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33:龍

『体を差し出せ』


そんな声と共に俺は目を覚ます。目の前には黒く輝くウロコに覆われた紫の瞳の龍がいた。俺は立ち上がり、手足の動作を確認する。感触、感覚もあることを確認するとその龍へ近づこうと歩き出すが、龍は俺のことを睨み、近づくのを牽制する。その気迫と殺気に俺の体は震えはじめる。


「なぜ、そんなに体ほしいんだ?」


龍は、黒い炎尾に包まれ小さくなる。俺よりも少し高めの背丈になると黒く燃え上がった炎を振り払い人間になった姿で現れる。白髪、碧眼と紫のオッドアイで長身の外国人男性。その目は先ほどの龍と同じで気迫と殺気で満ちている。いや、気迫と殺気というよりも慌てている鬼気迫った様子というのが正しいのかもしれない。


『弟を生き返らせるためだ。』


「弟?」


男性は、静かにうなずき今まであったことを話し始める。邪龍を倒しその返り血の影響で呪いを受け、弟と決闘したこと。俺はその話で、男性の方を見て思わず話を遮ってしまう。


「あんたがドレイク=ジークフリート!?」


『あぁ、そうだ。というか、剣をもってその中にいる人間って言ったら私以外にありえないだろう?』


「いや、あんたと弟の決闘のあとの物語がないから、俺は驚いてんだよ!?」


誰も見ていない伝説の英雄とその弟の決闘のその後の話……気になる。


「決闘の後の真実はどうなったんだ?」


『いいだろう、丁度そこを話そうとしていたところだ。』


伝説の続きがその口から語られた。

ドレイクとドラゴの決闘。お互いの全力をぶつけるため、出し惜しみはなしと弟ドラゴが言い、ドレイクも得意の魔導を使ったが案の定龍化し、決闘は中止かと思われた。しかし、ドラゴはそんなことはおかまいなしに自身の全身全霊を出した。だが、当然、龍には勝てずドラゴはドレイクに踏みつぶされてしまった。魔力切れで龍から人へ戻ったドレイクは弟の亡骸を目の当たりにする。自分が殺した最愛の弟、その亡骸はどこか満足気で穏やかな顔をしていた。


『だから、私は弟を生き返らせるために剣に触れた人間の体を借りようとしていたんだ…』


「だからって、貸せねぇよ。というか、弟さんの亡骸がないのにどうやって生き返らせるんだよ。」


『そんなの簡単だ、私の体の情報を弟の物に書き換えればいい。だがそれには自分の封印を外から開けないといけない。』


どういうことだ?今のところ、弟を生き返らせるためには自分の体の情報を書き換える方法しかないって言ってたのに……


「すまねぇ、意味がわかない。」


『つまりだ。外にある君の体に私の意識を送り込み、封印を解く。この魔導式は外から、私自身の手でしか開けきれないようになっているからね。』


何だ、そのめんどくさいセキュリティ。


「意味は分かったが、それでも俺の体には魔力がないんだぜ?俺の体を借りたとして魔法や魔術が使えるのか?あんた。」


ドレイクは俺の顔を見ると口を開けて唖然としている。


『そんな……君には魔力がない……?』


膝から崩れ落ちると両手を地面へつき絶望する。


『せっかく、コンタクトが取れたと思ったのに……魔力がないなんて……』


「あぁ……絶望してるとこ悪いけど、世界の危機なんだわ。行ってもいいか?」


俺が踵を返してこの空間から出ようとするとドレイクは慌てて止める。


「なぁんだよ……」


『待ってくれ…せめて、君の呪いは解呪しよう。』


「いや、解呪できんのかよ」


『剣を握った時の呪いは、というか、呪いに見せかけた魔術は私が体に乗り移りやすいようにするためのものだ。龍の呪いではない…』


ドレイクが俺に近づき、頭をわしづかみにすると体中の龍の刺青がどんどん吸い取られていった。


『これで、元通りだ。ほら、行きたまえ。世界の危機なら仕方がない。』


俺は踵を返すとドレイクの叫び声が聞こえた。またなにか伝え忘れか何かかと後ろを振り向くとドレイクはしりもちをつきその前には誰かが立っていた。ドレイクとよく似た背格好なのだが、ドレイクよりも老けた背筋が伸びている男性だった。ドレイクはその男性に駆け寄り抱きしめる。


『ドラゴ!ドラゴだろ?なぁ!?』


老人は抱きしめ返し強くうなずく。


『あぁ、兄貴!俺だ。ドラゴだ!』


その兄弟を見守るのは様々な背格好の男女だった。顔ははっきりと見えないが、白

赤、青、緑と色とりどりの人達だった。一人が俺に気づき近づいてくる、白を基調とした服は物語に出てきそうな魔法使のように、低い背丈ながらもその雰囲気からは幼いではなく、大きいと相反する感想が出てくるオーラ感。


『初めまして……でもないですね……』


聞き覚えのある声に思いだそうと頭をひねる。えっと……誰だっけ?そして、唐突に思い出す。


「初めて魔装したときの声だ!」


『はい、そうです。私、無の大魔導師ことロゼ=ハイラント=クリスティと申します。他にも炎、水、風、龍の大魔導師がおりますよ。』


「でも、なんで……」


ロゼは少し考え、ドレイクとドラゴの方を見て口を開く。


『そうですね…我々の最後のピースを埋めに来たと言った方がいいですかね…』


「最後のピース?」


『はい、完全な魔装戦士のための最後のピースです。』


完全な魔装戦士?ってなんだ?


『龍の剣があって完全な魔装戦士ですよ………さぁ、世界を救いに行ってください。』


「は?」


言葉の意味が分からずに俺の意識はそのまま戻された。


────────────


優吾は警鐘が鳴り響く廊下で我に返ると辺りを見渡す。直立のまま気を失っていた優吾はその場にしりもちをつきすぐに立ち上がる。石を見ると紫からいつもの青色に戻っていた。そして、ロゼに言われた”龍の剣”という単語を思い出し、緊急事態なのに本部中を走り回る。だが、目当ての物はない。そのまま諦めようと出て行こうとしたとき、廊下の曲がり角でぶつかる。しりもちをつき何にぶつかったのか見上げるとそこには黒影がいた。


「えっと…黒影さんでしたっけ?」


「あぁ…そうだ。丁度よかった。君を探していたところだ…」


そういうと黒影は鞘に収まった呪いの剣こと龍の剣を優吾へ渡す。


「あ、これ…」


「君には絶対必要なものだ。さぁ、行け。」


優吾は剣を手に持ち、装飾の球体を石にあてる。頭の中にドレイクとドラゴが仲良く肩を組んでこちらにピースをしていた。優吾は目を開けると、黒影と目を合わせて静かに頷く。


「ありがとう。黒影さん!」


すれ違った黒影は、優吾の背を目で追い、警鐘が鳴る廊下をその背が見えなくなるまで見つめていた。


33:了

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