瞬間、石が紫色に光り始めた。優吾はその瞬間、意識が遠のいた。


32:了

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